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ついやってしまう体験のつくりかた

ついやってしまう体験のつくりかた
人を動かす「直観・驚き・物語」のしくみ
玉樹真一郎



上半期に読めた本の中でも、特に満足度の高かった本です。
著者の玉樹さんは、元任天堂企画開発者。
Wiiの開発に関わった人で、
「Wiiのプレゼンを最も数多くした男」と言われております。


内容は、タイトルの通り。
ついやってしまう体験のつくりかたです。

長く遊んでもらうために。
最後まで遊んでもらうために。
ゲームを開発する人たちの工夫・デザイン方法が紹介されています。
参照されているのは、スーパーマリオやドラクエといった日本人なら誰でもなじみのある有名ゲームばかり。
楽しくデザイン法や、ストーリーの展開法を学ぶことができます。




人を引き付けるコンテンツを作るためにはどうしたらいいんだろう…


と思って読むことにしたのですが。
どちらかというとコンテンツの作り方よりも、ストーリーテリング技術について得るところが大きかったです。
デザインや情報伝達の話が中心だけど、物語を作るひとにも有益かもしれません。

「物語の書き方」の指南書は巷にたくさんあるけれど、個人的には興味のある内容でも、どうも好きになれないジャンルです。
「映像化されることを念頭に置いて書きましょう」とか、「どんでん返しをいれると話が面白くなる」とか。
なんだかすごく人工的で、創造性とはかけ離れている白々しさを感じてしまうからです。
ストーリーって、理屈じゃなくて、結構直感とか閃きによって生まれるものなんじゃないかと思っている…



けれども、この本では、楽しい物語を作るための理論や仕組みを、そういった人工的ないやらしさを感じさせることなく教えてくれます。
そう感じる理由は、おそらく、この本が示している理論が、単なる決まり事や、トリックの羅列ではなくて、「人の気持ちに注目する」ことから派生しているからだと思います。


体験デザインとは、人の気持ちを考えること。



ついやってみたくなる体験というのは、おもしろい体験ではない。
大事なのは、シンプルで簡単であること。

「こうしたらなにかがおこるんじゃないか」という気持ち(アフォーダンス)を掻き立て、それを試行したくなるような環境をデザイン(シグニファイヤ)する。

たとえば、マリオの顔には髭が生えていますが、あれは適当に生えているのではなく、彼がどちらの方向を向いているかをプレイヤーに知らせるための重要なデザインなのです。

右を向いている…右に行けば何かがあるのではないか。

という直感的な仮説に基づき、右に動かす。
するとクリボーという敵が現れ、平凡な風景にアクションが加わります。

私の仮説はただしかった!という嬉しさに繋がり、思わずどんどん進めたくなってしまう。
その結果、副産物として生み出されるのが、面白い!という感情なんですね。

直感のデザイン:仮説→試行→歓喜! 

このように、デザイナーはプレイヤーの真理の流れを考えて、ゲームを作っているそうです。

こういった○○のデザインというのがいくつか提唱されていて、これらの技を巧みに組み合わせることによって、ゲームの物語は作られているんですね。

技を可能にするためには、人の心理がどのように動くのかを知り尽くさなければならないと書いてありました。
ただ、面白いなーって遊んでいただけだけれど、そこまで考え尽くされているとは、驚きでした。





いろんな工夫がありますが、印象に残ったのはロールプレイングのゲームで説明されていた神話とゲームの類似性です。

多くの神話の物語構造と、ロールプレイングのゲームに共通していることは、「最後は家に帰る」ということ。

結局旅に出る前の状態に戻るから意味ないじゃん…

と思うかもしれないけれど、じつは大きな意味がある。

主人公の旅を通して、プレイヤーはいろんな体験をします。
気の合わないキャラクターがそばにいたり、「一方が生きれば他方が死ぬ」みたいな、現実世界ではありえない極限の選択を迫られたり。


大事なのはその体験を通して培った心の動きは、本物であること。

スタート地点である家に戻ることで、環境は変わっていなくても、気持ちは大きく成長している!

