アプリをやめるMERYが探した次のメディアの形
はじめまして。MERYという会社のCOOをしている青木といいます。
本日、MERYのリニューアルを発表しました。
自分たちにとってはかつてないほどに大きな転換になるので、1つの区切りとしてここまでの経緯とその中で考えたことをまとめてみました。
リニューアルの概要
2017年に株式会社MERYの設立と同時に開始した公認ライター制度を廃止し、長らく続けてきたアプリをクローズする。そして新たにMERY&というコミュニティを立ち上げて、Webサイトをリニューアルした。少し前にはロゴも新しくした。
MERY社設立から3期目まで(2017-2019)
2017年に新会社を設立し再スタートしたMERYは、公認ライター(直接雇用のアルバイトライター)約100名と、許諾・校閲・編集チェックによる記事供給の体制を構築した。
ローンチした当初は、オペレーションが確立するまで数えきれないぐらいの悪戦苦闘があったけれど、数ヵ月で毎日100本近い記事を届けられるようになり、半年も経たないうちに100万DL・1億PV/月を突破した。「MERYが帰ってきた!」と喜んでくれるユーザーの声は、ブランドの継続を断念しかけていた私たちにとって大きな励みになった。「MERY」でエゴサすれば全ての疲れが癒された。
ユーザーの増加に比例して広告売上も成長し、2018年度中に100ブランドを超える企業からタイアップの発注があった。2016年のキュレーション事件の際に多大なご迷惑をおかけしたクライアントや代理店から再び発注をいただけるようになったことは、ユーザーの熱狂とはまた違った形で私たちを安堵させ、勇気づけてくれた。
翌2019年度は新しく株主として参画した電通のバックアップもあり広告セールスは更に加速した。売上前年比140%まで拡大し、デジタルメディアのタイアップ売上として国内トップクラスと言われるまでに成長することができた。
この頃から記事コンテンツに加えて、編集性の高いプレミアムコンテンツ(MERY mag)やYouTubeチャンネル、リアルイベント(ROOM MERY MATE)など、ユーザーの体験価値を拡げる仕込みも続々とスタートした。少しずつメディア企業としての地盤が整い、攻めの打ち手を探りはじめた1年間だった。
コロナ禍とメディアビジネスの限界(2020)
この流れは2020年4月にピタリと止まった。
「女の子の毎日」からファッションもメイクもデートもカフェもなくなったことで、MERYが届けてきた小さなときめきやお悩み解決策は、これまでのようにはユーザーに読まれなくなってしまった。伸び続けてきたDAUが減少に転じたことは、簡単には受け入れられない現実だった。
また、収益のほぼ全てをコスメ・ファッション領域を中心としたクライアントのタイアップ広告に支えられていたMERYのビジネスにとっても、コロナ禍のダメージは小さくなかった。全国に緊急事態宣言が発令された4・5月は予定していた撮影もストップせざるを得なくなり、広告掲載の延期や中止も相次いだことで売上は掲げていた目標に程遠い数字となった。9月以降からは少しずつ回復したものの、好調だった2019年度の水準には至らなかった。
コロナ禍によってユーザーのライフスタイルと広告ビジネスの形が大きく変わった。いや、コロナは時の流れを加速させたに過ぎず、この流れは不可避だったのかもしれない。
今やファッション・メイクに限らずライフスタイル情報はYouTubeやTikTok、instagram、twitterなどのソーシャルメディア上に溢れていて、秀逸なアルゴリズムが自分の興味関心にぴったりのコンテンツを届けてくれる。SNSのフィードを見られることは、本棚を晒すよりも恥ずかしい。そして莫大なトラフィックを集めたソーシャルメディア上で配信される広告のパフォーマンスはアルゴリズムによって日々改善されていく。最近は音声メディアも急成長している。
グローバル規模のこの潮流の中で、1つのメディアが広告で大きな収益を生み出し、成長し続けることは一層難しくなってきた。
ユーザーの可処分時間も、クライアントの広告予算も使いみちが大きく変わる中で、MERYはどのようにビジネスを成長させるべきなのか?
役に立つ情報も、笑顔になれるエンターテイメントも溢れている世の中に、今足りないものは何だろうか?
