見出し画像

METACITY概要紹介

はじめに

2019年に開催された「METACITY CONFERENCE 2019」では、様々な角度から「ありうる都市」について検討が行われました。では、そうした無数の可能性をわたしたちはいかにして現実社会の中で問うていくことができるのでしょうか?今回から新しく始まるマガジン「METACITY WIP(メタシティ ワークインプログレス)」では、METACITYで現在進行中(Work In Progress)の各プロジェクトについて、背景、メンバーの思い、進捗風景、インタビュー、対談などを織り交ぜつつ紹介していきます。「ありうる都市」を実装する取り組みの最前線をお届けしていきたいと考えておりますので、ぜひチェックしてみてください!

この連載に先駆けて今回は、各プロジェクトの概略を網羅しつつ、その共通する背景である「METACITY」がどんな経緯で生まれたのかについて、METACITY代表の一人である青木竜太さんにインタビュー形式で伺っていきます。

本記事は「METACITY WIP」マガジンの連載企画の一環です。その他連載記事はこちらから。
・INTERVIEWER / TEXT BY / EDIT BY: Shin Aoyama
・INTERVIEWEE: Ryuta Aoki

METACITYとは

──それぞれのプロジェクトやその背景について伺う前にあらためて、METACITYというのは一体なんなのでしょうか?

青木:METACITYは、思考実験とプロトタイピングを通して「ありうる都市」の形を探求するプロジェクトです。具体的には、様々な研究者やアーティストとともにプロジェクトを実施する「ラボ」、カンファレンス・ワークショップ・アート展示などの開催を通じて成果発表やあらたな人の繋がりをつくる「イベント」、これら活動内容を世界に発信する「メディア」の3軸で活動しています。

METACITYでは都市に関わる専門家だけでなく、世界の理を探求する研究者、新たな概念を探求するアーティスト、可能性を探求するデザイナー、 作り方を探求する技術者、"暮らし"のあり方を探求する地域コミュニティや市民の皆さん、持続可能性を探求する企業や行政など、 様々な視点とスキルを持つ人たちと共に各プロジェクトを進めています。とうぜん既存のハードウェアドリブンな都市計画ではなく、その中に存在するソフトウェア、つまり都市を構成する人々のネットワークそのものからもう一度都市を編集し直せないかと思っているのです。

そして、2019年のキックオフカンファレンスから続々とアートプロジェクトやリサーチプロジェクトを立ち上げました。現在は、SFC田中浩也研究室と30m角規模の3Dプリンタで生態系を出力するプロジェクト『Bio Sculpture』、雑誌WIREDと政治的・文化的側面を思索し試作するスペキュレイティブゾーン『WIRED特区 』、空飛ぶ車を開発するエンジニアボランティア集団CARTIVATORとミクロからマクロスケールまでの様々なモビリティをプロトタイプするR&Dチーム『The Mobilities』、茶の湯のアート集団The TEA-ROOMと茶の湯の概念を都市にインストールするアートプロジェクト『Jack into the Noösphere』など活動を始めています。そして今回あらたに『多層都市「幕張市」』プロジェクトを立ち上げます。

──従来の建築や行政からではない都市へのアプローチを模索したいということですね。では、そもそも「都市」という領域を対象にしようと思ったきっかけや狙いがあれば教えていただけますか?

青木:そうですね、まずはMETACITYが始まった背景と個人的な思いからお話しましょうか。そもそもの始まりとしては幕張メッセさんの常務取締役
企画本部長である金親さんがアート&テクノロジーをテーマとしたイベントを企画されていて、今一緒にやっているMETACITY設立メンバーであり共同代表で、エンジニアでもある土肥武司さんや空間演出家の石多未知行さんが中心となって進めていたところにお二人からカンファレンスを企画してくれないか?とお声掛けいただいたのが千葉市で活動を開始するきっかけでした。そこでせっかく様々な人たちが集まるカンファレンスを開催するのに、単発のイベントで終わってしまうのはすごくもったいないなと思ったんです。特に幕張は埋立地という土地柄、歴史的文脈が希薄ですよね。だからこそ、みんながあらたな文化を実装できる余地があると思ったのです。しかし一方で、それを根付かせるためには継続的な活動が必要なはずです。こうした経緯で、未来の文化芸術のための土壌を耕す活動体としてMETACITYというものをつくろうと提案し、一緒に活動をはじめました。METACITY CONFERENCE 2019は幕張メッセ主催で開催し、今でもアドバイスなどいただきながら、今年の3月に土肥と石多と青木の三人でMETACITYの活動を推進する独立したチームとして一般社団法人を立ち上げました。

