言葉好きが終わらない。

白川静が好きだ。日本の漢字研究において神様みたいな存在である。

この人の文章はどれも誠実で情熱的で、いま読んでる『文字遊心』『文字逍遙』も、熱意を持って研究成果を伝えてくれる。

面白いのは「道」という漢字の成り立ちだ。「みち」は「未知」に通じる。今いるところを離れ、別の場所へと通路を拓くことには危険がつきものだ。そのため呪術的な魔除けとして、捕虜の首を携えて行った、というのが「道」に「首」が含まれている理由らしい。

私は「道」をそんな風に──例えば、未知の世界へ繋がる通路であるとか、それを最初に築いた人がどんな危険をおかしたかとか──考えたことがなかった。どれほど自分がコンクリートで塗り固められている道路に飼い慣らされ、昔に比べて危険の排除された世界を生きているか、顧みるきっかけになった。

自分が生きているのは21世紀だ。もうどこにも未開発の土地なんてない、地図が完成され区画が整理され、私たちのいる空間はすべて人の管理の下にある。そこから大昔の人の気持ちを想像したりしたところで、その気持ちに肉薄することはほとんど不可能なんじゃないか。それくらいの長いときが、道を開いた彼らと自分の間には流れている。

普通に日常を送っていたら出逢えないような、新しい感情を知るようになる。この体験があるから言葉について調べることは止められない。言葉好きが、終わらない。

本を買ったり、勉強したりするのに使っています。最近、買ったのはフーコー『言葉と物』(仏語版)。