ガーシーとは何者か(3)YouTuberジャーナリズムの可能性。


1.参加型社会への道

GAFAのようなプラットフォーマーが情報管理をコントロールしている時代から、いわゆるWeb3.0的な、分散型ネットワークへと世界の潮流が流れていく時に、政治の世界は、どう変化していけばよいのだろう。

既存の政治政党は日本近代のはじまりである明治時代にスタートして、戦後民主主義のはじまりである敗戦からはじまる戦後社会の構造の中で発展した。議会制民主主義は、選挙による代理人選考による税金の配分システムである。

戦後に発展した既存政党は、業界、組合、宗教などのそれぞれの理念やイデオロギーに賛同した者が投票を行い、当選した議員が、それぞれのバックグラウドである組織などの利益を確保するために活動を行う。政党は、選挙制度の中で、それぞれが巨大なプラットフォーマーとして存在する。

こうした代理人による社会システムは、近代の政治、産業、教育、文化などあらゆる領域を推進してきた。組織や団体が機能しなければ、どのような個人的な発想も社会の中で意味をなさない。人類が組織という概念を発明したことは、自然共同体としての「ムラ」を越えた「第二のムラ」としての都市文明を大きく発展させるものだったと思う。

しかし、私たちは、その近代の黄昏に生きていると思う。「組織」を超える概念として、私は1970年代に「ロッキング・オン」「ポンプ」という投稿型の雑誌を作り、参加型社会という構想を提出した。

あらゆる領域にはびこる代理人制度を批判し、自らの中の代理人的根性を自制してきた。そしてインターネットがはじまり、Web3的な概念に関心が集まっている。

2.ジャーナリストとしての政治家

しかし、近代は大きく力強い潮流である。この流れを変えて、一人ひとりの個人が代理人に頼らずに、自らの意志を社会全体に伝えるためには、少しずつ「換骨奪胎」していくしか方法がない。それもあらゆる領域で、それぞれの個人の内発性によってである。

政治・官僚システムの限界は、多くの人が感じていると思う。信じられないシステムに投票しなければならない虚しさは、1970年代からますます大きくなっている。支持したい個人に投票しても、政党という組織の論理は立候補した個人の意識も変えてしまうぐらいに強く、狡猾なのだろう。

私は、10年ぐらい前に、原英史くんと議論した。原くんは、開成・東大・経産省の若手エリート官僚であり、自らが所属する官僚制度の問題が日本政治の根本的な問題であると自覚し、行政改革に邁進した。しかし、それは現状の政治システムから否定され、在野においての活動を開始した頃である。

原くんは、全く新しい発想での政治家や政党のビジョンを教えてくれた。それは、「ジャーナリストとしての政治家」である。政治家が、社会に対する思いを個人として抱き立候補するわけだが、現実の政治シーンの中では、政党の組織の中では身動きが出来ない。それは組織は他の組織と権力争いを行うことが必然であり、組織が勝つためには、個人の意識よりも組織の意識を優先させなければならないからだ。

ならば、権力奪取を目指さない政治家が生まれてくればよいのだ、と。権力を目指さなくて、なんのために政治家になるといえば、それは調査と提言である。
本来は、政治の世界の過ちをチェックするのは民間のジャーナリストの仕事である。しかし、現代においては、大手の新聞社や放送局や出版社は大組織になっており、政党と同じように組織の論理で運営されているので、ある政党の批判をしても、それは別の政党の代理人としての批判でしかない。

個人の政治家に何が出来るのか。それは、国政調査権である。例えば新聞記者が行政組織に資料を要求しても、すべてが公開されるわけではない。むしろ本当に重要な資料は隠蔽されてしまう。しかし、議員である政治家が官僚に資料提出を指示したならば、官僚はそれに従わなければならない。

官僚をデータマンとして使い、政治家がアンカーになり、国家や世論に対してジャーナリズムのようなメッセージを発信出来るのである。現状においては、YouTuberになることが最大の情報発信力になりうる。

原くんは、そうした発想を元にして「万年野党」という活動を開始した。権力奪取を目指さない、批判と提言の政党という意味である。原くんの真意を理解しない人は、「根性のない政党だな」とか言うが、私は、大事な発想だと思っている。

▼原くんと橘川の10年前の対話に詳しいことが書いてある。

原英史さんと公務員制度改革について論じ合う【1】80年代の「様式美」偏重の空気が役所を悪くした

原英史さんと公務員制度改革について論じ合う【2】官僚は「競争好き」か「競争嫌い」か

3.ビデオジャーナリスト保坂展人

世田谷区長として活躍している保坂展人くんとは、彼が麹町中学で活動していた時代からの付き合いである。彼が、衆議院議員で、世田谷区長選に出る前の頃に話したことがある。

彼はビデオジャーナリストになりたいと言っていた。政治家のうちに調査権を活用して、政府の資料や一般では立ち入りできない場所を議員特権で取材して、それをマイケルムーアのようなメッセージ動画にしたいと言っていた。

保坂くんは、実際に、以下のような作品を発売している。

保坂のぶとの現場レポート 八ッ場ダムはなぜ止まらないのか

4.YouTuber政治家の可能性

映像表現とナレーションの技術を日々ブラッシュアップしているYouTuberがやがて続々と立候補するイメージを持っている。それは政権を奪取するのではなく、既存のジャーナリズムが崩壊した中での、新しいジャーナリズムになる可能性がある。

ガーシーは、社会の異物として生まれだが、方向性によっては、新しい「代理人」のスタイルを獲得するかも知れない。すくなくとも、政党がタレント個人を利用する政治ではなく、個人が政党を利用する政治は、時代の前進だと思う。個人と楽天では喧嘩にならないが、ガーシーと三木谷の対立は新しい状況を生み出すかも知れない。

もちろん参加型社会を一貫している私としては、それらも、近代や戦後社会の構造を壊す一つの過程であるかも知れないが、目指すべきところは、更に先にある。

▼参考
ガーシーというジャーナリズム

ガーシーchのこと。「ワルの正義」

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