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階層別研修を「通過儀礼」で終わらせない方法

皆さま、初めまして。私は1999年創業の企業研修、人材開発・組織開発に関するコンサルティングサービスを展開している(株)マネジメントパートナーの人材・組織開発コンサルタント、関 教宏(たかひろ)です。


今日は、最近 立教大学 中原淳教授も指摘されている(※http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/13201)階層別研修の意義や仕掛け方について、私たちがどのように考えているかお伝えすることで、

階層別研修を効果的に行いたいとお考えの人事ご担当者様、階層別研修の投資対効果を高めたい経営者、経営幹部の皆様にとって、行動のヒントになる話ができればと思っています。


1.階層別研修が「行き詰まっている」

まずは私たちがここ数年、階層別研修を実施しているお客様から伺っている主な声をご紹介します。

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貴社ではいかがでしょうか?もっと泥臭い内容としては、ある人事課長のこんな本音もあります。

「営業部門や技術部門の幹部クラスの方々から”この業績の苦しい時に、わざわざ時間と経費を使ってやるようなことか?”と言われ、この会社にとって人事の存在価値って何だろう…って考えちゃいました」

これらの声は、従来発想で階層別研修を設計することの行き詰まり。つまり根本的に階層別研修を改革する必要性を物語っていると考えます。

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ではなぜ行き詰まっているのか?

私たちは、階層別研修を実施する前提となる「社員教育に対する発想」と「研修の組み立て方」が従来から変わっていないことが行き詰まりの背景にあると考えています。

2.従来型の「社員教育に対する発想」と「研修の組み立て方」

では、行き詰まりを迎えている従来型の「階層別教育における社員教育の発想」と「研修の組み立て方」とは何か?整理していきたいと思います。

(1)階層別研修における社員教育の発想

階層別研修を企画する際、ご担当者がまず真っ先に手がかりとするのは現在の人事諸制度(等級、評価、報酬)だと思います。

これら人事諸制度との連動を最優先して、「新任管理職研修」ですとか「主任研修」というように研修メニューを展開していくという発想です。

そして、教育機会を平等に提供しようと、「◎等級△年目の人は必ず○○研修に参加」というルールを作って必ず全員に機会が回るような仕組みにしている企業も少なくありません。


しかし、この考え方そのものに「行き詰まり」があるのではないでしょうか。


このように考える理由は2つあります。


1)人材が多様化する中で「現在の等級」と「積むべき経験」がチグハグになっている

経営環境がこれまでにないスピードで変化している市場の中で、

管理職待遇の中途入社者(DX人材や新規事業推進者などのスペシャリストも含まれる)、一般職だった方が総合職に登用される(等級は中堅クラス)等、

これまで新卒一括採用しかしてこなかったという企業にも大きな採用・登用の変化が起こっています。

そうすると、「主任なんだからそろそろ後輩の面倒をみないと」ですとか「もうすぐ管理職になるのだから、全体を仕切る経験をさせよう」といった従来は一般的であった発想に対し、

「そもそも自分の後輩がいない」「立ち上がったばかりの部署で、管理職ではあるが人員は自分しかいない」等、「この等級だからこの経験をさせる」考え方そのものが通用しないケースが多くなっているのです。


2)すべての階層に対して均等に階層別研修を行うことに無理がある

SDGsで「質の高い教育をみんなに」と言っているように教育機会を平等に与えることの重要性には議論の余地がないと思いますが、実施するタイミングや優先順位を考慮することなく、とにかく全階層に均等に研修を実施しようという発想には無理があるのではないでしょうか。

例えば、業績が厳しい中で予算が縮小され、それでも全階層の研修を行おうとして、研修メニューの短縮、Eラーニングのみで手軽に済ませる等、明確な狙いがない中でその場しのぎの対応をしたところで効果が見込める可能性は極めて低いと言わざるを得ません。

また、昇格のタイミングで階層研修を実施するという慣例に縛られ過ぎて、次世代リーダーとして育成したい中堅層の教育に手がついていないといったミスマッチも各所で起こっています。

