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今こそSCREAM!!

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“metanoteシリーズ”の最初のオリジナルストーリー、 『今こそSCREAM!!』という作品になります✨ 約2年間、誰もが感じてきた自分を表現すること、 人と繋がることがで… もっと読む
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【第16話】 全音符のような夕日が、二人を照らしていた

 本村は、朝のホームルームでラップを披露しようと決めた。  鬱々とした毎日を送っていた高校生の頃、救ってくれたのはラップだった。だけど、教師になった時、それは封印した。やっと叶えた夢、同僚や周りからどう思われるか、正直気になったのだ。  もしかしたら、それが高島の言ったことだったのかもしれない。  教師になったから変わってしまったのではなく、二つを両立するのだと夢見ていたことを諦めてしまった時から、少しずつ変わってしまったのかもしれない。  “SCREAM!!” がそれを気づ

【第15話】 キラキラした朝の光は、どこかCDの輝きみたいだ

 VRのライブハウス “SCREAM!!” からマリンは部屋へと戻ってきた。  時計をみると、朝6時過ぎ。カーテンが窓の外からの光を溜め込んでいて、シャッと音をたてて開けると、放たれたように勢いよく差し込んできた。「きれい……」初めて、朝日が清々しいものに感じた。  マリンの母が準備してくれた朝食のグラノーラを食べながら、思い切って「歌いたい」と伝えてみた。  すると、「やっぱりね」と母が微笑んだ。「やっぱりって?」と聞くと、  「だってマリン、小さい頃から歌うのが大好きだっ

【第14話】 歌おう。真っ白な世界に色を塗るように、声で絵を描くように

 曲のイントロが聞こえてくると、まるで太陽が昇るみたいに気分が満ちてくる。  どこにも行き場がなかった憂鬱な思い、悶々と渦巻いていた濁った感情が、トンネルの向こうで信号が青に変わるのを待っているようだ。  さあ歌おう。真っ白な世界に色を塗るように、声で絵を描くように。  その瞬間、滞っていた感情は、出口を見つけスピードを上げて飛びだして行く。  「なんて気持ちいいんだろう」歌っていると体の中が浄化されて新しい綺麗な水が流れ込んでくるみたいだ。  横にいたアキの声も、リズムを纏

【第13話】 音を立てて “再生” ボタンが押された、そんな気がした。

 マリンは自分の中で動き出した何かを感じながら、深く息を吸い込んだ。 頭の中では、キラーAの言葉がぐるぐると巡っていた。  「どこかへ行きたいって、なんで思うのか。どうして今の場所じゃダメなのか。新しい場所に行けば、きっと見たことない自分に会えるって思ってるからじゃないかな」  そうだ、ずっと思っていた。どこか知らない遠くへ行きたいと。  それは見たことない自分に、新しい自分に会いたいっていう気持ちだったんだ。  「つまり、変わりたいってこと……。アキも一緒だったんだね」  

【第12話】 息を吸うのは吐き出すため、大声で叫ぶためだ

 ステージの上で何かトラブルが起きたみたいだ。  小突きあったり掴みかかったり揉めているのが、離れたところからでもなんとなくわかった。順番にステージに上がっていた客のマイクの取り合いがきっかけらしい。  「あ〜あ、盛り下がっちゃった」  「何ケンカしてんだって感じ。せっかく楽しかったのに」  近くでそんな声が聞こえてきて、マリンは心にチクっと何かが刺さった気がする。みんな一緒に楽しんでたのに、なんか自分のことばっかり。  SNSでも感じることがある。みんなつながりを求めている

【第11話】 新しい場所なら、きっと見たことない自分に会える

 ステージに上がって思い切り叫んでいる人たちがなんだか楽しそう、と思ったのは事実だ。だってなんだかみんな達成感に満ちた顔をしているのだ。  だけど、じゃあ自分が同じようにやってみるかと言われると、話は別だ。そんなことできない。隣にいるアキを見ると、彼はまたしても両手をクロスさせ×を作っていた。ほら、やっぱり彼だって同じだ。  なのにキラーAは、「そう? 二人とも上がりたそうだけどな」と言うのでマリンは思わず、「なんで? どこがですか?」と語気を強めてしまった。アキも目をまん丸

【第10話】 ステージで叫んだ人たちは、みんな晴れ晴れとした表情だった

 しばらくたって、制服の男子が作ったバツの意味がわかってきた。どうやら今日のイベントは、バンドが出てきてライブをするのではないらしい。  DJが流す音楽をバックに、集まった人たちが次々にステージに上がっていく。そして順番にマイクを持つと、好きなことを叫んでいた。これはお客さんもステージに上がる人も境のないイベントなんだ。  中には、マイクを持たずにただ絶叫しているだけの人もいる。それもありのようだ。  マリンは、その様子をしばらく呆然と見つめていた。ステージで叫んだ人たちは、

