unity1weekから見る、キャラクターをローコスト(?)で魅せる技術論考
■序説
現代のあらゆるサブカルチャーにおいて、虚構内存在、"キャラクター"が重要な役割を果たしているのは自明と言えるでしょう。あらゆるコンテンツの公式サイトに"Character"というページが存在する事もその証左と言えます。そして、そのサブカルの中の一つ、ゲームという媒体においてもそれの制作者、すなわちゲームクリエイターも、キャラクターを如何に魅力的に表現するかに日々腐心しています。
無論、コストを無尽蔵に掛ければ、かけた分だけリッチな表現をすることができます。しかしそれは理想論といえるでしょう。現実的には限られた予算・期間の中で、それでもできるかぎりリッチな表現を実現しなければならない。
このnoteを読んでいる方の多くは御存知であると思いますが、Unity1週間ゲームジャムなる、1週間でゲームを作るオンラインイベントがあります。
この1週間という厳しい制約下においても、キャラクターを魅せる事に重点を置いたゲームが多数投稿されています。今回はそれらをピックアップ、分析していく趣旨の記事となります。
尚、当記事は元々はTeamUp企画の参考用として執筆していますが、無論、それ以外のケースでも汎用的に通用する内容を意識しています。
TeamUp企画に関してはこちらの記事を参考に……。
■本論:unity1week「つたえる」作品をみる
早速、直近のunity1week、お題「つたえる」に投稿された作品の中から、当記事の趣旨に該当している作品を取り上げてみます。基本的には絵作り部門上位作品を参考にしていますが、見るべきところがあると感じた作品は、そうでなくとも取り上げています。
◆ハンマーハートデリバリー
・TeamUp企画作品であり、絵作り部門優勝作品です。
・鈍器さんのドットアニメーションが冴えわたり……ますが、これは鈍器さんの制作クオリティ&速度が異常 ゆえに実現できたゲームであり、参考にはならない(できない) ゲームだと思われます。はい次!!
◆ご注文はお決まりですか?
・時間内にできるだけ注文を捌くゲーム。脳は最適化されていく。
・作品構造を観察すると、ダグちゃん(メインキャラクター)部分のリソースはたったの2枚+それの表情差分のイラストしかないことがわかる。
・にも関わらず、ゲーム性と基本の画像のアフィン変換(拡縮アニメーション)の活用により、絵作り2位を獲得している。ローコストでもやり方次第でキャラを魅せる事が出来るという理想の例だと思います。
◆走れ!エウクレス ~伝説の伝令兵~
・今回(目にした範囲では)唯一のアニメーションエンジン系かな?
SpineなのかSpriteStudioなのかはたまたそれ以外なのかまではわからん。
・この作者はこのエンジンの扱いに手慣れている+既存リソースからの流用ができるので、一週間のスケジュールでも問題なく作成できたと思われる。
・逆に言えば、元々の経験値が無ければ(つまりアニメーションエンジンの仕様を手探りでやっていては)、この規模感でも難しい気がする。
・なおメインキャラ以外は軒並みイラストや。よいコスト削減。
◆アリサとリーゼと謎の手紙
・TeamUpの作品の一つ。
・ゲーム性から現実的なリソースを見込んだ例。本来の期間(1週間)の範疇では、RDAGさんのと同様、インゲームは数枚のイラスト+それのアフィン変換による躍動性で表現されている。そしてインゲーム前後のスチル。(これでも1週間という期間を考えると結構な物量な気もするが……)
・尚、現在はアップデートにより、パーツごとにアニメーションが入っている。イラスト側の凪沙ハヤテ氏にボーンアニメーションのノウハウがあったわけではなく、湊あおい氏の手によってレイヤー分けされたリソースから手作業で構築している(はず)。つまりエンジニア側に知識があれば、十分パーツアニメーションは表現可能であるという事。
◆ツウデンけーこ
・けーこシリーズ。
・これもよくよく見てみると、ニュートラル2枚+アクション2枚、4枚だけのイラストで構成されていることが分かる。が、そのアクションがユーザの入力と同期していることで、ユーザとの一体感が出ている。
・ちなみに前作も(前々作も)けーこである。前作は結構インモラルな方向性であるものの、同手法でキャラを魅せている。
◆ことバトレジャー
・StS系。……と、癖。
・これまた客観的に見れば、1枚(プレイヤーキャラは数枚)のイラストのアフィン変換による表現。でもStS系というゲーム系統によりプレイヤーキャラの動きはちゃんと表現できている。コンテクストの力が強いとも言える。
◆時をつたえる歯車少女
・プラットフォーム2Dアクション。
・キャラクターは……これはボーンアニメーションか? フルスクラッチのアニメーションか? ちょっと判断がつかないが、見る限りではそこそこ枚数がある気はする。一応アニメーション種類自体はニュートラルと横移動の2種類しかなく、これはゲーム性からアニメーション種類を最低限に落とし込めた作例だと思う。
◆和鸞ちゃんの雪代流し
・えー、自分のやつです。
・専用のアニメーションエンジンを使ってます。これ以上はマーケティングにしかならないので(この記事では)割愛!!