これら「チグハグ」「無理な仕掛け」から脱却するためにも、階層別研修は従来よりも意図的・計画的に仕掛けていく必要があると考えます。


(2)とかくありがちな階層別研修の組み立て方

1)各等級毎の区分けをしているので、その違いを明確にするために必要な知識、スキル、能力、コンピテンシーなどでその違いを細分化しようとする

人事評価制度等において、能力要件が細分化されているケースは少なくありませんが、その考え方を研修の組み立てにまで全て当てはめるとどうしても無理が生じます。

例えば「コミュニケーション」を階層別研修内のコンテンツに加える場合、

「3等級は"上長の指示を理解の上で適切な行動ができる"とあるから、聴き方について教えよう、4等級は"部署方針に則り自分の判断で周囲を巻き込んだ行動ができる"だから説得のスキルについて教えよう」と、

等級に連動して無理やり違う項目を導入するものの、実際の仕事現場で「3等級は聴くばかりで行動しない」「4等級社員の高圧的な説得に嫌気がさす」等、

ただ知識やスキルを細分化して教えるだけでは、組織が期待する方向に能力が発揮されない可能性があるのです。


2)人事担当者が変わるたびに、新担当者が独自性を出そうと、部分的に目新しいものを階層別研修に組み入れた「パズル」にし、階層別教育の全体思想との整合性を歪めてしまう

執筆時点(2021年9月)においては「心理的安全性」「アンガーマネジメント」等、所謂”旬”の人材に関するキーワードは常に存在し、その時々に新たな概念が登場しています。

確かにそれぞれの思想はその時の経営環境にマッチし、素晴らしいものなのですが、問題はそういった旬の考え方を部分的にのみ取り入れることです。

全体思想との整合性を軽んじると、例えば「心理的安全性」の考え方を無理やり階層別研修に取り入れ、「本音で話してください」と、本質と異なる理解だけが独り歩きし、そもそもその企業にあった思想(例えば”素直、謙虚、感謝”)が軽んじられるような意見交換がなされ、結局何の気づきもない研修になってしまうということが起こり得るのです。

こうしたことが連続して起こっていると、階層別研修の存在価値は組織の中でどんどん薄くなっていきます。


ここまで述べてきたように、チグハグな状態が続いているにも関わらず、根本的な見直しをすることなく表面的なことのみを修正していったとしても、そもそもの「行き詰まり」を解消することにはつながらないのです。


では、どうすれば階層別研修は「通過儀礼」に終わらないのか?

そのための「3つのポイント」をお話します。


3.階層別研修を「通過儀礼」で終わらせないための3つのポイント


私たちの考えとして、階層別研修を通過儀礼で終わらせないために、どのような視点で見直すべきか、3つのポイントをご提言いたします。

ポイント①「経営に大きな影響を与える時代背景」を踏まえた人材育成の視点

まず一つ目は、経営に大きな影響を与える時代背景を鑑みて、これからの時代において欠かせない人材とは何かを定義するという視点です。

日本の市場における変化を下記の通り整理します。

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つまり、これからの時代に必要な人材とは多様な人材を巻き込む「求心力」を前提に、新たな価値を創造できる人材ということになります。

このような人材を、私たちは「共創型自律人材」と定義しました。

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自分の責任は自分で果たすという高い責任認識の元、組織の期待役割をも掴み、期待以上の成果を成し遂げる自律人材の重要性は以前から言われてきたことですが、

そこに多様な人材、例えばデジタルに長けた中途入社者、かつての上司であるベテラン、正社員登用された女性社員等、様々な価値観の人たちに対する垣根を設けることなく自ら巻き込み、共に新たな価値を創造する「共創」の重要性が急激に増しているのではないでしょうか。

階層別研修を設計する前提として、そもそも今の時代背景を踏まえて、どんな人材が必要なのか定義する視点が必要と考えます。


ポイント②「期待される人材像」に沿った長期戦略的な人材採用・評価・登用・配置との整合性・一貫性を踏まえた視点

まずはこちらの図表をご覧ください。

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こちらの図は、経営と教育の一貫性、並びに各人事マネジメント施策同士の整合性を担保するために弊社が作成した教育体系の概念図です。上半分はここまでお伝えした通り、時代背景並びに自社のビジョンや中長期経営戦略を基に、これから必要になる人材はどんな人材か?定義することから始めます。

