ガーシーとは何者か(2)ガーシーというジャーナリズム


1.ジャーナリズムの変質

 長年、出版業界にいて、出版界の変質、出版社の変質、編集者の変質を見てきた。私は参加型メディア一筋なのだが、旧来型の出版人との付き合いも多く、素晴らしいジャーナリスト魂を持っている友人も多い。不思議なことに、根性のあるジャーナリストほど、文章が上手い。言葉の扱いを大事にしている人を私は信用する。

 ただ、方法論的には、旧来のジャーナリズムは終わると思っている。それは出版ジャーナリズムが、代理人のシステムに拠っているものだからだ。文春砲といっても、基本的にはタレコミを記事にするかしないかだけの話で、ジャーナリストの個人的正義感でもなんでもない。そのタレコミが商品として価値があるかどうかだけだ。

 最初に既存のジャーナリズムに疑問をもったのは、三浦和義のロス疑惑と呼ばれた保険金殺人事件である。これは普通に考えて、週刊誌の記者が個人の保険金詐欺の情報を得られるわけがない。捜査になっているなら、警察筋からのリークで取材することも出来るだろうが、週刊文春が記事にしたことで、警察が動き出した。

 普通に考えて、この情報を文春にリークしたのは「明らかに怪しいけど、警察が動いてくれないので、このままだと保険金を支払わなければならなくなる」と考えた保険会社の仕業だろう。その後、保険金殺人の記事が連続して出たが、保険会社がメディアの威力を認識したからだと思う。

 新聞の特ダネと呼ばれているものの大半は、内部告発によるリークである。それが純粋な正義感によるものもあったのだろうが、多くは、敵対者を叩くためのリークである。田中角栄から江副浩正まで、日本にとって大事な人材が、敵対勢力のために活動を停止させられたと思っている。

 更に社会のシステム化が進み、会社組織が管理社会の完成形みたくなってくると、個人の正義感を持つ旧来のジャーナリストも組織から追放された。メディアをリークするための道具としてしか見ていない、政治家、警察、経営者などの権力者によって利用され、マスメディアそのものがブラックジャーナリズム化してきている、というのが私の実感である。政治家が対立政治家や気に食わない官僚を潰すためにジャーナリズムを利用している。

2.ガーシーの衝撃

 今年の上半期のメディアの話題の中心はガーシーであろう。ギャンブル依存症からBTS詐欺を引き起こし、自殺寸前まで追い込まれて自暴自棄になり、ドバイでYouTuberとして、最後の可能性に賭ける。

 芸能人に対する私怨による露悪的な放送は、インパクトもあるし、見世物としては面白いが、これは長くは続かないな、と思った。しかし、そのガーシーが変わってきたように思う。

 その契機を与えてくれたのは、楽天の三木谷さんのTwitterであろう。ガーシーがM社長がウクライナのモデル集めて乱交パーティやってると発言したのを受けて、三木谷さんがTwitterで反論したのだ。しかし、その後のガーシーの発言で、それはチャリティ・パーティのようなものではなく、群馬の水上温泉で経営者仲間とゴルフやったあとの宴会だということが判明。これはまずいね。

 三木谷さんをはじめ、ITベンチャーの成金の一部が金にあかせてヤンチャや社内セクハラをしているという話はジャーナリストたちからよく聞いていたことである。あと、人材派遣会社ね。しかし、それが記事にならないのは、出版社の企業に対する忖度もあるだろうが、よほどの事件にでもならない限り、情報に商品価値がないからである。雑誌を印刷するのにはお金がかかるから、コネタは無視される。ただし、大ネタであれば、謝金がもらえる。

 しかし、今や、タレコミたいネタがあれば、週刊文春や週刊新潮ではなく、ガーシーのDMが宛先になってきているのではないか。すべての人がスマホでカメラとレコーダーを持つ時代だ。見たものを見たと、世の中に伝えるためには、今や、ガーシーが最強のメディアだと認識するだろう。日本中の権力者の問題行動がガーシーにリークされているのだと思う。

▼昨日のこの番組は、かつての「選択」や「FACTA」のようなインパクトを与えてくれる。ガーシーも言葉の使い方が天才的に上手い。

楽天×自民党×トライストーンのトライアングルとベネフィット・TwitterJapanとの癒着



3.ソーシャル・ジャーナリズム

 初動の最後っ屁のような暴露系YouTuberから、新しいソーシャル・ジャーナリストの道が見えてきたのは、ガーシーの友人のTAKUYA∞(UVERworld)の忠告だろう。彼は、ガーシーに、これだけの影響力を持ったんだから、その力を、苦しんでいる人の声を世の中に伝えるようになれ、とアドバイスした。

 まだまだ先の展開は見えないが、閉塞した既存のジャーナリズムの世界に、新しい可能性を感じさせてくれた。YouTuberも、スタート時点の、ただ面白いことをやるだけの存在から、自分の言葉を持つ表現者としてのYouTuberが続々と現れて、組織に頼らない、新しいソーシャル・ジャーナリズムの世界が広がってきている。

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