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まいこ・ザ・ジャンパー 2

承前

プライベートモビリティで都市と山、そしてまた都市の上空を飛翔し、十と数分。到着に先駆けてその姿は既に見え始めていた。
「これはまた、予想以上に」
大型ビル程度と予想していた自分の想像を一瞬で塗り替える、郊外型商業施設がまるごと入りそうなほどの巨大なアーキタイプ……すなわち船殻は、街であったはずの領域をすべて飲み込み、薄い盆状のクレーター中心部に鎮座ましましていた。

『カザキリさん、着きましたか?』
「ああ、視認はしている」
ちょうどよくマルシャから通信が入る。
「住民はどこに?」
『大半はあの中です』
「取り込まれたのか!?」
『いえ、自主的に』
そういうことか。と言う意を込めつつ、画面に視線をやりながら緩やかに螺旋を描いて降下へ移る。
『お祝いですよ。新しい【チャイルド】の誕生に、自分の街から出た喜びに、皆一言祝福を述べたいんです』

「管理局、風切順也です。【チャイルド】に接見しに参りました」
あまりに大きいので比較的チャイルドに近そうな地区に俺は降り立ち(初めての経験だ)、黒山の人だかりを散らすべくホログラフ身分証を掲げながら市民の群れへと歩み寄る。
「すげえ! 本物だ!」
すると逆に、取り巻き後ろ側のチャイルド順番待ち中市民がこちら側へとターゲットを移した。なんでだよ。
「やっぱ本当にチャイルドなんだ~」
「まあそうでもないのに街が消えたらゲキヤバでしょ」
「わかる」
「記念に写真撮れ写真。ホロって写るかな?」
わいのわいの
「ただの役人を珍しがるんじゃない! 極論単なるおっさんですから。ほら通して通して! あと写真もコピーも出来ないホロ身分証は一枚の提示でほぼ全ての公的機関(例外あり)の本人確認書類になりますので皆さんも切り替えをお願いします!」
一喝、というほどでないにしろ、その言葉は効いたようでようやく俺はチャイルドへの道を開けてもらえた。

【続く】

資料費(書籍購入、映像鑑賞、旅費)に使います。