◆カロリロード
・前回ではなく、前々回(お題:Re)の絵作り1位の作品。
・ドット絵による見下ろし2DSTG。と強烈な癖。
・構造的にはデフォルメドット絵によるインゲームキャラと、左下の立ち絵表示で構成されている。その左下から強烈な癖を感じる。
◆NOA’s Burger Shop
・これも今回(つたえる)のではないけど、参考になりそうなので。
・タイトル画面にイラスト1枚+インゲームはボクセルモデルという構成。
・ボクセルモデルはテンプレートを構築すれば、3Dの中では比較的ローコストでキャラを表現できる手法だと思う。ボクセルというのがそもそもデフォルメがある程度入っているので。これがハイポリとかだとリアリティを追究しなくてはならなくなり、工数が死ぬ。
・ゲーム部分はあくまで「あなた」が操作する体であり、ノアちゃん(キャラクター)は直接絡んで(操作して)いない。しかしプレイヤーの操作にリアクションを取ってくれることで、十分魅力的に見せている。
↑の作品の振り返り記事です。キャラクターを魅せる事にもちょっと触れているかも。イラスト一枚絵が目を引くパワー(引用)。
同じキャラの2DACTもあります。同じくボクセルです。ところでこれ未だにクリアできてないんだけど俺ゲーム下手か??
■分析:インゲームの表現
◆制作者が手慣れている手法を用いている
・ハンマーハートデリバリー(両作者ともドット絵系に手慣れている)
・NOA’s Burger Shop & NOA's Project(作者がボクセル3Dが得意)
・走れ!エウクレス(略)(作者がボーンアニメーションに手慣れている)
これらは「元々作者が手慣れている表現方法」を用いることで、1週間という短い期間内でもキャラクターを動かすことに成功しています。本来的な意味で職人芸と言えるでしょう。出来れば強力な手法ですが、これを実現するためにはチームメンバーが、いずれも手法に対して精通している必要がありそうです。逆に言えば、イラスト側、エンジニア側のスキルセットがマッチするところでチームを組めれば、すなわち強力なチームといえるでしょう(どんしゅんチームがそのパターン)。
◆ゲームロジックからコストを削減する&少ないリソースでも躍動的に魅せる
該当作品をあてはめたらほぼ同一になったので二項目同時に。
・時をつたえる歯車少女(2DACTだが、立ちと歩きのみで事足りている)
・ことバトレジャー(StS系というジャンル的担保)
・ご注文はお決まりですか?(インゲームは数枚のイラストで実現)
・アリサとリーゼと謎の手紙(インゲームは数枚のイラストで実現)
・ツウデンけーこ(インゲームは数枚のイラストで実現)
これらは数枚のイラストでキャラ表現が成立するように、ゲームロジック側で歩み寄っているタイプです。また、シンプルな拡縮処理(アフィン変換)を用いた簡易的なアニメーションを加えることで、躍動感を付加しているものも多いです。
きっちりゲームのロジックとフォーマットの定義が出来れば、事前の経験値(積み重ね)がなくても通用する手法です。オススメの方法と言えると思います。
あえて欠点と挙げるならば、自明といえば自明ですが、作れるゲームのジャンルが必然的に制限されてしまうことでしょうか。
◆おまけ:シリーズ的展開でリソースを流用する
・マゲちゃん という作者は「マゲちゃんとシフさん」シリーズで毎回参加している方です。これらの立ち絵は流用されています。これも一つの手法だと思います。(何度も参加する事前提の話ですが)
■分析:デフォルメ表現を活用する
今回取り上げたタイトルを見ると、ほぼすべてがインゲームに於いて、デフォルメキャラクターで表現されていることが分かると思います。
実際問題、デフォルメの方が「記号的な表現が許容される」という性質を持つため、コスパに優れているという面があります。これがたとえばリアル頭身のモデルとなると、アニメーションもリアリティを持った曲線的な動きが要求されるようになり、芋づる方式にあらゆる場所の要求コストが跳ね上がっていきます。一方デフォルメ描写だと、リニアなアニメーションでも受け入れられる空気があります。こういった理由の為、インゲームのキャラクター描写(+アニメーション)に関してデフォルメ表現を用いているゲームは、企業ベースのゲームにも数多くみられます。
■分析:アウトゲームの表現
アウトゲームとはつまりインゲーム以外の事です。たとえばタイトルなど。OPやED、会話パートなども、一般的にはアウトゲームといえるでしょう。こういった所は動きを必ずしもつける必要はないので、逆に言えばリアルなスケールでキャラを描くことが出来る箇所と言えます。
多少打算的な話ですが、1枚がっつりイラストを用意すると、それをプロモーションとして各場所で活用していくことが可能です。今回の自分がやった限りでも、各種記事の見出し画像、unityroomのサムネイルなど。
また立ち絵などに関しては、インゲーム内に同居する事も可能です(カロリロードなど)。インゲーム内にはあくまで上述のようなデフォルメキャラで描写しつつも、会話パートでリアルな立ち絵を用いる、などは見覚えがあると思います。
■つまり:コスパの良いリソース制作は?