1年間近くの間向き合い、議論を重ねてきた結論が今回のリニューアルだ。
MERYがユーザーに届けてきたものとこれから進化させるもの(2021)
MERYのビジネスモデルを教科書っぽく定義すると「記事コンテンツを配信することでトラフィックを獲得し、タイアップ広告を中心にマネタイズするメディアビジネス」といえる。
いまでも「キュレーションサイト」とか「ファッション・コスメの情報サイト」と呼ばれることもあるし、そう言われたからといって否定するものでもない。
ただMERYはトラフィックを獲得するためのテクニカルな記事は作らず、ユーザーと同世代の書き手が切磋琢磨しながら、親友のように大切なユーザーに心を込めてコンテンツを届けてきた。アプリストアに寄せられたレビューを見る限り、少なくないユーザーにその想いは届いていたと信じている。MERYが届けてきたのは単なる情報ではなく、ユーザーが前向きになれる時間であり体験だった。
時代が変わっても、私たちが大切にしてきたコアの価値は変えたくないと思っている。
しかし、コンテンツを配信しタイアップ広告によってマネタイズする狭義のメディアビジネスは、専門性の高いものかハイエンドなものでしか成り立たなくなってきた。私たちがこれまで得意としてきたビジネスモデルでは、次の5年間を戦うのは難しいだろう。
ただ幸せなことに、インターネットサービスの進歩によって体験を届ける手段やツールは多様化している。時代の変化とテクノロジーの進化は脅威であると同時にチャンスなのだ。私たちが届けたかった体験は、3年前には想像もできなかった方法で届けられるようになった。
だから、これからのMERYはコンテンツだけではなく、より幅広い形で前向きになれる体験を届けるブランドに進化する。
これから力を入れていくこと
その1つがコミュニティMERY&を軸にインターネットの世界に居心地のいい場所を作ること。もう1つは、 MERY shopとm.aboutという2つのEC事業を通じて毎日が楽しくなるようなライフスタイルを提案すること。そしてその2つの取り組みを昇華させて、ユーザーはもちろんクライアントとの共創事業やソリューションを生み出していきたい。(MERY社内ではEC事業のことをコミュニティプロダクト事業と呼んでいる)
コロナ禍は私たちから居場所を奪った。
毎日当たり前のように通っていた学校や職場。みんなで集まっていたカフェ。楽しみにしていた推しのライブ。
いや、コロナがなくても私たちは居場所を探し続けていた気がする。
「強い」人たちはSNSで発信し、繋がって更に強くなっていく。でも「普通」の私たちはそれを眺めながら自己肯定感を失いかけることも少なくない。
自分は何が好きなのだろう?自分は何者かになれるだろうか?自分とわかりあえる人はいるのだろうか....?
どれだけインターネットが進化して世界が近くなっても、「普通」の人たちにとってinstagramやYouTubeで輝く人たちは憧れと同時に孤独を感じさせる対象なのかもしれない。
そんな想いに共感してくれるMERY世代のユーザーに、これまでとは違った形でこれまで以上に前向きになれる時間や居場所を届けたい。
5月にスタートしたばかりの「MERY&」には58名のメンバーが集まり、参加者専用のWebサイト上では日夜オンラインイベントや参加メンバーのポストで盛り上がっている。EC事業もD2Cブランドとコラボしたアクセサリーマルシェに加えて、コミュニティメンバーと一緒に作ったエコバックも好評だ。それからもうひとつ、韓国カルチャー発信の越境ECサイトm.aboutも急成長中だ。今年の2月には100人しかいなかったinstagramのフォロワーは先週3,000を突破した。
いずれもまだまだスタートしたばかりの小さな取り組みながら、これからのMERYの第一歩としてはどれも小さくない手ごたえを感じている。
まだスタートラインに立ったばかりだけど、これからのMERYに興味を持ってくれる人がいたら、メディアビジネスの新しい形を創る仲間になって欲しい。
さいごに
会社のCOOとして
これまでのMERYの成長を支えてくれた公認ライターと、MERYのアプリを生み出し育ててくれた開発チーム。そしてそれらを裏方で支え続けてきたバックオフィスのメンバー。その多くがこれまでとは別の新しい役割を担うことになったり、会社を去ることになった。
自分たちが信じた方法で成長し続けることができなかったことは経営者としての私の責任で、残念で申し訳ない気持ちでいっぱいです。そして今、こうして次のスタートを切ることができるのは、これまでMERYに関わってくれた社内外の全てのメンバーや関係者の皆さまのお陰です。本当にありがとうございました。
礎を築いてくれたすべての人たちへの感謝と敬意を胸に、半年後、1年後に絶対に後悔しないように事業に全力で向き合う所存です。
個人として
2015年に初めてアプリがリリースされた直後にMERYにjoinして、気づけば社内で2番目の古参社員になっていた。社会人になってこれだけ長い間1つのブランドに携わるのは初めてだ。
時々「なんでずっとMERYにいるの?これからの時代は〇〇だよ(〇〇にはYouTube、音声、SaaS、D2C、フィンテック、ブロックチェーン、AI....etcが入る)」などと言われることがある。ただ不思議と今のところまだMERY以外に自分が働く場所としての興味は持てない。それぐらい自分にとってMERYが放つパッションとエネルギーは特別なのかもしれない。
16歳で高校を辞めてどうやって生きていくか迷走していた頃に、自分を救ってくれたのは家族や友達やバイト先の先輩や雑誌や小説や漫画だった。その時の出会いがあったから今までなんとかやって来られた。
MERY世代のユーザーとは時代もジェンダーも違うけど、10代後半とか20代前半の出会いや、そこから生まれる感情は一生の宝物になると信じているし、それがMERYを続けている理由なのだと思う。
「ゆとり」「ミレニアル」「Z世代」と呼び方は変わっても、10代20代の人たちが輝ける社会であり続けられたら日本はもっと元気になるはず。
そして、たとえ小さくても自分たちがその一端を担えたら仕事人として最高の喜びになると信じている。
これからのMERYをどうぞよろしくお願いします。
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