廣澤敦子

声楽家。メゾソプラノ ドイツ歌曲、日本歌曲、童謡唱歌、そして声のことを書いていきます。

廣澤敦子

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最近の記事

ドイツ歌曲の話 マーラー Lob den hohen Verstandes 高い知性を誉める歌

魚に説教するアントニウスと並んで、皮肉、風刺、滑稽がキーワードとなる歌です。 さて、この歌の何が皮肉で風刺で滑稽なのか。 まず前提を知らなければなりません。 独和辞典を調べると、 ロバ = ばか と出てきます。 カッコウは ein Kuckuck unter Nachtigallen ナイチンゲールの中のカッコウ(玄人の中に混じった素人) というのが出てきますし、また英和辞典を見ると、カッコーは単調な鳴き声を繰り返すことから、キ◉ガイという意味があります。 ナイチンゲー

    • ドイツ歌曲の話 マーラー Wo die schönen Trompeten blasen 美しいトランペットが鳴るところ

      マーラーの歌曲集「子供の不思議な角笛」は大きく分けると ・レントラーなど牧歌的なリズムに乗った比較的素朴な内容のもの ・皮肉、風刺が効いたもの、滑稽なもの ・ミリタリー調のリズムを使った兵士にまつわる詩 の三つになるかと思う。 Wo die schönen Trompeten blasen、「美しいトランペットが鳴るところ」は、ひとつ目の牧歌調と、三つ目のミリタリー調が組み合わされた曲。 若い男と女、そして語り手からなる詩です。 実は「角笛」のふたつの詩を切り貼りして歌詞

      • ドイツ歌曲の話  マーラー Des Antonius von Padua Fishpredigt 魚に説教するパドヴァの聖アントニウス

        今日はマーラーの歌曲集「子供の不思議な角笛」から。 子供の不思議な角笛とは、同名の民謡詩集に作曲された歌曲集で、10曲からなります。この「魚に説教するパドヴァのアントニウス」は6曲目。 こんな詩です。 パドゥヴァの聖アントニウスとは パドヴァの聖アントニウスというのはWikipediaによると「カトリック教会で、失せ物、結婚、縁結び、花嫁、不妊症に悩む人々、愛、老人、動物の聖人とされている」ということです。パドヴァというのはイタリアの地名ですが、他にも聖アントニウスと

        • 歌曲はつらいよ

          と、思うのが、英会話レッスンで、初めて習う先生に自己紹介で「自分がクラシックの声楽家であり、歌曲を歌っている」という説明をする時。 日本でもなかなか分かってもらいにくいものです。「魔王」を例に出せばかなりの人は分かってくれるけど、あの歌はちょっと特殊。 しかしこれが外国人となると本当に分かってもらえない。魔王の例も役に立たない。もちろん私の英語力のせいもあるのですが。 先月東京に行った時、用が済んで時間が出来たので、飛び込みで英会話スクールの銀座校に行ってみました。チェ

          ドイツ歌曲の話番外編 冬の旅〜無伴奏混声合唱版 #3 第二曲 DieWetterfahne

          Die Wetterfahne. Wetterは英語で言えばウェザー、天気。Fahneは旗。 なので、いろいろな訳を調べるとこの曲の邦題は「風見の旗」としているものもよく見ます。 古くは旗であったらしいですが、Wikipediaで調べると「金属製」と出てきますし、画像検索しても旗は出てきません。 この千原版冬の旅では「風見鶏」というタイトルです。実はそうでなければならない理由があります。それは後ほど。 シューベルトのオリジナルではイ短調ですが、千原版ではト短調。前曲の属