【第9話】 音楽って魔法だ、一瞬で世界を変えてしまう

 え、なんで?無視しなくてもよくない? 思い切って声をかけたこともあって引き下がれないのと、ここで彼に見放されたらますます居場所がなくなってしまう気がして、マリンはもう一度声をかけることにした。  「初めて来たんだけど、ここ不思議だよね。どうやって知ったの?」  しかし男子は、振り向いたもののまたしても返答なし。  「ちょっと!」彼に向けた言葉が2回連続で虚しく宙に浮き、さすがにそう言いそうになる。  だがその時、彼がメモに何かを書いてスッとマリンに差し出した。  「え、なに

【第8話】 ここにくれば何かが変わりそうな気がした

 やっぱり、ってどういうこと? 彼の言葉とちょっと見透かしているかのような微笑みにマリンはなんだか恥ずかしくなった。  興味ないですって言いながら、実はどこかで気になっていたのがバレていたのかと思うとちょっと悔しい。  男はキラーAと呼ばれていた。恥ずかしさをごまかしたくて「あなただって相当怪しいですよ!」とか言いそうになったけど、その言葉は飲み込んだ。  ここにくれば何かが変わりそうな気がしたのだ。というと大げさかもしれないけれど、なにかきっかけになるかもしれないと思ったの

【第7話】 海の深くへと潜っていくような緊張感が心地いい

 マリンが “SCREAM!!” の前にやってくると、今度はシャッターが開いていた。 開かれたままのアリスの扉に少し屈むようにして入ると、階段を降りていく。  コツンコツンと足音が響くたび、マリンのドキドキは大きくなった。  この下に、いったいどんなことが待っているんだろう。なにもわからない知らない場所、まるで海の深くに潜っていくような緊張感が妙に心地いい。階段を最後まで降りきると、「受付お願いします」とスタッフらしき女の人に声をかけられ、えっ、と動揺する。  だが、名前と年

【第6話】 全開なんて無理だけど、ほんの隙間くらい心を開けておいてもいいんじゃないの

 「アキって、そういうとこあるよな」  放課後、教室のベランダに出て下校する生徒たちの姿を見ていると、横にいたモリヤがそう言った。  「そういうとこ?」とアキが聞くと、モリヤはグランドを見たまま、なんか他人を寄せつけないっていうか壁を作るみたいな……そういうとこ?と言った。  モリヤとの出会いは中学に入り、同じクラスになったことだった。出席番号で並んでいたことから話すようになり、背の高さや体格がほとんど同じように成長したこともあって、なんとなくそのまま一緒にいるようになった。

【第5話】 引き出しから漏れる光は、抑えきれない好奇心のよう

 「なにこれ……光ってる……?」  今まで真っ白だったはずのカードが、CDのようにキラキラといろんな色を湛えながら、光を放っていた。カードにはQRコードのようなものが浮き上がっている。  「連絡するってこういうこと!?」  マリンは、気づくとそれを読み込ませようとしている自分にハッとして、いやいやいや、ダメだダメだ、と慌てて止めた。確かに、あの男の人はなにか危害を加えるような怖さはなかったし、悪い人ではない気がしたけれど、あんな、シャッターの奥に地下へと続く小さなドアとかどう

【第4話】 “再生”ボタンを押して音楽を聴くのが好きだ

 マリンの部屋には両親から譲り受けたCDとプレーヤーがある。  もちろん、音楽はスマホから好きなだけ聴くことができるし、YouTubeなら曲だけでなくMVだって見れる。  だけど、プラスチックのケースからCDを取り出し、スーッと機械に飲み込ませると、“再生”ボタンを押すのがマリンは好きだった。  今日はあの曲が聴きたい、と決めている時もあれば、ただその時の気分で、可愛かったり目を引くデザインの一枚を引っ張り出したりもする。  「この辺は全部ジャケ買いなんだよね」いつだったか、

【第3話】 どんより雲が広がった夕方の空は、大人になっても変わらない

 「先生には僕の気持ちはわからないと思います」  最近様子がおかしいからと放課後教室で話しを聞こうとした男子生徒にそう言われ、本村はドキッとした。それは自分が高校時代、教師に対して思っていたこととまったく同じセリフだったから。  こういう時、だいたい次にどう言われたかも覚えている、そして今度は自分がそのセリフをなぞってしまいそうな気がして、ギリギリのところで踏みとどまる。  「俺も高校の頃はそんな風に思ってたから、無理にとは言わないけど」そう前置きをして、窓の側に立っている生