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『食い逃げされてもバイトは雇うな』は間違いか正解か

上下巻のタイトルが真逆という発想

 ミリオンセラー『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』を18年経った今になって読み、すっかり山田真哉のファンになった。そこで続編である本書上下巻も入手した。
 タイトルが秀逸だ。上巻『食い逃げされてもバイトは雇うな』に対し、下巻が『「食い逃げされてもバイトは雇うな」なんて大間違い』。こういう発想の本を見たことがない。
 『さおだけ屋~』の続編ということで、『さおだけ~』の復習も兼ねており、全書の問いがこちらでも出てくる。「あっそうだった、そうだった!」と思いながら読み進めることができるのはありがたい。
 ただし前書が会計の入門書であるならばこれは基本篇。だいぶ会計・数字の色が強くなっている。数字が苦手な者としては、きちんと理解して読むのはけっこうツライのだが、それぞれの章の終わりに「まとめ」がある。ここで「復習」できるしくみになっているので、なんとかついていくことができる。
 さて、この上下巻だが、「食い逃げされてもバイトは雇うな」の意味は上巻でわかった。そこへ下巻のタイトル『「食い逃げされてもバイトは雇うな」なんて大間違い」だ。読者は、なぜ大間違いなのかと問いを立てて下巻を読み進めることができる。

「禁じられた数字」とは

 本書には、「禁じられた数字」という語が出てくる。何だろうと思いながら読んでいたが、ちゃんと答えも載っている。「『禁じられた数字』は正直者の皮をかぶった詐欺師みたいなもの」だと著者は言う。例えば宝くじ売り場で「1億円が12本出ました!」は、実績としては事実だが、確率が高いとわけではないので、そこで宝くじを買う理由としては正しくない。「事実だけれど正しくはない」。これが「禁じられた数字」だという。なるほどそういうことか。
 他にも、Amazonキャンペーンでランキングを操作するのは違法でもないし広く知られているが、「作られた数字」にすぎない。こういうものに騙されないように過ごさなくては、と改めて思った。

「効率化」には準備が要る

 ビジネス世界では、「効率化」という語を見ない日はない。企業のリストらがよい例だ。中高年の社員と予算を減らすというのは、今日もどこかの会社で話し合われ、実施され、退職の挨拶をする人がいるはずだ。
 だが、「効率化」には準備が要ると著者はいう。「改善すべきムラ・ムダを把握すること、もしくは状況を一変させるアイデアが先に存在していること」が大事なのに、その準備抜きで最初から効率化をしてしまう会社が後を絶たない。
 何も把握せず人員と予算を減らすだけではムラ・ムダならぬ「ムリ」が生じてしまう。形だけの効率化が会社の力を弱めることとなった例を挙げているのが、さすが会計士である。「準備された効率化は人や会社を豊かにしますが、準備なき効率化は人や会社を疲弊させるだけ」。
 「効率化」によって幸せになった会社は本当にあるのだろうかと疑問を抱いていたが、ここがポイントだったのだ。「準備もなく人減らしをしただけ」では、会社の体力を弱めるだけ。ああ、そういうことなのね。
 ひとごとではなく、フリーランスにも言える。時間を売っているフリーランスは、効率化すれば自分の「時間あたり単価」が上がる。だがそのためには準備が必要だ。
 自分は「改善すべきムラ・ムダを把握する」か、「状況を一変させるアイデアが先に存在している」状態で効率化を考えてきただろうか。残念ながらそうではなかったことも多い。効率化がうまくいった人の真似をしても、それが自分の効率化につながるわけではない。
 とくにわたしは翻訳校閲という、かなり特殊な世界に身をおいている。翻訳者とも校閲者とも交流はあるが、彼らの効率化をそのまま真似ることが自分の効率化につながるかというと、ちょっと違うと思うことが多い。
 それがなぜなのか、本書を読んでわかった。

「数字がうまく」なったかな?

 著者によると、本書の目的は、読んだ人が「数字がうまく」なることだという。「数字につよく」ではなく「うまく」である。つまり、数字は文章のように「うまく」なれるのである。
 本を1冊読んだくらいで「数字がつよく」なることはないと思っていたが、少なくても少しだけ「数字がうまく」はなった気がする。確かにこの本を読み終わって、数字への苦手意識が少し消えた。
 まず数字に騙されないように、「常に数字の裏を読もう」。それだけは決意して、本を閉じて机上に置いたのである。

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