少しメンバを紹介しますね。土肥さんはエンジニアを本業としつつ「ななめな学校」の運営を通して培った千葉市との関係性を活かし、行政や企業などのステークホルダーとの折衝、イベントのフロント役や誰かが何か困っていればサポートに駆け走ってくれる優しく頼もしい長男的存在。石多さんは「日本プロジェクションマッピング協会」などが実施する国際的な大規模イベントの運営経験を活かし、特にイベント時のハードウェア周りのテクニカルサポートを担当してくれる頼れる、しかしイベントごとにしか帰ってこずほんとど家にいない自由奔放な旅人気質の次男的存在。そして、私はすべてのプロジェクトとイベントの企画、プロデュースとディレクションを担当している、わがまま言う末っ子的な存在です(笑) 二人が僕のアイデアをすごく尊重してくれて、実現に向けて背中を押してくれるですよ。いつもどちらかというと背中を押す立場だったので、いろんなことに挑戦できてとても楽しんでいます。そんな3人でワイワイやりながら事務局を運営しつつ、各プロジェクトは独立運営していて、別にコラボレーターやパートナーが加わり活動しています。ちなみにMETACITYを立ち上げるきっかけを作ってくれた幕張メッセの金親さんは、活動を温かく見守ってくれているある意味、お父さんのような存在ですね。

「都市」という領域は未知のものでしたが、わたしは常々、文化芸術とは未来を担う世代の価値観を育むための重要なものであり、中長期的にはもちろんのこと、数十年という短期的に見ても新たな世界をつくる上でもっとも重要な土壌であると考えてきました。良い土には良い作物ができるように。そうした時に、都市というスケールで取り組む事で、文化芸術を社会のインフラの中に組み込むための模索ができるのではないかと思ったのです。

10年前にプログラマーという職種を超えて最初にはじめたプロジェクトがTEDxKidsでした。そこでは地縁ではなく知縁、つまり地域の距離的なつながりではなく興味関心によるつながりを育むことを目指し、所与のコミュニティを超えた子供達のための超共同体をつくろうと試みました。そして同時期に立ち上げたデザインスタジオ「VOLOCITEE(ヴォロシティ)」も「Volonte(フランス語で”意志”)」のあるものたちが活動する「City(都市)」という意味を込めた造語で、様々な社会のあり方を提示しつくることに挑戦する意志を持つ人々がその力を最大限発揮できるような場とネットワークをつくり出すことを目的としています。初心に戻りつつ、こうしたコミュニティのその先を考える実践のフィールドとして、実際の都市というものが自然と現れてきたという感覚です。

──いわば、知縁による共同体をふたたび地縁に結びつけるための実践なのかもしれませんね。パーソナルな思いについてお話いただきましたが、もう少し広義の問題意識についても伺えますか?

青木:第一には、今の都市というのは物理的にも制度的にも「進化の袋小路」にあるのではないか、という問題意識があります。わたしたちは技術や制度によって環境を制御することで不確定性を減らし、都市の安定的な生活を築いてきました。しかし今一度世界に目を向けてみれば、自然・人工を問わず地球上の環境は大変革の時を迎えているはずです。連続する異常気象、人口爆発と少子高齢化、極端な富の偏在、制御不能なテクノロジーの進化、あるいは地球規模の感染症の蔓延。こうした、いつなんどき不可逆的な変化が起こるかもわからない世界の中で、現在の都市はあらたな視点や構造を受け入れるための柔軟性や適応力を失ってしまっているのではないでしょうか。

また過度な安定によって硬直してしまった都市には、画一化の問題も潜んでいるはずです。経済的合理性を最優先とした都市構造を盲目的に適用することによって、多くの地方都市は大都市の劣化コピーのような街並みになってしまっているのだと思います。これはまさに都市が担うべき文化を漂白してしまうことに他ならないのではないでしょうか。それぞれの土地の場所性や歴史、固有の文化を反映させた都市のかたちを取り戻すこと。これは、都市の進化のための多様性を生み出し、豊かな文化を育む基礎にもなるはずです。