アウトゲーム部分で汎用性の高いイラスト1つ(タイトル画像)+デフォルメで記号的表現が効きやすいインゲームリソース、といった組み合わせが、(1週間ゲームジャムなどの時間的制約が強い場所では)実現可能性が高い表現方法と考えることが出来るでしょう。
もちろん、この方法以外はないというわけではなく、チーム内のスキルセット次第では、リアル頭身のモデルをゲームで動かす、といった手法をとることも十分可能です。
■寄道:どこまでフライング制作を許容する?
unity1weekは「1週間でゲームを作る」という趣旨のイベントですが……
あらかじめ準備をしていくことは可能です。ていうか上位陣はプロジェクトのテンプレートくらいは、みな準備しています。
では、実際どこまでがセーフでどこまでがアウト(反則的)なのか?
……結論から言うと、「ゲームそのものをフライングで作る」はNGだけど、それ以外は別にいいんじゃない? ていうのが個人的な見解です。
つまり、汎用的なキャラクターリソース(立ち絵)などは先に作っても何ら問題はないと思っています。これがNGならば、イラスト素材系の利用だってNGになってしまうはず。
拙作の話をする場合、和鸞ちゃんモデル自体は元々作ってあったものです。ただし、タイトルのイラストはゲーム内容に紐づくものであり、これはお題発表後、ゲームロジックを確定したうえで着手されています。ここを先に作るのは反則に当たるかなと。
……というわけで、「一週間で全部作るのは厳しそう」という方は、「汎用的に使えそうなリソース」は先行して作るのもアリだと個人的には思っていますが、これは各々のチームで相談してください(TeamUp内部の話)
■参考資料:フォーマット別特性
各フォーマットの観点についてかんたんにまとめてみます。
割と主観で適当言ってる気もするので話半分で流してください(予防線
◆3D・ハイポリ
・理論上つよい。
・が、unity1weekの期間でフルスクラッチでハイポリモデルを造り上げるのは現実的ではない。humanoidの範疇に収めればアニメーションは流用が可能だし、VRoidなどを活用する手もあるが……。
・そして、それだけやってもあくまで出来るのはキャラ部分のみ。ゲームとして作り上げるとなると、背景やらなんやら、あらゆる部分にリアリティが要求され、結果的に高コストになりがち。できれば強いが、元々経験値がある状態でないならばお勧めできないかも。
◆3D・ローポリ
・ハイポリと比べると記号的表現となるため、各種の制作ハードルはハイポリ系に比べればいくぶんゆるくなる。とはいえこれも「元々それらに慣れている人」のチームでのみ扱えるレベルかなと。
◆3D・ボクセル
・ローポリよりさらに記号的になる。「デザインさえあればボクセルモデルは作れる」というゲーム制作者も割といるので、3Dの中では現実的かも。
◆2D・静止画イラスト
・最も馴染みあるフォーマット。絵描き側にとっては普段描いてるものそのままなので、一番安心感? があるやも。
・基本的には静止画なので、インゲームに持ち込めるジャンルは限られる。アクションゲームなどは無理があるだろう。
・アフィン変換を用いることで、ある程度疑似的なアニメーションが可能。
ゲームロジック次第では十分「動き」をつけることができる。
◆2D・手書きアニメーション
・工数がやばいので基本的にはオススメしない。
・それでもやるならゲームロジックと照らし合わせ極力枚数を落とすべき。
◆2D・ボーンアニメーション
・具体的にはSpriteStudio、Spineなど。顔だけならLive2Dなども。
・商業でも使われる技術であり、チーム内にスキルセットが揃っているなら現実的な選択肢だと思う。
・これもデフォルメの方が、表現の許容がゆるくなるのでやりやすくなる。
◆2D・ドット絵
・ボクセル同様、「デザインさえあれば描き起こせる」ゲームクリエイターがわりといるので、選択肢としてはあり。デフォルメ寄りにもなる。
・がっつりアニメーションさせようとすると、相応のコストはかかる。
■まとめ(TeamUp向)
キャラクターの表現方法についてつらつらとまとめてみました。アート勢・エンジニア勢、ともにいずれ来たるチーム結成に向けて、己が得意とするスキルセットを明示するといいかなと思います。第零回の鈍器しゅんてチームなんかはスキルセット(ドット絵系)が合致した結果、おたがいの持ち味を存分に活かしたゲームを作れたわけですし。
■おまけ
わたしは自家製アニメーションエンジンを作っているので、
それのプロモーション記事を後日描きたいと思います^^
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月並みな文句だけど、ちゃんと口に出して言う、だいじ。
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