          ドイツ歌曲の話番外編 冬の旅〜無伴奏混声合唱版 #3 第二曲 DieWetterfahne

          ドイツ歌曲の話番外編 冬の旅〜無伴奏混声合唱版 #2 第一曲 Gute Nacht

          24曲からなるこの曲集の第一曲のタイトルはGute Nacht (おやすみ) ここが旅のスタート。旅をするのは、ある青年。 彼はなぜ旅をするのか。そもそもこれは旅なのでしょうか。 彼はある女性に失恋します。片思いしていたわけではなく、彼女のお母さんが結婚を口にしたほどの仲。なのに。 彼はこの村ではよそ者でした。彼女と恋仲になることで、この村に受け入れられたとも思ったでしょう。しかし恋に破れた今、またただのよそ者として、この村を去っていくのです。 そんな「旅」のはじまり

          ドイツ歌曲の話番外編 冬の旅〜無伴奏混声合唱版 #2 第一曲 Gute Nacht

          ドイツ歌曲の話番外編 冬の旅〜無伴奏混声合唱版 #1

          冬の旅といえばシューベルトがミュラーの連作詩に作曲した24曲からなる歌曲集ですが、これから書く「冬の旅」とは、プロのアカペラ室内合唱団であるThe TARO Singersが千原英喜氏に委嘱し発表した無伴奏混声合唱曲に編曲された「冬の旅」のことです。(2010年6月27日、大阪のいずみホールにて初演)オリジナルのシューベルトの冬の旅の概要についてはWikipediaなどでお読みいただければと思います。 再演まで1ヶ月を切った今、この作品についてコンサートマスター、またアルト

          ドイツ歌曲の話番外編 冬の旅〜無伴奏混声合唱版 #1

          ドイツ歌曲の話 シューベルト Der Jüngling an der Quelle 泉のほとりの若者

          この曲を聴くとき、歌うとき、いつもその美しさに溺れそうになります。 8分の6拍子、イ長調。Etwas langsam (少し遅く) 私はシューベルトの水の表現が好きです。この曲ではピアノの右手はずっと16分音符でミソミソミソ.....と、小川が流れる様子を表していますが、日本語で言えば「春の小川はさらさらいくよ」のさらさら、というところでしょう。泉から流れ出す、水量の少ない、でも澄んだ水がその音とともに目に浮かびます。 主和音と属和音が主なシンプルで明るい音楽の中にひょ

          ドイツ歌曲の話 シューベルト Der Jüngling an der Quelle 泉のほとりの若者

          1989年東西ベルリン珍道中 #4

          審査官の指示で手下どもはまず、私の荷物をX線にかけた。 一応、カメラとフィルムは取り出させてくれた。そのくらいの情けはあるようだ。フィルムがX線にかかるとすべてパーになる。 そのあと、リュックを開いて私の荷物を全部調べ出した。 言っておくが私にやましいことなどない。だから堂々としていればいいのだが、 私の荷物を調べるのが若い兄ちゃん達だったのがとてもいやだった。なにより出発の時間が迫っているので気が気ではない。 私は言った。 「○時×分の列車に乗るんです!」 ………

          1989年東西ベルリン珍道中 #4

          1989年東西ベルリン珍道中 #3

          列車の発車する時間は近づいていた。だが、出国審査を受け、何か食料を調達したとしても十分間に合う時間。 私は彼らにもらったお金をしっかり握りしめ、出国審査へ。 ここではパスポートチェックの他に「東ベルリンで買ったもの」を書いて提出させられる。当時、東ドイツに入国するためには25マルク(だったと思う)の「強制両替」が必要だった。レートは西ドイツマルクと1対1。これはハッキリ言ってぼったくりも甚だしい、ありえないレートである。しかも一度両替したマルクが余ったからと言って再両替す

          1989年東西ベルリン珍道中 #3

          1989年東西ベルリン珍道中 #2

          さて、1番の若手君は渡仏してまだ10日ほど。なのにいきなりバカンスって(笑) 私、彼を見た時、見たことある人だなと思ったのだ。で、そうつ伝えると、こともなげに 「そりゃそうだよ、僕、藤が丘に住んでいたんだから」 藤が丘、私の大学の近所だ。私は大学構内の寮に住んでいたので、まさにご近所さん。駅前のミスタードーナツでだべっていたとき、隣にいたかもしれない人だったのだ。そんな人とベルリンで会うなんて!?と、私がすごく驚いているのに、彼は全然驚いていないのが逆に面白く思えた。