加えて、そもそも都市は社会の不確実性を減らすために自然や異邦人をはじめとした「他者」を排除して成立してきました。しかし実際には人間だけによって都市や社会、文化が形づくられているわけではないはずです。むしろ、人間の外部にある多様な他者との関係性の中でこそ、真にそれぞれの都市が抱く世界観の多様性というものは醸成されるのだと思います。そうしたわたしたちの世界の豊かさを担う多様な他者とのインターフェースとして、都市のシステムやそこで用いられるテクノロジーを捉え直していくべきではないかと考えています。

WIRED特区

画像1

──では続いて、具体的なそれぞれのプロジェクトに触れながら理解を深めていければと思います。

青木:ではまず、METACITY CONFERENCE 2019での議論から生まれた「WIRED特区」について紹介しましょう。現千葉市長の熊谷さんとWIRED日本語版編集長の松島さんのお話の中で熊谷さんが、漂白された幕張の空間を変えるにはエネルギッシュで混沌としたものを入れていくべきだ、といった趣旨のことをおっしゃっていて、じゃあ千葉市にWIRED特区をつくってしまおうかと盛り上がったんですよ。その後実際にWIREDとMETACITYが中心となり、幕張に多様なテクノロジーとそれに伴うあたらしい文化を実装していくことを掲げて、WIRED特区が動き始めたんです。

特区というのは今では全国各地につくられていて、ドローンや自動運転技術、遠隔教育などの運用試験が行われています。でもやはり実際の都市でテクノロジーの運用を行うことの意味というのは、単に完成度を高めるだけではないと思うんです。テクノロジーに触発されてどんな文化が生まれるのか、あるいはそのテクノロジーを受け止められるだけのリテラシーをどう育むのか。そういったことを地域の人々と一緒に実践していくための場所としてWIRED特区を位置付けたいと思っています。先ほども触れたように、わたしたちはテクノロジーによって地球環境を一瞬のうちに不可逆変化させうる時代に生きています。つまりどのテクノロジーを選ぶのかということと、どの未来を選ぶのかということは限りなく近くなっているのだと思うのです。そんな時代における文化的態度を模索し、醸成するためのきっかけになれればいいなと考えています。

今後は、WIREDの特集記事でも言及された「ニューエコノミー特区」、「ウェルビーイング特区」、「ミラーワールド特区」や特集テーマと連携しつつも独自のものをWIREDさんと地域の方々と一緒につくれたらと思っています。海浜幕張駅徒歩10分くらいにある5000〜8000平方メートルくらいの遊休地を借りることができそうなので、そこを拠点にコンセプトだけでなく物理的な都市へ実装をまずはスモールスケールにはじめていきたいです。

Jack into the Noösphere

画像2

──まさに「ありうる都市」の実装というテーマに直球で挑んでいる感じですね。では、こちらの茶の湯のプロジェクトなどはどのような文脈でMETACITYへと接続されているのでしょうか?

青木:「Jack into the Noösphere」は、わたしが所属する茶の湯のアート集団「The TEA-ROOM」で、ありうる茶会のかたちを探求するプロジェクトです。The TEA-ROOMとは常日頃から様々なかたちで協働していて、先ほどのカンファレンスでもメンバーの一人である松村さんに登壇いただきました。そうした深いつながりの中で始まったプロジェクトですから、まずはそもそもわたしがなぜ茶の湯に興味を持ったのか、というところからお話していきましょうか。The TEA-ROOM自体は2016年に活動を開始して、Art Hack Day に参加してくれた建築家の佐野さんと陶芸家の金さんの繋がりで松村さんとお会いし、意気投合し活動がはじまりました。現在は、茶人の松村さん、和菓子作家の坂本さん、華道家の萩原さん、陶芸家の横山さん、書道家の万美さん、表具師の井上さん、建築家の佐野さん、そして私の8名で活動しています。

