見出し画像

人生の大転機を乗り越えるには?〜はたらく女性が知っておきたい更年期③

「更年期シリーズ」も3回目となりました。
更年期症状が“更年期障害”と診断されるほど深刻でない人でも、この時期に心身のコンディションに気持ちを向けることは、すべての女性にとって大切なことです。
それは、40代~50代にかけての心理的、社会的特徴が、女性の人生にとってどのような時期にあたるのか、どのような意味を持つ時間なのかということと密接な関係があります。

社会人としての“集大成”時期にあたる更年期

ワークスタイルにもよりますが、組織で長い間はたらいてきた女性なら、すでに部下を持ってチームをマネージしている方もいると思います。
50代前後は、会社員にとってはキャリアの集大成にあたる時期、部長職など責任があるポジションへの昇進を打診されたり、最後の異動、最後の転籍など大きな辞令がおりることがあります。

ご自身にはなくとも、パートナーにそのようなキャリアの転機が訪れたり、少し年上の夫がいる人であれば定年退職を迎えるなどして、夫婦関係や暮らし方が変化したりする人も少なくありません。
これまで手塩にかけて育ててきた子どもが、就職や結婚などを機に独立して家を出たり、両親や親族の介護がはじまる、親しい人が鬼籍に入るなど、喪失感をともなうライフイベントも起こりやすい時期です。

このような変化が連続することで、ライフプランや家族関係の見直しをしたり再構築をしたりする必要に迫られる時期。身体的にも精神的にもストレスがかかりやすい状況になります。

“老い”の自覚や不安がこころに及ぼす影響も大

上記のような環境変化に加えて、“閉経”という象徴的なからだの変化が起こることから、「自分はもう若くない」と老いに直面して寂しさを感じたり、「このままで老後は大丈夫なのだろうか?」といった焦燥感を感じるようになる人もいます。

老眼が進んでこれまで見えていたものが見にくくなる、なんだか物忘れがひどい、仕事での能力の限界を感じる、複雑な人間関係に疲れた…といったネガティブな変化を自覚することで、精神的な落ち込みや不安、負担が更年期症状の不定愁訴としてあらわれ、症状が引き起こされることも多いです。
うつ症状があらわれる人や、子どもの独立によって“空の巣症候群”に陥る人もいます。

「人生100年時代」といわれ、そこに照らせば、50代はまだ人生の折り返し地点に過ぎないのですが、こうした変化の連続にアイデンティティが揺らいでしまう人もいるでしょう。

以上のことからも実感していただけるように、女性にとって人生最大の転換期になりやすいのが更年期なのです。
何も知らない状態でこの時期に突入してしまうと、からだの変化や人生の転機、心理的・精神的な不安に翻弄されてしまいます。人によっては乗り越えることが難しい、危機的な年代になりかねません。

40代に入ったら、更年期を意識してキャリアプランやライフプランの見直しや、家族関係の再構築などに先手を打ち、60代以降もいきいきとはたらき続けられるように備えましょう。
ネガティブな変化が続く時期ではありますが、正しい知識を身につけて「人生の後半戦に向かって軌道修正するためのよいチャンス」と前向きにとらえられるといいですね。

【関連記事】更年期の特徴をわかりやすく解説しています

《豆知識》男性にも更年期はあります

ホルモン分泌量の急激な低下により、心身に影響が及ぶのは女性だけではありません。昨今は、男性の“更年期離職”にも注目が集まっています。

女性が女性ホルモン“エストロゲン”の減少によって更年期症状が引き起こされるように、男性も男性ホルモン“テストステロン”の減少が症状の引き金となります。
医学的には、late onset hypogonadism (=LOH症候群、加齢性腺機能低下症)といい、専門は泌尿器科になります。

▋身体的症状 …EDなど男性機能の低下、頻尿、のぼせ、倦怠感、筋力低下、頭痛、めまい など
精神的症状 …無気力、イライラ、不眠、精力減退、集中力や記憶力の低下、うつ症状 など
血液中の遊離テストステロン値正常下限値…8.5pg/ml

女性の閉経のように象徴的な変化が起こらないため、男性更年期は「老化かな?」とやり過ごして悪化するというパターンが見受けられます。
「AMSスコア」など、自分の状況を手軽に把握できる指標もありますので、気になる方は安易に年齢のせいにせず、ぜひチェックしてみてください。

閉経後は女性ホルモンが“分泌されない”影響が…

閉経し、その前後であらわれるホットフラッシュやめまいなどの自律神経失調症状が落ち着いても、ひと安心というわけにはいきません。

月経がなくなることで毎月の煩わしさからは解放されるのですが、エストロゲンが分泌されなくなることによって、これまでは発症リスクが少なかった病気にかかりやすくなる可能性が高まります。

・血管をしなやかに保つ
・血圧の上昇をおさえる
・骨量を担保する
・皮膚や髪などを艶やかにする etc.…

生殖機能にかかわるだけではなく、エストロゲンには上記のような働きをすることがあきらかになっています。
閉経してエストロゲンの働きかけを失うことにより、こうした身体機能を維持してくれるメリットもなくなってしまうのです。

