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おてもとの異文化【パッケージデザイン】

 こんなときだけど、こんなときだからソ連のかわいいパッケージを眺めている。地元に来るバレエ団が「チャイコフスキーはロシア人だから嫌い、あいつの作った白鳥の湖なんて踊らない」と言って演目を変えた。チャイさんに罪はない。

 なんで古い異国の包装紙の本なんか持っているかというと、もらったからだ。読書家の叔母さんがたまにくれる。めずらしいもの好きの叔母だから、普段買わないような本ばかり送ってくる。
 
 本の中には、チョコレートの包み紙とかキャンディの包装紙、クッキーのパッケージが並んでいる。それからソ連のお菓子レシピ。家庭料理だけあって、あまり手の混んでいない素朴なお茶請けがたくさんあり、見ていると作りたくなる。
 
 じわじわ来たのは「偽ジャガイモのケーキ」と呼ばれる小さなチョコケーキで、なぜお菓子にその名前を?と思ってしまう。「今日のおやつは偽物のジャガイモよ!」「わーい!」みたいなのあんまり想像できないけど、ソ連では普通だったんだろうか。
 
 向こうの言葉では「ピロージナエ・カルトシカ」と言うらしい。たぶん「カルトシカ」が「ジャガイモ」だろう。ドイツ語でもカロトッフェルと言うから。フランス語になるといきなり「ポム・ドゥ・テール(大地のリンゴ)」になるのは言語派閥の違いか。
 
 包装紙で印象的なのは、そこに描かれた女の子たちだ。民族衣装を着て花を持っているのもあれば、頭にスカーフを巻いた小さな女の子の絵柄も。見ようによっては、いわさきちひろの絵を彷彿とさせる。(二枚目)

イスクラ『ノスタルジア喫茶 子どもの頃の懐かしい味』グラフィック社、2021年、135頁。
同上、169頁。

 スカーフ姿のほうは、子どものために作られた安価のチョコレート「アリョンカ」のもの。もともと実在する女児を基につくられたデザインで、その後パッケージを変更するものの消費者からのウケが悪く、元に戻ったらしい。
 
 本には「(消費者からの人気は)社会主義でも気にするところなのだろうか?」と書かれていた。うーん、売れる売れないに関わらず「あのデザインいいよね」って言われるほうが作ってるほうも嬉しいのでは。
 逆に「あのデザインがよかったのになんで変えたの」って言われ続けるのは、社会主義国に住んでいても嫌だったんだと思う。これはまったくの想像だけれど。
 
 「アリョンカ」について書かれたページには、さらにこんな記述があった。

当時は著作権や商標権などへの意識が低くソ連の経済圏、共和国内で同じまたは類似の商品を持つことは問題視されなかった。それゆえソ連が解体し個々の工場が民営化したのちに同じブランドで作れなくなったり、商標が登録されていたりしてデザインが使えなくなった事例も多い。

同上、168頁。

 そっかあ……。資本主義社会では「このデザインは私の!」と主張するのが当たり前だからその感覚でいたけど、そうか社会主義だとこのへんは緩いのか。みんなしてちょっとずつ違うもの作りながら、みんな同じ名前を名乗っていいわけだ……。
 
 コンビニで「これどう見てもポンデリングじゃん」と思いながら、いちおうは別の名前のドーナツを買ったことを思い出す。資本主義だから仕方ないね。
 
 ほかにも、ソ連を代表するアニメ「チェブラーシカ」柄の紹介ページにはこんな文章が。

ソ連時代には無許可で様々な商品が作られたので、後々、このかわいいキャラクターが係争の渦に飲まれてしまうことになる。

同上、165頁。

 ノーコメント。チェブラーシカかわいいよね。
 
 外国の包装紙っていうのは、何が書かれているか文字は読めなくても、すごく「異国」を感じられて楽しい。国によって色彩センスが違い、紙の質感が違う。ひょっとしたら海外には「日本のパッケージ集めました」みたいな本があるかもしれない。あるだろう。
 
 日本なら、わりとスッキリ目のデザインが好きかな。

「黒文字は千利休も愛した和製ハーブ。白神山地の豊かな風土と、清らかな水で育った香り豊かなお茶です(ノンカフェイン)」とのこと。ハーブ独特の葉っぱっぽさはあるものの、飲みやすくて体にいい感じがした。サイトは以下。


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本を買ったり、勉強したりするのに使っています。最近、買ったのはフーコー『言葉と物』(仏語版)。