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スタートアップにおける報酬制度の課題とは?報酬サーベイのメリットや特徴、事例を解説【スタートアップ×組織人事コラム #3】

「スタートアップ×組織人事コラム」とは、マーサーの有志が運営するスタートアップ企業向けの連載コラムです。組織・人事フィールドで長年蓄積したノウハウをもとに、企業成長をサポートする情報を発信していきます!

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スタートアップ企業が市場競争力の高い報酬制度を作るには

​​レイター期やIPO間近の​​スタートアップ企業​​では、報酬制度に関する課題が​​顕著になるケースが​​多く見られます​​。​​すでに報酬制度を導入してい​​ても​​、企業規模や事業フェーズが変化する中で、自社の報酬水準が採用市場と大きく乖離して​​しまう​​場合もあります。​

​​スタートアップ企業が報酬設定する際は、社内の公平性を保つ観点だけではなく、社外の採用競争力等も意識することが大切です。自社の報酬水準が適正かどうか把握するために、市場報酬データ(以下、報酬サーベイ)を活用することが有効と考えられます。​

​​本記事ではスタートアップ企業の報酬制度に焦点をあて、​​客観的な報酬設計に役立つ​​​​​​報酬サーベイ​​の概要や活用のメリット、事例をご紹介します。​

<この記事はこんな方におすすめ>
● 報酬制度を導入してから見直しを行っていないスタートアップ企業の経営者・人事
​● 従業員等から、「自社の報酬がなぜこの水準なのか」説明を求められている経営者・人事​
​​● 採用のオファーレター提示後の​​辞退​​が課題となっている企業の経営者・人事​
​​など

​世間の「賃上げ」はスタートアップ企業も無視できない

2023年は、世界的な物価上昇や人材の獲得競争を背景に、ベアや昇給などの賃上げに大きな関心が寄せられた年でした。経団連の「2023年春季労使交渉・大手企業業種別妥結結果(最終集計)」によると、毎月決まって従業員に支給する月例賃金の引き上げ率は、1993年以来30年ぶりの引き上げ率である3.99%を記録。​

​​中には、10%前後の昇給を実施する企業もあり、従来の日本企業が​​行いがちな​​“横並び”の動きから、自社の状況・戦略に従って方針を決める流れに移行していることがわかります。​

​​また、マーサージャパンが2023年11月に実施した調査では、回答企業の半数以上が、2024年以降も賃上げを行うことを表明しています。​​​​このような賃上げ動向は、スタートアップ企業も無視することはできません。特にレイターやIPO前後の企業では、大企業からの転職者等も増えていきます。自社の報酬を定期的に見直さなければ、自社が直面する採用市場における報酬水準との乖離が広がり、結果的に採用競争力の低下につながってしまうリスクがあります。​

自社の報酬が市場と乖離していると、採用・定着等の課題に直結​

​スタートアップ​​企業が直面​​しがちな報酬水準にまつわる課題を​​紹介します。

よくある課題・悩み(例)
● 求人票や求人広告に記載している報酬が、妥当な水準かわからない​
​​● 採用選考を進めても、報酬面を理由に辞退されてしまう​
​​● ​市場を意識して報酬設定しているが、採用エージェントからの情報や、口コミ等の不確実性の高い情報を頼りにしている
● 社員から「他社の報酬は自社よりも高いらしい」等の不満の声が聞かれるようになった
(場合により、報酬が大きな要因となり離職が発生している)
● 採用候補者や社員から、「なぜ自社の報酬はこの水準なのか」と説明が求められている
● 賞与の導入を検討しているが、どの程度の水準が妥当なのか分からない

​​これらの課題は、自社の報酬水準を決める際に、市場の報酬水準を参照できていない、あるいは曖昧な情報を参照してしまっていることが原因のひとつと考えられます。​

報酬サーベイを活用する企業が増えている

​​各社が市場競争力の強化を重視する中で、マーサージャパンの報酬サーベイを活用する企業は年々増加傾向にあります。​

​​報酬サーベイとは、企業から収集した報酬情報をデータベース化したサービスで、産業別、企業規模別、職種・職位別、年齢別といった複数条件の掛け合わせで比較分析が可能です。​

​​年に一度実施しているマーサーの報酬サーベイは、日系外資系を合わせた2023年の総参加企業数が1,237社(昨年1,021社)、日系企業の参加企業数は149社増(昨対比+35%)の579社(2023年11月29日時点見込み)となり、日本国内における報酬サーベイとしては過去最大規模を更新しました。​

重ねて、同社が2023年12月に実施したスタートアップ向けエンジニア報酬調査には113社が参加。スタートアップ企業でも報酬サーベイを活用していることがわかります。​

報酬サーベイを活用する一般的な目的​

報酬サーベイを活用する代表的な目的は「市場の中での自社の立ち位置を確認するため」です。より具体的な目的としては、次の3つが代表的です。

①市場競争力のある報酬制度への改定
②中途採用の際の報酬ベンチマーク
③離職引き留めの際の報酬ベンチマーク

​冒頭でご紹介した経団連調査では、調査対象企業の45%が「業界内の競合の報酬水準・賃上げ動向」と「採用市場・採用競合の報酬水準・賃上げ動向」を賃上げ検討の際に参照すると回答しています。すなわち、報酬サーベイは賃上げ検討の際に重要なツールといえるでしょう。

