災害の時に許せないことをする人に「精神病」と言わないで

令和6年能登半島地震で被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。また、お亡くなりになられた方々に謹んでお悔やみ申しあげます。被害に遭われた方々が一日も早く日常の生活に戻り、心身の傷が癒されることを心より願います。

この内容は所属組織とは無関係の個人の意見です。

お久しぶりです。東京大学・博士課程の大津高志と申します。現在は博士課程から休学をしてメンタルヘルスの治療を続けております。また、復帰に備えるためにリハビリとして少しでも研究において出来ることをしております。

今回は災害や一つだけですがお願いがあります。それは「災害の時に悪者に『精神病』『精神科に行け』のような発言をしないでほしい」ということです。それは被災者や支援者への侮辱と同等であると考えてください。


震災が起こるたびに様々な形で震災を悪用した詐欺やデマ、陰謀論が発生し、見かけるたびに深い悲しみに包まれております。
本日は駅前で「地震被害のため」と名乗って募金箱を持つ正体不明の集団を見かけました。

多くの方は怒りが止まらないことと思いますが、自分は「他者に向ける怒り」を見たり聞いたりすることを「自分自身に向けられている感情」と区別できずに混乱する体質のため、「悪者」だけでなく「悪者への中傷」を見ないようにしています。努力して見なければ心も口も汚れずにすみます。

自分は学部生の頃から長い間メンタルヘルスにおいて不調を抱えているため、精神科・心療内科を渡り歩いて「生きづらさ」や「苦しみ」に対処しています。今回は主題ではないので具体的には申し上げませんが、今は精神科に加えて臨床心理士による「チャンスEMDR」「ホログラフィートーク」という手法で改善を試みております。

自分の苦しみにについて少しづつ学んでいく中で、自分だけでなく、障害者の認定や病気の診断を受けている人達以外にも多くの人たちが苦しんでいること、そういった人たちを支援する人達(家族、医療関係者や心理士、様々な団体など)の苦しみや痛みについてほんの少しですが知ることが出来ました。

災害が起こると「生き残ること」が第一になるため、心の問題の支援が必要な方へのケアが遅れるのではないかと危惧しております。

震災による不安やPTSDだけでなく、避難所生活での集団生活によるトラブル、本来は医師や心理士による治療が必要ながらも中断せざるを得なかった方々など、自分の想像を絶する苦しみがあると考えております。
自分も十分な知識は無いですが、女性の方は例えば避難所で性被害、生理用品の不足、授乳時などのプライバシーなど直接の問題だけでなく、心の問題もあると思います。また、児童においてはストレスに対処するために「死にたい」と話したり反抗的な態度をとったりと心を守ろうとすることがあるようです。

様々な苦しみを抱えている人たちのことを考えて、「被災した方々の中でも精神に苦しみを抱えている人達はどうしているだろうか」「暴れるような患者たちはどう暮らしているのか」「精神障害者は差別されているだろうか」「現地のメンタルヘルスの専門家たちは現在は仕事が出来なくても生活できているだろうか」「アルコール・薬物依存の人達は耐え兼ねて悪化したり再発したりするのではないか」など心配になりました。

そのため、能登半島地震の被害に遭われた方々の中でも、特にメンタルヘルス関係者への支援の窓口を探すためにX(旧Twitter)を検索しました。

検索結果として現れたのは被災者や支援者への温かみの言葉ではなく、目を覆うばかりの罵詈雑言でした。
直視できなかったものの、簡単に申し上げますと「不謹慎・悪質な輩・陰謀論者は統合失調症などの精神疾患である、病院に閉じ込めろ、精神科を受診させろ」のような内容だったと思います。

Xは多くの意見が集まるSNSであり、ヘイトや反社会的なポスト(ツイート)の削除も全く機能していないため期待はしていません。
しかし何よりも耐えられなかったことは「現地の精神障害者のような当事者およびメンタルヘルスの専門家への支援」の窓口が検索上位に現れなかったことです。仮にあったとしても偏見と侮辱に満ちたポストとその賛同者たちに命綱が押し潰されたと感じました。
もう少しじっくり見れば支援窓口が見つかったかもしれませんが、精神が弱っているため諦めました。

XのようなSNSやネット掲示板では「正しくない相手は集団で攻撃するべし」という性質があり、「炎上」は良くも悪くも社会を動かすようになりました。
しかし攻撃される側に非がある「炎上」といっても、炎上させる側の集団が倫理的に正しいことは担保されていません。むしろ社会一般に広がる偏見について増強させていると考えています。

「悪質」と判断した相手でも、他者を侮辱して罵って賛同を集める行為は慎むべき、そのようなことを積極的に行う人物とは距離を置くべきだと考えています。ヒトの持つ共感能力は必ずしも人を幸せにするとは限りません。

先ほどのようなポスト(ツイート)は偏見を広め、支援の窓口を覆い隠すだけでなく、精神に問題を抱えている人、そのような人達をケアする人達、全てに対して悪影響を与えるものだと考えています。むしろ正義の仮面を被って下手に共感されやすいために非常に悪質です。

なかなか伝わりにくい話ではありますが、この投稿を見た人は近くの人に「嫌いな相手を『精神病』と罵ると、結果的に被災した人達や支援者に失礼になるらしいよ」と機会があれば伝えて貰えるとありがたいです。

心の苦しみは脳や神経だけでなく、『スティグマ(社会的なレッテル)』によるダメージでもあります。心に苦しみを抱えている人の周りの苦労もありますが、社会が変わることで減る苦痛もあります。

例え話として、「点字ブロックは予算の無駄使い」と思う人は少なくとも日本では少ないはずです。公言する人はほとんど居ないでしょう。社会が変わるには何世代もの時間がかかると思いますが、小さくても良くなることを願います。


最後になりますが、募金の支援として、「きょうされん」と「日本赤十字」を見つけました。どうかご支援お願いいたします。
また、他にも適切な支援の窓口を見つけたらコメントをよろしくお願いします。

金銭の支援はなくとも、少しだけでも「弱い立場の人」を痛めつけない、痛めつけることを慎む社会になることを切に願います。


きょうされん(旧・共同作業所全国連絡会)

成人を支援する作業所の全国組織です。

日本赤十字(令和6年能登半島地震災害の義援金)


自分はできるかぎり復帰および社会への貢献ができるように努力してまいります。
長い文章を読んでくださりありがとうございました。

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