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学校司書によるABD体験会にお邪魔しました!〜中学校ABD番外編

いつもお世話になっている塩尻中学校の司書、N先生にお誘いいただき、市内の司書研修を見学させていただきました。なんと、3年間私のABDを側で見ていた司書先生が自らABDを企画し、ファシリテーションまで行ってくださるという!
3年間やってきて初めて、自分以外の人にABDを広められた気がしました…!
これはもう、見に行くしかありません。

今回は自主研修ということで、塩尻市内の小中学校の司書教諭の皆様が参加されていました。N先生以外はABD未体験です。
会場では大人しく見学のつもりでしたが、経験者枠で急遽混ぜていただけることに。久々に受講する側でABDに参加してきました。


読んだ本について

読んだ本はこちらの、『10代から知っておきたい 女性を閉じこめる「ずるい言葉」』です。

前段である『あなたを閉じこめる「ずるい言葉」』は、以前の授業で中学校と読み、ダイアローグが盛り上がった、思い出深い本です。
続編となる今作は女性向け。今回、参加者全員がたまたま女性ということで、こちらの本が選ばれました。

用意されたサマリー。今回は10人で挑戦です。

いよいよ体験会スタート

N先生の導入では、ABDのサイトからマニュアルをダウンロードいただき、それに沿った説明が行われました。加えて、普段私がABDをやるときに伝えていることをそのまま伝えてくださっていました。(「本の内容をそのまま書く」「本音で話す」とか)
近隣でABDをやっている人は少ないため、マニュアルに基づきながらも、少なからず「私がやったABD=ABDのやり方」になってしまう側面に気づき、改めて自分の責任の重さも感じました。

ただ、やり方がいつもと同じおかげで、私にとっては完全アウェイ参加のはずが、ホーム試合気分で参加できました。

緊張しながらも、初めてのABD導入をやってくださった先生、お疲れさまでした!

会を進めていくと、さすが大人、中学生の授業とは違うところがたくさんありました。例えば、コ・サマライズ(要約)が全員時間ぴったりで終了できる。リレー・プレゼンでは、短い発表時間に合わせて、書いた内容をそのまま読むのではなくてさらに短くして発表できる。ダイアローグではファシリテーターが頑張らなくても、自分たちでまとめたり、話したりできる。
このあたりの経験値の高さは、さすが大人です。

さらに今回の選書が良かったこともあって、ダイアローグでは自分たちの経験も交えて盛り上がりました。

例えばダイアローグでは「女性を閉じこめる言葉の一つひとつに、どのように対処するか?」というテーマが設けられていました。メイクをしていないと「女を捨ててるね」と言われた場合、「どこに捨てたらいい?」という返答のアイデアには、他の参加者からも感嘆の声が…!

実際の本のページを貼り付けて議論をしていたグループ。

また、普段自校で子どもたちと接する先生としての視点からも感想が挙がりました。例えば「男の子なんだから泣かないの、という子どもへの声がけは果たして適切だったのだろうか」など。
今回は女性を対象にした言葉を中心にした本でしたが、その逆、男性を閉じこめる言葉もあります。今回のABDは、無意識に言いがちなひとことを振り返るきっかけにもなりました。

先生たちの感想

本の内容と、ABDそのものの感想を一緒に話したグループ。

ダイアローグでは、ABDそのものへの感想をあげてくださった先生もいました。全体的な感想が気になった私は、最終的な感想でそのほかの先生たちにも無理やりあげてもらうことに成功しました!無茶振りに真摯に答えてくださった先生方、ありがとうございます…!

その感想は、大まかに書くと下記のような感じでした。

  • たった2時間で本の内容がわかる!

  • ABDをやった後に、改めて本を全部読みたくなる!

  • 小説よりも実用書が向いてる?

  • うまくやるには、ABDは結構難しい。でも楽しい!

