1週間会社に行けるのは、ここに来るからなんです。
初めてレギュラーでクラスを担当したスポーツクラブさんにいらしていた、寡黙なおじさまのことが忘れられません。
まだヨガのクラスに男性が来るのが少数派だった15年前。
金曜の夜という、スポーツクラブではちょっと静かな時間帯。
みんな飲んで帰るのかな、そんな金曜夜に
毎回、静かに真面目に後ろの方に参加されている方。
スポーツクラブの会員さんは明るくてフレンドリーな方が多く「先生〜」と前後に話しかけてくださる方が多かったです。
そんな中で、誰とも友達になるでもなく毎週金曜の夜に静かにやってくる寡黙な男性。とても品があって知性的で、硬いお仕事をされてるような感じがしました。とても真面目そうで、明るいスポーツクラブとも似つかわしくないけれど、ヨガとも雰囲気が違う。
私のクラスは誰でもOKの雰囲気ではありましたが、当時はまだヨガ=オシャレなイメージがあって、ヨガは流行りが好きな明るい女性が溢れていました。
やはりその男性は、ピシッとしたスーツで帰られるのをお見かけしたことがあり、真面目そうな方でした。
ある日、とても人数が少なくて、少しだけ始まる前にお話をしたんです。当時私もまだ20代で、指導にも慣れてないですし、皆さんの前に立って1人で喋るというのは未体験で、到底上手にはできませんでした。
きっと会員さんと喋るのも下手だったと思います。
少ない人数で、マニュアル通り進むのも変ですし、思い切って参加される方に話しかけながらクラスをしました。
「ここに金曜の夜に来る、ということで1週間がチャラになるんです。この1時間があるから私は1週間会社に行くことができるんです。本当に助かっています」
と初めてその方の声を聞きました。優しくて品のある声でした。
でもストレスで体も心もいっぱいいっぱいなのがその声と共に伝わりました。
20代のへなちょこヨガインストラクターの初めての担当したクラスにきっと大きな仕事を責任の重圧の中で真面目にしておられるおじさまが
「助かっている」
と言ってくださった。
帰り道、グッと心が強くなったことを覚えています。
ヨガは、たった1時間で大変な1週間をチャラにしてくれて翌週も行くことができる。そんなすごい時間なんだと、私は、大きな心でここを開いていないといけないなと思った記憶があります。
好きなことを仕事にしてしまうと、突然「仕事」でしかなくなる時があります。仕事になった次点で夢が叶ってしまうというか。当たり前にできてしまうかのようなプロ気取り。その気持ちをとても反省して、
私自身がヨガに出会い、助けられた時の気持ちを絶対に忘れずに毎回新鮮な気持ちで真摯に仕事に向かえるようにしてくれた
おじさまの一言でした。
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