閉経以降、とくに注意してほしい病気として、今回は「骨粗鬆症」「尿失禁」「動脈硬化」についてお伝えします。

《骨粗鬆症》

女性の骨量は20~30代をピークに少しずつ減っていきますが、更年期を境にエストロゲンの働きかけがなくなると急速に減少します。
骨粗鬆症はとくに女性には起こりやすく、厚生労働省がまとめた高齢者白書によると、要介護となった原因が「骨折・転倒」だった女性は男性の倍以上という調査結果も出ています。

過度なダイエットをした経験のある方、妊娠していないのに無月経だった期間があった方などは、もともと蓄えている骨量が少ない傾向があるのでとくに注意が必要です。日頃から運動不足気味の人、飲酒や喫煙の習慣がある人も気をつけましょう。
カルシウムやビタミンDを意識して摂取したり、ホルモン補充療法を試みたりすることで、予防につなげることができます。

《尿失禁》

エストロゲンの減少は、膀胱粘膜や括約筋の萎縮、骨盤底筋群の緩みも引き起こし、尿意のコントロールを困難にすることがあります。

更年期以降に起こりやすい尿失禁は、重い荷物を持ったりくしゃみをしたりした拍子におこる「腹圧性尿失禁」と、急に強い尿意をもよおしてトイレに間に合わないことが続く「切迫性尿失禁」、双方が同時におこる「混合性尿失禁」に分類されます。
※尿失禁はエストロゲンの減少のほか、出産回数にも影響を受けます。

尿失禁の一番の問題は、本人から自信を奪い、外出に消極的になるなどQOLを下げてしまうことです。外出をしなくなると筋力も衰え、骨量の減少にも拍車がかかってしまいます。

最近は、さまざまなタイプの吸水パッドが発売されるなどして、中年期以降の尿もれは誰にでも起こりえるという認識が広まってきました。薬物療法などで改善することもあるので、気になる人は早めに婦人科や泌尿器科を受診するようにしましょう。
腹圧性尿失禁の場合は、骨盤底筋体操を続けることで(検索してみてください)ある程度の症状改善が望めますので、セルフケアの一環としてぜひ続けてみてください。

▲「橋のポーズ」として知られているヨガのポーズにも骨盤底筋を引き締める効果があります

《動脈硬化》

エストロゲンには、血管をしなやかに保ち、脂肪の分解をしやすくして動脈硬化を予防してくれる働きがあり、閉経前の女性のからだには、男性に比べて生活習慣病が発症しにくいという特徴がありました。

更年期以降はこうした“女性ホルモンのお守り”がなくなってしまうため、動脈硬化をはじめ、脂質異常症、糖尿病、高血圧といった生活習慣病発症のリスクが高まります。
動脈硬化は、心筋梗塞や脳梗塞といった重大な病気の危険因子になりますから、閉経後の生活習慣にはとくに注意を払ってほしいです。

更年期を上手に乗り切って人生の後半もいきいきと

かつて、平均寿命が短かった頃は、亡くなる前に更年期や閉経を経験する女性は少数でした。
しかし時代は大きく変わり、人生100年時代といわれるようになったいま、更年期は人生の折り返し地点。閉経を迎えても、更年期が終わっても、まだ40年程度の人生が残っています。

この長い人生の後半戦をいかに健やかに過ごせるかは、現代女性の大きな課題。知識を身につけ、受診をはじめとした的確なセルフケアを行っていくことは、その後の健康寿命の長さにもかかわってくることです。

健康もキャリアもそれまでの自分の積み重ねです。
20代、30代の方も「まだ自分には関係ないから」とやり過ごさず、「いずれ自分も通る道」ととらえて備えていきましょう。
知っている人と知らない人、備えている人といない人では、仕事のパフォーマンスにも暮らしの豊かさにも大きな差が出てきますよ。

■文/西岡 笑子(にしおか・えみこ)
順天堂大学 保健看護学部 看護学科 母性看護学領域 教授。医学博士・助産師。東京大学医学部健康科学・看護学科卒業後、聖路加国際病院看護師・助産師、順天堂大学助教、神戸大学准教授、防衛医科大学校教授を経て、2022年より現職。母性看護学・助産学とウィメンズヘルスが専門分野。女性の健康・セルフケアについて広く発信し、“mezame”では、女性向け研修を監修。2児の母

(構成/阿部 志穂)

mezameは「健康」と「キャリア」の両輪で
はたらく女性を支えるプログラムです

さんぎょうい株式会社が提供する“mezame”は、産業保健師と国家資格キャリアコンサルタントがタッグを組み、

*女性の健康知識とキャリアプランニングの基礎研修
*ライフステージ別・職級別のオーダーメイド研修
*従業員個別のキャリア面談によるモチベーションアップ

をおこなうキャリアサポートプログラムです。
女性特有の周期的なからだの変化、年代やライフステージごとに変わっていく役割、体調、かかりやすい病気…。

ウィメンズ・ヘルスをふまえて“はたらく”を考えれば、女性従業員のパフォーマンスは今以上に向上し、女性自身もなりたい自分、叶えたい人生に近づくことができます。

女性活躍推進や健康経営施策としても最適なmezame。
経営者、人事・HRご担当のみなさん、ぜひ導入をご検討ください。

▼▼ 詳しくは下記リンクより。資料の無料ダウンロードができます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?