わたしは、茶の湯というのは日本の長い歴史が培ってきた極めて精緻で高度なコミュニケーション技術の集大成だなとつくづく感じます。単なる話術というわけではない、空間体験や各種の芸術作品、周囲を取り囲む自然や構造物といったものを通じてそれが実現されているという点が興味深いです。全体における流れと人の状態をかなり意識している。茶の湯という一連のプロセスを身をもって体験することによって、ホストとゲストの間に関係性が構築される。これはMETACITYが目指す、人々のネットワークから都市を立ち上げるという考え方を実装する上で重要な技術ではないかと思うのです。それを一つ一つの要素をその魅力が壊れない程度の単位で抽出し再構成したりもしくは結晶化されたような作品や活動も実施していきたいと思っています。ひょっとするとそれらを見たり体験する人は、茶の湯と関係しているとは一見気づかないかもしれません。

現在は、今年12月からはじまる『多層都市「幕張市」』プロジェクトでの作品づくりに注力しています。来年7月には千葉市主催の「千の葉の芸術祭」が3つのエリアに分かれて開催されます。そのうちの1エリアをMETACITYが担当することになりました。1.6haの日本庭園で茶の湯のシークエンスになぞらえキュレーションしたアート作品を展示する予定です。

──茶の湯が開拓してきた技術にもとづく、真に日本的な都市こそがMETACITYなのかもしれない、というのは刺激的ですね。

Bio Sculpture

静止画62 (1)

青木:この千の葉の芸術祭におけるMETACITYの展示のテーマは「生態系へのジャックイン」なんですが、こうした自然とテクノロジーの関係性を探索するプロジェクトとして「Bio Sculpture」があります。これは慶應義塾大学の田中浩也研究室との協働によるプロジェクトで、超大型の3Dプリンタと自然素材を使って生態系へのあらたな介入法を探るものです。

プロジェクト自体は昨年末ごろにはじまったものなのですが、田中さんとのご縁は結構長いんですよね。最初は、2012年にTEDxKidsにご登壇いただき、次に2016年に文科省事業「COI」で活動する研究者たちをつなげる場としメディアアーティストの江渡浩一郎さんと一緒に「COI 2021」会議をたちあげたのですが、田中さんにもそこにご登壇いただきました。4年周期ぐらいでお会いします(笑)このプロジェクトのはじまりは、田中研の学生さんがMETACITY CONFERENCE 2019に参加してくれていたようで、それを見てインタビューの打診があり、協力させていただいたことがきっかけで、田中先生とまた連絡を取り合うようになったんです。そうした経緯で昨年、研究発表会にゲストとして呼んでいただいたんですが、研究室で開発している超大型の3Dプリンタで土や植物の種を出力しているのがすごく興味深くて。わたしは以前からオランダのアーティストであるダーン・ローズガールデの都市スモッグを吸収・圧縮して指輪に加工する装置的な作品や、ATELIER BOELHOUWERがつくった虫の受粉行動を助けるための人工の花に非常に興味があったんですね。もうすこし遡ると、2017年にオーストリアのザルツブルグ・グローバルセミナーに招待いただいたのですが、そこでは都市の自然と子供達の健康の関係をテーマに行われた議論がおこなれていて、これはわたしが都市という対象に取り組むきっかけの一つにもなりました。つまり、自然と人間のインターフェースとしてのテクノロジーの利用・発展について、もっと追求していきたいという思いがずっとあったんです。これまでのテクノロジーというのは人間の繁栄を暗黙の目的として発展していて、その結晶として今の都市がある。でもその目的を人間から自然に切り替えることで、まったくあたらしいテクノロジーの使い方、ひいてはまだ見ぬ都市のかたちに到達できるのではないか。そういう考えに共鳴する部分がこの3Dプリンタにあり、これを応用したプロジェクトを思いつきました。自然と都市がトレードオフの関係ではなく、むしろ相乗効果を生み出すように生態系を拡張していくことを目指したいです。

具体的には、3Dプリンタを用いて土や籾殻を出力することで、小さな独自の生態系であると同時に地域のモニュメントでもありうるような造形物をつくろうとしています。これによって自然の循環はもちろん、地域の人々のネットワークまで含めた広義の「環境」を調整することを目指しています。この作品は、来年4月末に北九州イノベーションギャラリーで開催される「北九州創造芸術祭 ART for SDGs」で展示される予定です。

