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【第8話】 ここにくれば何かが変わりそうな気がした

 やっぱり、ってどういうこと? 彼の言葉とちょっと見透かしているかのような微笑みにマリンはなんだか恥ずかしくなった。
 興味ないですって言いながら、実はどこかで気になっていたのがバレていたのかと思うとちょっと悔しい。
 男はキラーAと呼ばれていた。恥ずかしさをごまかしたくて「あなただって相当怪しいですよ!」とか言いそうになったけど、その言葉は飲み込んだ。
 ここにくれば何かが変わりそうな気がしたのだ。というと大げさかもしれないけれど、なにかきっかけになるかもしれないと思ったのは確かだった。
 それにしても、お客さんはどんどん入ってくる。
 「すごい人ですね」マリンは偶然カードを拾ってここにいるけれど、みんなどうやってこの場所にたどり着くんだろう。と不思議に思った。
 「キミと同じ高校生もいるし」とキラーAに言われて見ると、ステージの反対側に制服っぽいブレザーの男子がいる。ライブハウスでちょっと浮いてるな、なんて思いながらふと自分の姿に目を移すとマリンも制服を着ていて、思わず「うわっ!」と声がでた。
 急に落ち着かなくなってきて、高校生らしいその男子の近くへ向かう。仲間意識というわけではないけれど、今この空間の中では自分に一番近い気がしたから。
 「あの、高校生だよね? 私も……」マリンが声をかけると、男子が振り返った。
どこかで見たことがある気もしたけれど、マスクをしていない顔なんてみんなそんなものだ。「よかった〜、仲間がいて」とホッと息をついたとき、確かに振り返ったはずの彼は、なにも言わずプイと向き直ってしまった。