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ドイツ歌曲の話 マーラー Lob den hohen Verstandes 高い知性を誉める歌

魚に説教するアントニウスと並んで、皮肉、風刺、滑稽がキーワードとなる歌です。

むかしむかし、とある深い谷間で
カッコウとナイチンゲールが
歌のコンテストをすることになった。
名曲を一曲歌ってうまく歌えた方が勝ち、名誉ある賞を得ることにした。

カッコウは言った
「君さえよければだけど、もう審査員は選んであるんだ。」       
そしてロバを審査員に指名した。

「だって、彼は大きな耳が二つあるからとってもよく聴くことが出来るし、
良し悪しをよく知っているからね。」

ふたりは審査員のもとに飛んで行き事の次第を説明した。
ロバは、では歌ってみろ、とのたまった。

ナイチンゲールはとても美しく歌った!

ロバは言った
「君の歌を聴いているとワケが分からなくなってくる……イーヤー! イーヤー! 難しすぎる!」

かっこうはすかさず歌い始めた
3度、4度、5度の音程もバッチリ
これがロバのお気に召し、彼は言った。
「待て待て。それでは成績発表じゃ。」

「ナイチンゲールよ、君は良く歌った!
だがカッコウよ、お前は讃美歌をうまく歌った!
拍子も正確に保ち続けた!
私のこの高い知性にもとづいて言うならば
これは一国全体程の価値があると言えよう
カッコウよ、お前の勝ちじゃ!」

カッコー! カッコー! イーヤー!

さて、この歌の何が皮肉で風刺で滑稽なのか。
まず前提を知らなければなりません。

独和辞典を調べると、
ロバ = ばか と出てきます。
カッコウ
ein Kuckuck unter Nachtigallen
ナイチンゲールの中のカッコウ(玄人の中に混じった素人)
というのが出てきますし、また英和辞典を見ると、カッコーは単調な鳴き声を繰り返すことから、キ◉ガイという意味があります。
ナイチンゲールは美声、歌が上手いという例えによく使われます。
日本でも「あなたの声はウグイスのようだ」とか「ウグイス嬢」という表現がありますね。ナイチンゲールはウグイスと訳されることもありますが、全くの別物で、日本には生息しない鳥です。

つまり
美声の代名詞のようなナイチンゲールと、〇〇の一つ覚えのようにカッコウとしか鳴けないカッコウが歌で競い合い。そしてその審査をロバ(ばか)がしたら、カッコウが勝ってしまったというお話。

この歌の何が皮肉で風刺で滑稽なのか、お分かりいただけましたね。これを人間界に当てはめてみてください。

さて、この歌の中に三回出てくる「イーヤー!」これは原詩にはないので、マーラーが付け加えたようです。
これはロバの鳴き声です。ロバも日本ではあまり馴染みのない動物ですよね。「おはようこどもショー」にロバくんというキャラクターはいましたし、私は子供の頃奈良ドリームランドでロバに乗ったことはあるんですが、なんというか童話の中に出てくるキャラクター的な扱いでしかなくないですか?日本の生活には密着していないというか。

で、ロバの鳴き声、これがなかなか強烈で、英語だとヒーハー!ともいうようですし、ドイツではイーヤー!とか、イーヨー! そういえば、くまのプーさんに出てくるロバのぬいぐるみの名前はイーヨーですね。ロバの鳴き声もYouTubeにあったのでどうぞ。せっかくだからドイツのにしました。


このお三方、音楽ではどう表現されているかというと、まずカッコーは前奏で早速出てきます。その後もちょくちょく顔を出します。

カッコー!カッコー!

ナイチンゲールはピアノで美しく。カッコーに対して長いフレーズ。

左手でカッコウが鳴いているような気がする...

ロバは…..

イーヤー!イーヤー!奇声を発するレベルです(笑)

この歌、言葉も多いし、テクニック的にも大変で、でも面白いから歌ってみたくて、若い頃この歌を十八番にしていたワルター・ベリーの講習会に持って行きました。歌うのに必死でレッスンに値しなかったと思うんですが(苦笑)教えてくださったのは顔芸。ここはこんな顔で!みたいな。必死な顔してたんでしょうねえ。
楽譜に書き込んであります。このほかにも何ヶ所か。大事な思い出です。

「もう審査員は選んであるんだ」の箇所。



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