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男性にこそ知ってほしい「マタハラ」の話

「えっ、プロジェクトもこれから佳境だっていうのに、産休と育休取りたいって!? 何考えてるんだよ、まったく。みんなの迷惑も考えないのかね」

mezameキャリアコンサルタントの東 公成です。

部下に女性を持つ男性の皆さん、冒頭であげたような言葉は職場においてはアウトだということはもうおわかりでしょう。こんな言葉を投げつけられたら、当然ながら女性はひどく傷つきます。

ところが、マタニティハラスメント(以下マタハラ)は法律によって明確に禁止されているにもかかわらず、いまだに後をたちません。

「これくらいないならO Kだろう」という加害者側の誤解や自覚のなさ、そして「なぜそのひと言がマタハラになるのか?」を理解していない人が、いつまでも一定層存在することが大きいのではないかと考えられます。

マタハラはされた人のこころに深刻なダメージをあたえ、場合によっては流産や早産の原因にもなりえます。

女性にとっても、そして男性にとっても働きやすい職場とするためにはこうしたハラスメントを根絶しなければなりません。マタハラを絶対に起こさないためにはなにが必要でしょうか?

想像以上に発生している「マタハラ」

まずマタハラについて正しい知識を持つこと。
今回の記事はそのことを目標にします。

毎日の報道では、パワハラやセクハラ関連に比べてマタハラに関するニュースは少ないように思います。しかし実態はどうなのでしょうか?

職場におけるセクハラ、マタハラに関わる相談件数
 ●マタハラ 12,,701件
 ●セクハラ  7,323件
(各都道府県労務局 令和元年)

実は、職場で発生したマタハラにかんする相談は、セクハラよりも圧倒的に多いのです。

また、2015年11月に厚生労働省が発表した調査では、(妊娠した女性のうち)正社員の5人に1人、派遣社員の2人に1人がマタハラ被害を受けたとの結果が出ています。
実際には相談することすらせず泣き寝入りしたり、一人で抱え込んでしまっているケースもあわせると、相当な数にのぼると推察されます。

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改めて…「マタハラ」ってどういうこと?

職場のマタハラとは「妊娠・出産・育児休業の取得などを理由とする解雇、雇止め、降格や職場内での不利益取扱いや嫌がらせなどのこと」です。

その「不利益取扱い」については、男女雇用機会均等法と育児・介護休業法で次のように定義してされています。

妊娠・出産・育児休業の取得などを理由として、、、
- 解雇すること。
- 期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと。
- あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること。
- 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規雇用社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと。
- 降格させること。
- 就業環境を害すること。
- 自宅待機を命ずること。
- 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと。
- 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと。
- 不利益な配置の変更を行うこと。
- 派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと。
- 労働者が希望する期間を超えて、その意に反して所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限又は所定労働時間の短縮措置等を適用すること。(育児休業等の申出・取得等を理由とする場合)

法律の話が出てきましたので、条文もみておきましょう。

男女雇用機会均等法第9条第3項においては次のように定められています。

事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、その他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

育児・介護休業法第10条においては、次のように定められています。

事業主は、労働者が育児休業の申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

平成29年1月に「男女雇用機会均等法」が改正され、法律上、企業に「マタニティハラスメント防止のために必要な措置」(マタハラ防止措置)をとることが義務付けられました。

就業規則に明記している企業も多く、この機会にみなさんの会社の就業規則をご確認されることをお勧めいたします。

マタニティハラスメントの裁判事例

では、具体的に裁判にまで行った事例を見てみましょう。以下に挙げたケースでは、すべて会社側が敗訴しています。

1. 副主任の女性Xが妊娠したので、使用者であるY生協は、女性Xを労基法65条3項による「軽易な業務」への転換を求め、Y生協も転換したが、その転換に際して、勤務先であるY生協は副主任を免じ、さらに産前産後休業、育児休業終了後に復帰しても副主任を任じなかった。(降格、不利益取扱にあたります)
2. 育休後に職場復帰を申請したところ、インドへの転勤または収入が大幅に下がる職務のいずれかを選択するように迫られ、どちらの選択肢も断った結果解雇された。
3. 客室乗務員として働いていた女性が、妊娠を機に地上での勤務を希望したにも関わらず、無給で休職させられた。
4. 妊娠を聞く前は契約更新を前提にしていたが、妊娠の報告を受けたので雇い止めとした。
5. 育休を1年間取りたいと相談されたので、経営悪化等を口実に解雇した。

これらのケースはある意味極端でわかりやすいものですが、実際に起こっているマタハラの中には、巧妙化したものも増えているようです。

例えば、ネットの相談サイトである「Yahoo知恵袋」には、マタハラに関する相談が2,000件を超えていて、目を通していくとかなり悪質なケースも多く驚きます。対策が進むことによって「見えにくいマタハラ」が拡がる実態もあるのでしょう。

mezameから男性のみなさんへ

女性の妊娠・出産は本来は当たり前なことです。少子高齢化で人口が減少していく日本にとって、赤ちゃんの誕生はありがたいこと。女性には安心して出産に臨んでほしいと思います。ここについては異論はないでしょう。

一方で、組織にとって大切な戦力である女性が妊娠・出産・育児によって職場を離れることは、人事戦略上悩ましいことも理解はできます。
しかし敢えて言うならば、戦略に長期的視点が欠けているがゆえに問題になることなのではないかとも感じます。

女性が産休・育休を取得することはデフォルトとして想定し、女性社員が仕事をしながら安心して妊娠を継続できる職場環境、子育て家庭が仕事と両立しやすい職場環境を整えていく。そのことが、今後は強くしなやかな組織となるうえでも必要なことではないでしょうか。

⚫近視眼的に目先のことだけ考える。
⚫女性の妊娠・出産という自然のサイクルを理解しようとしない。
⚫育児に限らず病気や介護などで、誰もがはたらき方に制限がかかる立場になる可能性を想像しようとしない。
⚫そして、女性の健康とキャリア形成を考えようとしない。。。

こうした組織風土が、いつの間にかマタハラが生まれる環境を作ってしまいます。

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マタハラのなかには、女性から女性に対しておこなわれるものもありますし、産休・育休を取得する女性が自分の権利ばかりを主張し、他のメンバーから大変な不興を買ってしまった例もあります。
しかし、今回はまずはたらく男性にマタハラについて知っていただきたくこの記事を作成しました。

赤ちゃんや子どものいない社会、女性がいない会社、人口がどんどん減っていく国。ーー考えただけでも恐ろしく悲しいです。

女性の妊娠・出産を当たり前のこととして受け止め、子どもの有無や性別にかかわらず、お互いが敬意と思いやりを持ってカバーしあえる職場こそ、本当に働きやすい職場であるといえるでしょう。

思い当たるフシがある方、ぜひご自身の言動を振り返ってみてください。

■ 文/東 公成(あずま・きみなり)
国家資格キャリアコンサルタント、DiSC認定トレーナー、プレゼンテーショントレーナー、女性の健康経営アドバイザー


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