1回の体験でも、ABDのいくつかの要素を掴んでいただけたようです。
皆さんの感想を聞きながら、「ふむふむ、そうだよな」と思っていました。実際のABDの感想はともかく、とくに中学校向けのABDの設計に関しては、たくさん補足したいことがありました。しかし短い研修時間の中で伝えられることは少なく、こうして伝えきれなかったことを残しておこうと思いました。

・たった2時間で本の内容がわかる!
・ABD 後、本を全部読みたくなる!
これらは、ファシリテーターとしても言葉にしていなかったにもかかわらず、参加者から自然に出てきた言葉です。しかし、これこそがABDの魅力の一つ。言葉にせずとも伝わっていたのは、会がうまく進行できた証拠であるように思います。

・小説よりも実用書が向いてる?
ABDをやっている皆様ならご存知だとは思うのですが、ABDはもちろん小説でも可能です。ただ、中学校でABDをやる時には小説を選んでいません。それは子どもたちに対して、「自分では多分選ばないけど、読んだら面白い本」に興味を持って欲しいという個人的な思いが大きいです。
私は、言葉を選ばず言えば「読むのが面倒くさい本」こそ、ABDでやる価値があると思っています。
小説や話題書は、一人でも読む人はたくさんいるでしょう。特に、塩尻中学校は朝読書の時間などもあって、読書好きの生徒が多い学校です。でも、世の中には自分が読まないジャンルや、作家の本がたくさんある。
読んだことのない本を、読む前から、苦手だと思って欲しくないのです。そのあたりは、私の本屋としてのスタンスと同じかもしれません。

本に限らず、学校の校則とか、行政の⚪︎⚪︎計画書とかは、むしろグループで読む方が価値がありそうです。そういうグループで読む体験をしたい文章であれば、小説や実用書だけでなく、本でなくともABDは有効なツールです。

一人分の読むページは少なくとも、本全体の内容がわかります

・うまくやるには、ABDは結構難しい。でも楽しい!
私の中で年々強くなるのが、ABDをやることで「スキルを上げる」ことは正直おまけだな、という思いです。要約スキルはもちろん、プレゼンができるとか、対話に抵抗がなくなるとか、スキルが上がった子どもたちはたくさんいる一方で、私がやりたいことのメインではないのです。
私がやるABDでは「自分が普段読まない本で、自分がその時考えたことを、普段しゃべらない人たちと話す」ことが全てです。この経験から学べることが第一です。

そして今回分かったのは、この点は、大人も同じだということ

私は、要約もプレゼンも、苦手意識がある人にも「とりあえずやってみて」とやらせるし、コミットを要求する、かなり厳しめなファシリテーターだと思います。普段使わない頭の回路を使うので疲れますが、終わってみると、本の内容がわかってスッキリするし、達成感もあるし、それでいて楽しい。そういった、何かわからない魅力がABDにはあります。

私がやろうとしているABDは、参加者にコミットを求める代わりに、自分が知らなかった世界と出会い、自分が意識していなかった自分と出会うことを目指すものだと、改めて感じています。

SNSでは見えない「他者」を見る

最近、SNSの炎上や誹謗中傷について関心があります。というのも、私がSNSで追っているアニメのファンの中に、製作者や声優さん、同じファンに対して、攻撃的な人を見かけるのです。
SNSのアルゴリズムは、自分が興味あるものを抽出し、自分にとって心地いい画面を作り上げます。そこにふと、自分の意見とは違う、自分にとって心地よくない情報が入ってきた時に、自分から見える世界を「綺麗にしよう」として、そうしたものを排除することがあります。そのやり方が、「そういう人もいる」とそっと非表示にするだけならまだ良いのです。異物感を放つコメントや人物を正そうとして、その人に「あなたは間違っている」と意見する。だんだん、自分の意見と違う人を見かける度に、許せなくなる。そうすると簡単に、誹謗中傷に走ってしまいます。

そもそも世界も人々も多様です。自分が心地よいものしかない世界は存在しない。いろんなものが流れ込み、混ざり合うのが世界です。
学校でも、会社でも、合わない人はいる。それは当たり前なのですが、SNSの画面を見ていると、ついそのことを忘れそうになります。

今回の研修では、ABDは、他者の存在が目の前にいることを思い出させてくれる、貴重な機会であることを思い出しました。
また今回初めて自分のABDのやり方を振り返ることができ、中学生であろうと大人であろうとやりたいことは同じということに気づきました。
この情熱を忘れないうちに、また一般的なABDのやり方も忘れないように、近々大人向けABDも企画しなくては、と思います。

機会をくださった塩尻市の学校司書の皆さま、本当にありがとうございました。

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