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幻想の音楽通信 Vol 11

Lucy Gooch - Rushing EP

ブリストルを拠点に活動するLucy Goochのこれが初作品である「Rushing EP」が、 Past Inside the Presentからリリースされました。Lucy Goochが5つのアンビエントとドローンの網目を掻き分けシンセとポップを用いたヴィジョンで示されたサウンドは「My Lights Kiss Your Thoughts Every Moment」のGrouperやJulianna Barwickに対するエピゴーネンとしての客体化された方法を踏襲するのではなく「アンビエントとドローンの結節点からの模索の歩み」を現しています。「Sun」ではHave a Nice Lifeの「A Quick One Before the Eternal Worm Devours Connecticut 」に流れる「停止の循環」がLucy Goochならではの方法でGrouperやJulianna Barwickに共通する透徹した主体性が表現された作品です。


Mutant Joe - Operation Chaos

オーストラリア出身のエレクトロ/ラガ・ジャングルアーティストであるMutant Joeの新作がNatural Sciencesからリリース。今作はメンフィスラップとホラーコアを主軸に持つFreddie Dreddとトラップ/トラッド・アーティストのYvnccの参加したEP作品。本当に掴み所のない楽曲で覆われていますが1曲目の「Hokus Pokus」では、90年代後半にゲットー・ハウスがインダストリアル・テクノとのエッセンスを結合した事で確立していったジャンルゲットー・テックとIn Trance 95に見られる頽廃した世界に鳴るミニマル・シンセのリズム、「What U Thinkin」でのマイアミ・ベース(1980年中期から後期にヒップホップからの影響を受けてダンス主体にマイアミを中心に確立したジャンル)とMutant Joeの特色の一つであるエレクトロの奇妙な交配、「Knick Knack」では類型的なラガ・ジャングル的サウンドの中に混じるフットワークサウンド、「Like a Blunt」では、近年の緩やかなシンセウェイヴの流れ(個人的にはニコラス・ウィンディング・レフン監督作品「ドライヴ」を契機に少しずつ波及していったと推測)と、Freddie Dreddの特色メンフィス・ラップ性がバラバラの要素を繋ぎ縫い合わせた怪作です。


Chara+YUKI  - 楽しい蹴伸び

Chara+YUKIとしては1999年シングル「愛の火 3つ オレンジ」以来のコラボではないでしょうか(Yuki の2019年のアルバム「Forme」内の「24hours」でCharaが作曲、編曲)。EP「Echo」からの一曲。日本を代表する二人の新しい日本ならではのポップがまた完成したように思います。近年の日本のニューエイジやシティポップの再考(主にLight in the Attic Recordsからのリリースに顕著)、その中で当時のテイストのリバイバルを経てベテランの二人が新しいシティポップの断面をTendreという異質な要素を混ぜる事で見事に融和されたサウンドを提供した作品です。全体のテイストはCharaの2018年のアルバム「Baby Bump」に通ずるコンテンポラリーなR&Bの流れを汲みながら遊離して独立したシンセ・ファンクの存在とYUKIの歌詞(世界観)が際立ちリバイバルの回顧では無くJポップの特色を近年のサウンドに拡張していることが特徴です。

近年のシンセ・ファンクの流れは様々なジャンルとの結合により大きく変容を遂げました。例えばBrandon Colemanのようなダフト・パンクのディスコの再燃の余波として異彩を放ち、またSportsのようなマック・デマルコのヒプナゴジック・ポップとToro y Moiのチルウェイヴとが織りなす歪なポップ、Garrettのようなアンビエントにシンセ・ファンクを取り入れるなど多岐に亘ります。

個人的にシティポップの再発見の源流は2014年にリリースされたMr Twin Sisterの楽曲が80年代のシティポップをアップデートしたかのようなサウンドだった事にあるように思います。Mr Twin Sisterはそうしたシティポップ性にファンクトロニカを融合させSadeのようなソフィスティ・ポップな要素を加味した事と今回のChara+YUKIはそこにシンセ・ファンクな断片を混ぜた傑作を提示しました。コラボレーションEPの「Echo」全容が今から気になります。


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