次に、目指す人材像に近づくためには、どのような成長を遂げるべきかを図の右下に記載した「4つの軸(本質=働きぶり、責任の大きさ、視座の高さ、見るべき時間軸の長さ)」で整理していきます。そして、期待される人材像に到達するためには、どんな仕事を経験すればその人の能力が開発され、それぞれのステップを登っていけるかを定義していくという考え方です。

こうした考え方を、私たちは真ん中矢印に記入しました「OBD(On the Business Development)人は仕事を通じて能力開発される」と呼んでいます。

そして左下、期待する人材像に合致する人を採用し、それぞれの成長段階における適切な経験をさせるべく配置、登用を行い、チャレンジを評価・奨励する人事諸制度を整備するというように人事マネジメントを一気通貫させた上で、受講者の成長経験を促進するための階層別研修を用意する。

このような視点を持つことで、階層別研修は「中長期経営計画に寄与する人材のストック」という明確な意義を持つことになります。

では、それぞれの段階において積ませるべき成長経験とは何か。こちらをご覧下さい。

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いかがでしょうか?ここに記入したのはあくまでも「職位イメージ」です。キャリアに関係なく、その方の「働きぶり」にフォーカスしています。つまり役職はなくてもサブリーダークラスの働きぶりの方もいますし、逆もしかりということです。

とかく、「現場でありがちな傾向」に苛まれ、成長が停滞しがちです。

さらに、先ほどお伝えした共創の概念を前提にすると、ステップを上るごとに巻き込むべき相手の範囲は広がっていきます(より多様な人材を巻き込む必要性が出てくる)

そして一番右に、それぞれの段階を上る為に、どんな仕事経験を乗り越える必要があるか?を「教育のポイント」として記載しました。

階層別研修を企画する時は、それぞれの働きぶり(職位イメージ)において、どんな経験をさせることが自社にとって最適解なのか?を定義した上で、そのために参加者が変革すべき行動様式をゴールとして研修やその前後の仕掛けを設計することが重要になります。


ポイント③研修と現場を切り離さず「三位一体」で取り組む視点

三位一体とは「受講者本人」「支える人(上司・経営陣・職場メンバー)」「組織環境」の3つです。

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例えば、研修を設計する際に、取り組む人もその上司も本気で研修に向き合えるように、経営計画に沿ったテーマをアウトプットとして求めるように研修を実施し、

且つ研修をきっかけにチャレンジ行動が起こったら評価や表彰等、それが報われるような場や制度改革といった組織環境づくりを、研修実施と同時並行で行なっていきます。

受講者の上司や関係者といった「支える」人達にはこの研修は何のために何に取り組むものか、支える人にとっての価値をアナウンスしたうえで、多忙の中でどう関われば効率的な支援につながるか具体的に示し、積極的関与を促す。

こうした全体を見据えた仕掛けを行うことで受講者ご本人の行動変容が起こる可能性が飛躍的に高まるのです。

これらをまとめると以下の通りになります。

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4.階層別研修の意義は「個人の成長」「風土改革」「経営計画の進捗」の一石三鳥

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ここまでお話した3つのポイントを踏まえて階層別研修を仕掛けることで、階層別研修は「通過儀礼」でなく、個人の成長が中長期経営計画に寄与する人材ストック、さらには組織風土改革や経営計画の進捗可能性を高めることにつながるという「一石三鳥」の意義を持つことになります。

階層別研修に行き詰まりを感じている方は、是非今回の内容を今後の仕掛け方のヒントにしていただければと思います。


なお、私どもマネジメントパートナーでは、この階層別研修の見直し方について、具体的なコースごとのウェビナーを行うことを予定しています。


ご興味がございましたら、下記のURLより是非お申込ください。


最後までご覧いただきありがとうございました。

ご覧いただいた皆様がありたい姿に向けて一歩踏み出すことを心から願っております。

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