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アントグループの上場延期から2つのことを読み解く

note記事『戦略をアップデートする』は、競争戦略コンサルタントとしてGAFA×BATH等の米中メガテック企業をはじめ国内外トップ企業の動向をフォローしている田中道昭が、日々行っているこれら企業へのリサーチの中から、その内容をnoteでシェアするものです。

今日の『戦略をアップデートする』で取り上げるのは、アントグループです。

『週刊エコノミスト』1月19日号・中国特集号において、アリババやアントグループについての私の執筆記事が2ページにわたって掲載されました。

このnote記事『戦略をアップデートする』第78回でも取り上げましたが、アントグループは昨年11月、上場直前になって上場が延期され、特にそれ以降、中国政府のアリババやアントグループに対する統制が強まっていることが日本でも大きく報道されています。

わたしが最も注目しているのは、アントの上場延期を決めた上海証券取引所(SSE)が、11月3日と5日付でプレスリリースした内容(第78回参照)です。これらの中で、「中国のフィンテックに関する規制環境の変化がアントグループのビジネス構造や収益モデルに大きな影響を与える可能性があることから、上場延期という決定は責任感ある対処である」などと述べられており、証券取引所による上場候補先についての開示としては異例とも言える内容となっています。その後の展開も、同開示で示されていたようなものになっていることが多くのことを物語っていると思います。

わたしは、アントグループ上場延期から二つのことを読み解いています。

一つは、かねてから言われていることですが改めて、中国というカントリーリスクへの配慮の必要性です。中国政府による民間企業への統制のもと、中国で事業を行うには、例えば優れたカスタマーエクスペリエンスを提供するだけではなく、政治的配慮を根底に置く必要があるということです。独占禁止の観点からの規制強化も顕著です。中国メガテック企業は中国政府の国策のもと支援を受けながら成長してきましたが、今や大きな影響力を持つに至り、テクノロジー覇権を巡る米中新冷戦にあってもその市場支配抑制への圧力はいくぶん強まっているようです。

もう一つは、今後の中国金融行政の動きです。アントグループの存在は、これまで既存金融機関に対して大きな影響を及ぼしてきました。アントグループは、上場延期を契機に、SSEのリリースでも言及されたフィンテック規制改正に関連した事業構造や利益モデルの見直し、そして「テクノロジー企業」というよりも「金融企業」または金融持株会社として戦略の軌道修正を求められる可能性があるのではないかと思います。その意味で、上場プロセスの再開見通しは不透明と言わざるを得ないでしょう。さらに、テンセントや中国平安保険などテクノロジーを基盤として金融サービスを提供する企業グループにも少なからず影響があることが予想され、今後の動向を注視する必要があります。

エコノミストの記事では、「中国、アリババやアントで起きていること」、「それらが起きた理由や背景」、「アリババ、アント、ジャック・マー」、「今回の問題点・論点」、「日本企業への課題」などについてまとめています。ぜひお手に取っていただけたら幸いです。

田中道昭

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