ということに気が付くんです。

本物の旅行でも、小説を読んでも同じ作用があるような気がするけれど、ゲームでもこういう効果があることは発見でした。


ゲームって少しマイナスなイメージがあると思うんですよね。
ゲームばっかりして!と怒られた体験、誰しもがあるのではないでしょうか。くだらないとか、時間の浪費とか、なにか犯罪的な心理を促進するものとして語られることもありますよね。

だけど、これを読むとそうではなくて、物語を通して自己を成長させてくれる物でもあるということに気が付きます。
ゲーム自体に持つ印象もがらりと変わりました。


 それから、この本が魅力的なのは全体を通して、読者が楽しめるような工夫が紙面に凝らされているところですね。
ページをめくったら答えが現れるとか、ん?と思うような仕掛けがされていたりとか、ただ書いて印刷しました!って感じではなく、ページと内容の進行がかなり緻密に調節されています。
言うだけじゃなくて、実行して見せつけてくるところがすごい。素敵。



あまり書店では平済みにされてないけど、推したい一冊です。
秋葉原の書店に行ったら、唯一激推ししてて、土地柄なのかさすがだなと思いました。
おすすめです。











余談

私のゲーム経験。


初めて遊んだのがまさにスーパーマリオでした。
ぎりぎりスーパーファミコン世代です。
父のお古がもとから家にあって、遊んでいた感じ。
マリオも好きだったけど、ドンキーコング2が楽しくてよくやってました。
BGMがとても好き。

そのあと、小学1年生くらいの時にファミコンのテニスゲームで初めて父に打ち勝ち、ゲームキューブを買ってもらいました。

ピクミンとどうぶつの森が大好きでした。
(自分の不手際でピクミンが食べられちゃうのの辛すぎた・・・)
近所の子はもれなくどうぶつの森を持っていて、メモリーカード持参でおうちに集まり通信しまくってました。


いとこたちが遊びに来た時に、コントローラーが一つしかなくて、変わりばんこに遊んでいたら、見かねた父が3つもコントローラーを買ってきてくれたことが今でも忘れられません。
一人っ子なのに、コントローラー4つ持ってる自慢…(笑)

その後DSが出てきて、DSライトもよく遊んでました。
Wifiが登場し始めた時期で、私は引っ越したこともあり、仲の良い友達と離れてしまったことが長いあいだ苦痛でしたが、遠方同士でも通信できる!ということにとても救われたのも覚えています。

こうしてみるとall任天堂。
たくさんお世話になりました。





最近はゲーム離れが著しく、近年のゲーム事情がちっとも分かりません。カセットじゃなくて、ダウンロードなの?とか、Wifi通信にもお金がかかるの?とか、びっくりすることばかりです。
すごーくたまにゲーム実況とかみて、見て楽しむ側になってしまいました。

名越先生のゲーム実況で、「リトルナイトメア2」というゲームをやっていて、ちょうど昨日完結したんですけど。

おもしろすぎた…。

RPGでやっぱりこれにも物語があって。
いろんな謎、解釈ができるようになっているんですけど。続きが気になりすぎて、違うゲーム実況者さんのプレイを先に見てしまいました。
結末が衝撃的で見てるだけなのに引き込まれてしまいました。
そして追いかける形できく名越先生の解説も、先を知っていると、的を射すぎていて、とても預言的で、震えるという…。

この本でゲームの作り方を学習したうえでみると、今のデザイナーさんのすごさも実感できます。見る目が変わる。
マリオの頃は2次元だったけど、いまは3次元と言うのか、左右だけではなく前後にも移動できるんですもんね…
空間や表現が広がった分、デザインで誘導していく技術も進化しているということなんですね。

たかがゲーム、されどゲーム。
奥が深いです。



お読みいただきありがとうございました。

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