──生態系のネットワークと都市のネットワークを重ね合わせる、21世紀のニューロマンサーという感じのプロジェクトですね。

The Mobilities

画像4

青木:テクノロジーを読み換えることであらたな都市の可能性を示唆できるかもしれない、という点は「The Mobilities」でも追求していきたいと思っています。このプロジェクトは、自動車・航空業界、スタートアップ関係の若手メンバーを中心として「空飛ぶ車」の開発を行う業務外有志団体「CARTIVATOR」との協働によるもので、靴からインフラまで、あらゆるスケールにおける「ありうるモビリティ」について探索するためのプラットフォームをつくろうとしています。

このプロジェクトのきっかけにもなったCARTIVATOR共同体表の福谷さんとは、以前わたしが主催するArt Hack Dayに参加してくださったことで知り合ったんですよ。その後もMETACITY CONFERENCE 2019にも来ていただくなど、METACITYの活動に興味を持ってくださっていて。共同代表の中村さんもご紹介いただき、ディスカッションを重ねていきました。そんな中でお話を伺っていると、CARTIVATORでは「空飛ぶ車」の実装のために、技術的な要素だけではなく「これが実装されたら社会はどうなるのだろうか? 」という問いについても考えていきたいという機運が高まってきていたそうなんですね。そこで、空飛ぶ車だけでなく様々なスケールのモビリティについて、それがどのように社会に受け入れられ、どのような文化を生み出すのかを考えるCARTIVATORのR&D部門をいっしょにつくりたいと思ったんです。スチームパンクのように、もしも異なるテクノロジーが社会に選ばれていたならば、そのあり方やそこで暮らす人々の文化は大きく変わっていたはずです。または直接的な移動手段以外にも、たとえば今のコロナ禍ではマスクというのは人の行動に大きな影響をあたえるものですから、モビリティのプロダクトと言ってもよいかもしれません。そういう意味でもモビリティという概念は非常に示唆に富んでいると思うんですよね。原子、遺伝子、靴、車、建築、インフラ、大陸、惑星…… あらゆるスケールと分野を越境/架橋するモビリティという概念を介入点として、個別のプロダクト提案から都市、生活全体までをスケーラブルに思索していきたいですね。来年の春前ぐらいには、いろいろ情報を出せるようになると思います。

多層都市「幕張市」

画像5

──極大から極小までのスケールを持つモビリティは都市の多様な側面を考える上で重要そうですね。探索のためのプラットフォームという性質は「幕張市」プロジェクトでも顕著なように思われますがいかがでしょう?

青木:これはもともとは、市外の人々が千葉市の行政区画である海浜幕張一帯の地域を「幕張市」だと誤解している、という熊谷市長のお話に触発されて、「従来の物理的・制度的・心理的制約から自由な都市として幕張市をつくってしまおう」というきっかけではじまったプロジェクトです。架空の行政区「幕張市」をつくることで、市民の自律性を刺激し、都市やそこにおける文化がどのようにして生み出されていくのかを観察できるのではないかと考えています。それに最初に述べた社会インフラとしての文化芸術というものを整備する上では、生活インフラや福祉、公衆衛生に多大なリソースを割かなければならない現実の都市だけでは限界があると思うのです。そしてそこにおいてこそ、仮想空間上の都市という世界各地で試みられているテーマを追求する意義があるとわたしは考えています。

このプロジェクトではSF作家や省庁関係者、技術者、研究者、アーティストといったさまざまなコラボレータとともに都市の多様な側面を考えています。実際のプロジェクトの開始は、12月20日のキックオフからなのですが、メンバ内ではいろいろ案が出始めています。委任伝播投票やクアドラティック投票といった市民の意思決定へのコミットメントを強化するような投票システムの検証や、仮想空間上での実在性や祝祭性を立ち上げるプロセスの探求。ほかにも人により認識の異なる幕張市をうまく利用し、リアリティを感じさせるメディアとして、架空のラジオやインタビュー、SFショートストーリーなどを展開していきたいと思っています。「仮想空間の都市」といっても、現実と似せたVR空間をつくって人を入れて「はい、都市です」というような安易なやり方は最初は避けていきたいと思っています。体験やそのプロセスにもっと着目していきたいです。と言いながらも生活の必然性が出てしまえば、逆にいえばそこ以外は現実の都市もそんなレベルなのかもしれませんが。どちらかというと先ほど言ったようなことを思索し試作するリサーチチームやコミュニティという方が、最初の形態としては近いと思います。
直近では12月20日から2021年の1月31日にかけて、幕張市の創立を記念するイベントを開催する予定です。次回のインタビューでもう少し詳しく話していければと思っています。