          1989年東西ベルリン珍道中 #2

          1989年春 東西ベルリン珍道中 #1

          1989年の3月末(ベルリンの壁が崩壊する半年以上前で、まだドイツが東西に分断されていた頃。)、ドイツはケルンでの語学留学を終えた私は放浪の旅に出るべく夜行列車でベルリンにやってきた。当時はまだドイツは東西に分断されており、ベルリンは東ドイツの中に飛び地のように存在していた。さらにそのベルリンは東西に分かれている、当時の私にはちょっと理解出来ないところだった。 途中、列車は東ドイツ領を通過するので、そのためにパスポートチェックと、あと、なんだか通過ビザとやらの料金を取られ、

          1989年春 東西ベルリン珍道中 #1

          暗譜(歌)

          いつも何かしら覚えなければいけない曲はあるけれど、リサイタル前となるとその量が凄まじい。 他の人はどうやって暗譜しているのだろう、とよく思うので、私の方法を書いてみようと思う。 歌が器楽と大きく違うのが、言葉、つまり詩があること。なので、歌の暗譜というと、まず歌詞を覚えるということが大仕事になる。 外国語の場合はとにかく意味をとらえること。知らない単語をなくす。辞書がなくても最近なら翻訳アプリを駆使しすればなんとか一語一語の意味に辿り着ける。意味を知らない言葉は簡単に忘

          暗譜(歌)

          ドイツ歌曲の話 詩人の恋 Dichterliebe #21 終曲、ドイツ名所めぐり

          いよいよ終曲。 四分の四拍子。嬰ハ短調。前曲の平行調。Ziemlich Langsam かなり遅く。 ジャーン! ジャジャーン! ジャジャーン! ジャジャーン! という大層な前奏に続くのは、♩♪♪という、民謡調のリズム。 なんか田舎のチャチな芝居小屋の幕が上がったような感じがする。 昔の忌まわしい歌って、あの彼女が歌ってた歌でしょうか。5番とか10番とかの。彼女はきっと歌が好き。 いまいましい夢、これはこれまで三曲も夢について歌ってます。 そいつらを葬ってしまえ!大き

          ドイツ歌曲の話 詩人の恋 Dichterliebe #21 終曲、ドイツ名所めぐり

          ドイツ歌曲の話 詩人の恋 Dichterliebe #20 目を覚ましたくない

          前の曲の下属調のホ長調。明るい調です。 八分の六拍子。Lebendig (生き生きと) 詩といい、調の変遷といい、狂っとる(笑) 昔、ドイツ語の先生(ドイツ人)がおっしゃってたことを思い出します。好奇心でマリファナを吸ってみた時の話です。青や赤の光がチカチカしただの、ぐるぐる回っただの、ちょうどこの詩のような感じ。 だから、これは夢なのか、ヤク中なのか、と思ってしまいます。いずれにせよ普通ではない詩には、普通ではない曲が似合いますね。 私、この白い手というのがどうにも引っ

          ドイツ歌曲の話 詩人の恋 Dichterliebe #20 目を覚ましたくない

          ドイツ歌曲の話 詩人の恋 Dichterliebe #18 夢で彼女は

          13番目の曲であるこの曲は前半はほぼアカペラ。歌と歌の間にピアノが入りますが、歌っているときは歌だけ。特殊な歌と言える。本来20曲あったのをカットしたりしているので、これが13番目になったのは偶然ですが、13番目にふさわしい曲だと思います。 変ホ短調、Leise(静かに) 前の曲と同じ八分の六拍子。 美しい後奏の最後の音と同じ、シ♭から始まるので、無伴奏とはいえ、歌いやすく作曲されています。 真っ暗闇でつぶやくように 「夢の中で泣いた」 シューマンの時代は夜は暗くて、蛍光

          ドイツ歌曲の話 詩人の恋 Dichterliebe #18 夢で彼女は