ドイツ歌曲の話 マーラー Wo die schönen Trompeten blasen 美しいトランペットが鳴るところ
マーラーの歌曲集「子供の不思議な角笛」は大きく分けると
・レントラーなど牧歌的なリズムに乗った比較的素朴な内容のもの
・皮肉、風刺が効いたもの、滑稽なもの
・ミリタリー調のリズムを使った兵士にまつわる詩
の三つになるかと思う。
Wo die schönen Trompeten blasen、「美しいトランペットが鳴るところ」は、ひとつ目の牧歌調と、三つ目のミリタリー調が組み合わされた曲。
若い男と女、そして語り手からなる詩です。
実は「角笛」のふたつの詩を切り貼りして歌詞を作っていますが、
「そのとき遠くでナイチンゲールが啼き出した。」
ここだけは原詩にはなく、マーラーの創作です。
さてこの詩には
・戦地へ行く兵士が恋人のもとを訪れる。
・戦死した兵士の霊が恋人のもとを訪れる。
この二つの解釈があるのですが、どちらが正解というより、マーラーの夢かうつつか、な音楽に包み込んで曖昧にしておくのがいいように私は思います。
ニ短調 2/4拍子 夢見るように、静かに。
先ほど書いたように、ミリタリー、軍楽調なモチーフと、牧歌的なところがあるんですが、どの部分がミリタリーで、どこが牧歌か。調性と合わせて整理してみました。
こう整理してみると、三カ所ある男の部分の初めの二つが牧歌調というのはなんとも言えない優しさ、愛情を感じさせますし、マーラーが書き加えた「そのとき遠くでナイチンゲールが啼き出した」というところで、ナイチンゲールの声ではなく遠くで鳴るラッパの音を重ねるのは意味深であり、悲しみを増幅させているように思います。
また、2/4はこの曲では基本的にミリタリーなのに、
女の「よく来てくれたわ、そんなに長い間立っていたのね?」のところだけはそうではない。あえて「牧歌」と書きましたが(他にどう書いていいか分からない)ここも非常に美しく、愛に溢れ、また彼女のホッとした気持ちも感じられるところ。2つの原詩を読んでもそこまでのイメージは私には持てませんでした。マーラーが二つの詩を組み合わせ、曲をつけたことでここまでのドラマが生まれたのだと思います。
また、ニ長調、ニ短調がメインであるところで遠い遠い調への転調が、夢なのか現実なのかを分からなくさせているのでは。ちなみに転調の仕方が絶妙。
「角笛」の中でいちばん好きな曲です。
学生時代、N響アワーかなんだったかで「角笛」をやっていたのです。
そこで聴いて心奪われた曲。クリスタ・ルードヴィヒだったと思う。