未来の世代に向けて都市を紡ぎなおす

──最初にご紹介いただいたWIRED特区とつながってくるような都市と文化の可能性を探索するプロジェクトですね。さて、ここまで5つのプロジェクトを紹介いただきましたが、通底する問題意識を持ちつつも、茶の湯や生態系、モビリティと非常に多領域にまたがって活動されている印象を受けました。こうした多面性は都市という複雑な対象を考える上で重要かと思いますが、どのように捉えていらっしゃいますか?

青木:そうですね。ただ、網羅的にすべての要素に取り組もうとしているわけではないんです。トップダウンのプロジェクトだととにかくジャンルを細分化していくことで解像度を高めると思うのですが、METACITYはあくまでもボトムアップに都度生成される人々のネットワークから都市を紡ぎなおしていくことに重点を置いています。今の都市というのも歴史的に見れば立地環境などの偶発的な条件の中で最適化していったひとつの形にすぎないわけで、その過程を見るという意味でもこうしたボトムアップのアプローチが適切だと思うのです。ただ完全にトップダウン的な視点や手法を切り捨てているわけではなく、あくまでボトムアップドリブンということです。

──最後に各プロジェクト、ひいてはMETACITYそのものの将来的な展望について伺いたいです。

青木:ここまで見てきていただいてわかるように、METACITYは各プロジェクトのプラットフォームなのですが、その各プロジェクト自体もある種のプラットフォームとして機能することを目指しているんです。そしてその中で育まれるプロジェクトもまた次の何かを生むプラットフォームになるかもしれない。そういうオープンエンドに何かを胚胎していくような構造をつくることで、METACITYが持続的な文化芸術のジェネレータになれたらいいですね。そういう連鎖の果てにこそ、自分が想像し得ない真にあたらしいものが生まれるはずですし。そうやって未来の世代に向けた文化芸術がしっかりと都市に供給される、豊かな環境を整備していきたいです。こうした活動を通じて社会を変えていくこと、それ自体がわたしにとっての表現活動であり、わたしが社会彫刻家として成し遂げたいなと思うヴィジョンの一つなんです。

──ありがとうございました。

さて、インタビューを通じて、5つのプロジェクトとそれを包括するMETACITYの理念について概説していきました。2020年現在、様々な社会的情勢によってバラバラに分断された都市。それは同時に、いままでになかった要素の組み合わせから都市を再構築する試みのリアリティを浮かび上がらせているはずです。ぜひMETACITYが組み上げようとしている様々なかたちの都市を眺め、その一市民として共に参加していただける日をお待ちしています。

次回からは、それぞれのプロジェクトにフォーカスした連載が始まります。お楽しみに!

インタビュイー紹介

画像6

青木 竜太|RYUTA AOKI
ヴォロシティ株式会社 代表取締役社長、株式会社オルタナティヴ・マシン 共同創業者、株式会社 無茶苦茶 共同創業者、一般社団法人ALIFE Lab. 代表理事、一般社団法人METACITY COUNCIL 代表理事。
「TEDxKids@Chiyoda」や「Art Hack Day」、そしてアート集団「The TEA-ROOM」の共同設立者兼ディレクターも兼ねる。新たな概念を生み出す目にみえない構造の設計に関心を持ち、主にアートやサイエンス分野でプロジェクトや展覧会のプロデュース、アート作品の制作を行う。
Twitter | Instagram | Web

インタビュワー紹介

画像7

青山 新|SHIN AOYAMA
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科在学中。METACITYメディア部門編集長。
2019年より、批評とメディアのプロジェクト「Rhetorica」に加入。2020年より、「ありうる社会のかたち」を試作/思索するデザインスタジオ「VOLOCITEE」に加入。専門領域は建築デザイン、デザインリサーチ、クリティカルデザイン、スペキュラティヴデザインなど。
PortfolioTwitter

この記事が参加している募集

自己紹介

皆様の応援でMETACITYは支えられています。いただいたサポートは、記事制作に使わせていただきます。本当にありがとうございます!