見出し画像

医師の働き方改革 本当のところ。

2024年4月から、医師の働き方改革が始まる…始まると言っても、より効率よく、運営することは、元々経営上必要な事で、各々の病院で行われていたことですが、要は国がそれに口を出してくる。

私は、中堅下っ端の身で、私の診療科でも高齢化が進んでおり、年齢や学年の割には、指示をするよりも上級医からされる方が多い立場。
要は、自分のペースで仕事をするよりも、ペースを乱される方が多い立場です。

そんな身ですが、昔から他病院、他科含めて、知り合い、お友達は沢山いて、色々と助けてもらっています。で、まぁ他科や他病院の人と話をしていて、話題になってくるのは働き方改革の話。

私自身もですが、皆、これによるシステムの改変を恐れています

働き方改革なのになぜ実際に働いているスタッフが恐れるのか…
これは、間違いなく、各々の思惑と建て前が解離しているからです。

今日はそれを説明していこうと思います。

まず、働き方改革とは何か…

労働時間に一定の制限をつけて、超過し過ぎないようにしましょう。

端的に言うとこういう事です。

これの何が問題か?
①    働き方改革で仕事量=患者数や重症度が変わることはないというところ。
②    最も労働時間の長い実働部隊の医師の負担が増え、収入が減るというところ。

国が働き方改革を謳ったところで、患者数や重症度が変わらないことは自明です。
また、一般的には若手が実働部隊となり、病棟管理、救急対応を行います。上級医以上は外来や手術のアドバイザー的な役割で、1st callを受けることは少なく、著しく労働時間が超過することも少ない。
一方で若手は定時以降も、病棟管理を続け、病歴をまとめたり、書類仕事をしたり、課された論文や学会活動もしている。
上級医以上は管理職扱いになっていることが多く、残業代が基本的には付かない。その分、収入もある程度確保されている。だから残業なんてするほど損で早く帰りたがる。
一方で、若手は基本給は到底“お医者様”とは言えない給料で、それでも100%は支払われない残業代やアルバイト代で、生活を維持している。そんな若手から、収入源の残業やアルバイトを奪うのがこの働き方改革。

若手は文句を言えないし、言う暇もない。上級医や病院管理者等、位が上がれば上がるほど、文句も出るし、政策も進めにくい。

では、なぜこのような解離を生じてなお、働き方改革が推し進められるか…

それは、各々の本音と建て前に解離を生じているから。

国(加害者①)


建て前

 過労死する若手医師がいて、そのような実働部隊にいる医者は、残業時間が100時間を超える超過勤務を行っている。過労死を防ぐために、国としても政策を進めます( -`ω-)✧

本音

 医療費高いねん!これを抑えたい!せや、労働時間に制限かければ、国として“医師のために頑張ってる感”出るし、医療費も抑えられるンゴ(・∀・)

病院(加害者②)


建て前

 確かに若手医師の労働時間は長い。これは健康を害する可能性もあるレベルだ。やはり過労死を防ぐために、働き方改革を進めるべきだ( -`ω-)✧

本音

 ったく、なんでこいつらは、月100時間も時間外に働いてるんだよ。そんなに残業代払えないもんなぁ。労基に垂れ込まれたら面倒だし…まぁ彼らは専門医取るためには、ここで働くしかないし、文句言われない程度に残業代出しておくか…
こんなの申請通りに払ってたら、病院経営できないし、診療科長の給料超えちゃうしな。
ん?働き方改革を推進すれば、補助金貰える?そんなんやるしかないやん!国の政策の下に残業代減らせて、補助金まで入る?ウマー!
患者数減っちゃうかな?まぁそこは各々の診療科内で調整して、患者数減らさないようにしてもらおうっと。

診療科長


建て前

 確かにスタッフの健康維持も大事な事なので、科内でみんなで協力していきましょう。

本音

 ったく、病院側は売り上げや利益ばかりで…実際に回るかな?まぁ自分自身は元々管理職で残業代なんてついていないから、給料は変わらないけど、スタッフの労働時間が削られた分、自分が出ないといけない状況は嫌だな。何とか、スタッフで協力して回してもらおう。あとは、下っ端が労働時間超過してタイムカード切られると、俺も怒られるな…
仕事をしているのは分かっているけれども…タイムカードをちょろまかせと言うべきかどうか…悩むなぁ。

上級医


建て前

 若手の健康も大事です。

本音

 うーん…俺は管理職扱いになっていて、残業代も付かないし、殆ど残業もしていないから、給料はあまり変わらないかな。当直もたまにだし…あ、でも若手が労働時間が制限されたら、俺が出なきゃいけないのかな?いや、俺が若い頃は、そんな労働時間の制限なんてなかったし、何だかんだで若手にさせればいいよな。

若手


建て前

 は、はい。我々の健康を考えてくださるのはうれしいのですが…

本音

 いやいやいや、何よこれ。患者減らないんでしょ?結局仕事量変わらないじゃん。どうせ上級医は今まで通り、『あと、よろしく』って帰っていくんでしょ?残業代つけるなって言われたけど、どういうこと?そもそも十分な残業代払われてないのに、さらに給料減る可能性あるの?え、当直にも制限かかるの?当直は残業代とは別で手当てが付くのに?外勤も制限かかるの?確かに労働時間は長いと感じるけど、自分のスキルアップも必要だし、しっかり働いて、収入得ないと、今の生活維持できないよ。
どうすればいいの?家族養えない。家のローン払えなくなる。ヤバイよ。



誰に聞いてもこれが現実で、守るべき若手医師が被害者になっている悪しき改革であることは間違いありません。言い切ります。

そして、みんな結局、金なんです。汚いけど、金なんです。

私も、科内では下っ端で、どちらかというと被害を被る側にいます。地域の医療を守り、私が対応できる病気で亡くなる人を減らしたい、自分の力で治せる人がいるならば、治したい。そういう気持ちは、間違いなくあります。けれども、私も人間で、地域の医療や患者よりも、家族や子供の生活を守ることの方が優先しなければならないです。このまま総合病院で働き続けて、人を救っても、どんどん医療費は削られていくでしょう。そして、これからの保険診療は、上級医より自分が、自分より後輩が、労働時間でも給料でも苦しい思いをしなければいけなくなることは避けられません。このまま保険診療を進めても、自分がしてきた生活を後輩や我が子にさせてあげられない。
メスを置きたいと思う理由の一つです。

昨今、美容業界に行く医師が多いというニュースを聞きますが、解せない話ではありません。ある種の保険診療に対するストライキだと思ってます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?