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それは核兵器が人類滅亡の兵器で無くなったからである。


米国は1945(昭和20)年の8月6日と9日に、それぞれ広島と長崎に原爆を人類史上初めて投下し、合わせて十数万の市民と建物を一瞬で熱風焼却した。その時の核保有国は米国のみであった。世界は核で滅びるなとどは、誰も夢にも思わなかった。

それから17年後の1962年秋、当時米国と対峙した軍事大国ソビエト(ロシアを中心としたソビエト社会主義共和国連邦、略称ソ連)が、米国の直ぐ側に位置するキューバに、ミサイル基地を建設し核ミサイルを持ち込もうとした。これは米国がトルコに置いたミサイル基地への報復であった。米国は直ちに核阻止に動き、海軍を持って海上を封鎖して、キューバに向かう船舶の臨検を開始した。

米国の臨検に反発したソ連は、武力行使も辞さない構えになった。その刹那せつな、当時の若き大統領ジョン・F・ケネディは、直接対話手段を持たなかったソ連のフルシチョフ第一書記に届くことを期待して、テレビとラジオを使い国民向けにキューバ危機の現状を訴え、暗にフルシチョフに再考を求めた。

此の時、世界は既に広島と長崎の惨状を知っていたので、米ソが交戦すれば核戦争になり世界は滅びると震えた。しかし、米ソお互いのテレビやラジオを通じた情報発信と書簡の交換の後、トルコとキューバのミサイル基地を撤去することで合意し、キューバ危機は交戦すること無く終息した。

この後も米ソはひたすら核軍備拡張に走り、核を使えば双方とも滅びる所まで進んだ。そして、核は抑止力となり米ソによる直接交戦の可能性は無くなり、日本や欧州などの米軍傘下の民主主義国家とソ連軍傘下の共産圏東欧諸国との間で、戦争はできないとの認識が広まり平和が訪れた。核で平和が保たれたのだ。

しかし、1991年にソ連は共和国の解体で消滅した。これは抑止力としての核の均衡を崩した。更に、インドやパキスタンが核を保有し核の均衡は更に崩れた。インドとパキスタン或はインドと中国が、領土問題で軍事衝突して核を用いたとしても、世界は消滅しない。核が使われる可能性は高まっても、世界が核で滅ぶ可能性は減った。

インド、パキスタン、中国が国境沿いで核を使っても、世界は滅びない。しかも、核保有の三国は核の三竦さんすくみで、使おうにも使えない。彼らには核の均衡が存在する。一方、ソ連崩壊時にウクライナは保有していた核を放棄した。プーチンはウクライナが核を保有していたら、侵略できなかったろう。

今、ウクライナには核は無い。プーチンの脅威はウクライナを支援する欧米の軍事力である。プーチンが核を使っても、それは地域限定で、モスクワは核攻撃で滅びないし世界も滅びない。ここに、戦況が悪化すれば核を使う、と言う選択肢を独裁者プーチンが取るのは、全くあり得る話だ。

キューバ危機の余談だが、米国が海上封鎖する前に既にソ連の核が持ち込まれていた事が、ソ連崩壊による情報の流出で明らかになっている。何も封鎖で大騒ぎしなくとも、元々は米国が先に手を着けたトルコのミサイル基地とキューバの基地で、両者の核均衡で共存できた筈だ。ソ連が核で脅されていると言う不均衡が、キューバ危機を招いたとも言える。

世界は今、停戦、核廃絶の連呼で満ちている。しかし、安易に核の均衡を破れば、核が使用される可能性が高まる。プーチンに核を使わせないためには、抑止力としての核の原則、即ち「核を使えばロシアも世界も滅ぶ」と言うことを欧米は核の力で、プーチンに理解せる必要がある。独裁者ほど自分がかわいいので、自分が滅びる選択はしない。しかし、欧米側も核を使われれば、無条件に核で攻撃をすると言う覚悟がいる。今、プーチンは欧米はこの覚悟が無いと高をくくっている。極めて危険な状態である。安易な幻想平和は戦争を引き起こす。


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