報酬サーベイをスタートアップ企業が活用するメリット

​​続いて、スタートアップやベンチャー企業が報酬サーベイを活用するメリットをご紹介します。​

①採用力の強化

​​1つ目のメリットは、報酬サーベイを活用することによって、採用力の強化に繋げることができます。 定期的に、客観的なデータに基づき自社の報酬水準を検証し、自社がマーケットでどこに位置しているのか確認することで、求職者に根拠のある報酬額を提示することができます。​

​​報酬水準が市場に劣後していることによる採用機会ロスを防ぎ、求職者にとっても納得感のある報酬をオファーしやすくなります。​

②​従業員に対して納得感のある報酬水準の設定​

​​従業員に納得感のある報酬水準の説明がしやすい点も、報酬サーベイ活用の大きなメリットです。​​「A社ではマネージャーはこれくらいの報酬と聞いた」「B社ではエンジニアにいくら出している」など、社員から口コミベースで報酬に関する意見が出てくることが少なくありません。客観的なデータに基づき報酬水準を説明できると、採用時にも有効的です。​

​​また、入社後に思ったより年収アップしないと不満に感じる従業員に対しても、根拠をもった説明が求められます。社員の評価や貢献に対するフィードバックをすることはもちろんのこと、自社の報酬水準は市場データを参照して決めることは、本人の報酬への納得感を高めることにもつながります。​

補足:社内で報酬水準開示のメリット
「従業員のライフプランやキャリア形成に寄与​」​​

​​報酬サーベイを活用して整えた報酬水準を開示することで、従業員がライフプランやキャリアプランを立てやすくなるメリットもあります。ジョブやグレードごとのスタート値と上限値を示し、現在の年収からの伸びしろを従業員本人が理解できれば、明確な目標設定が可能になるためです。​
​​具体的には「ライフステージの変化で〇〇万円の報酬水準を目指したい」と希望があった場合に、どのような期待役割や職務レベルに達すれば、目標の報酬水準に到達するのか報酬データを見て確認します。自身が取組むべき内容をクリアにした状態で、上長とキャリアプランを含めた目標設定を行い、具体的なアクションにつなげていくイメージです。

③人件費の最適化​

​​報酬サーベイを活用することで、人件費の最適化を図れるメリットもあります。​​報酬制度がある場合でも、社外の労働市場に照らしてみると特定のポジションに報酬を払いすぎていたり、反対に報酬が低すぎたりする場合もあります。​

​​報酬サーベイを通して社外の水準​に照らして、過払い・過少払いを解消することで、支払うべき人に報酬を支払い、人件費の最適配分につなげることができます。

④透明性の高い経営体制の構築​

​​報酬サーベイを用いて市場報酬水準をベンチマークした報酬設定を行い、​​競争力のある報酬レンジを社外に公開することでPRにつながるメリットもあります。​
​​市場報酬水準と比較して、自社の報酬設計に優位性があることが証明できれば、報酬制度の社外公開がそのままPRにつながります。また、本来クローズドになりがちな情報を社外公開するスタンスにより、透明性の高い経営体制もアピールできます。とりわけスタートアップ​​企業​​は、投資家やステークホルダーに対して自社の経営体制を伝えるきっかけにもなるでしょう。​

スタートアップ・ベンチャー企業の報酬サーベイ活用事例

最後に、スタートアップやベンチャー企業の報酬サーベイ活用事例として、株式会社ココナラの取組みをご紹介します。


株式会社ココナラでは、2021年から報酬サーベイを活用しています。同社は、上場や事業の多角化にともなって社内カルチャーや人事制度を再構築する過程で、報酬サーベイを導入しました。人事評価制度の昇給メカニズムと報酬レンジの見直しにあたり、客観的な市場の指標を反映させることが必要不可欠と考えたそうです。

​​1つの会社の中でも、ビジネス職とエンジニア職では市場感は異なり、エンジニア職もジョブによって報酬市場の高低があります。報酬サーベイを活用すれば、ジョブとグレードを掛け合わせた細かな分類でデータ確認が可能です。​

​​また、採用競合として第一想起される同規模のベンチャー企業だけでなく、企業規模や日系・外資系など複数の切り口で、競合となり得る企業群のデータを俯瞰​​しながら、​​自社の制度設計に役立てたそうです。​

​​より詳しいエピソードは、こちらの記事でご紹介しています。​

まとめ

​​世界的な物価上昇や人材獲得競争を背景に、2024年も企業の賃上げは続く見込みです。自社の報酬水準が市場と大きく乖離してしまうと、採用や人材定着の課題につながる​​リスクがあるでしょう​​。​
​​とくに、スタートアップ​​企業​​は求職者の前職年収やエージェント情報​​​​のみを頼りに、報酬決定をすることも多いです。ぜひ一度、報酬サーベイを活用して、自社の立ち位置を俯瞰してみることをおすすめします。​

​​なお、マーサーの提供する報酬サーベイでは、年収に占める変動報酬の割合だけでなく、セールスインセンティブの支給割合やストックオプションなどの支給状況、住宅手当や家族手当​​など​​、さまざまな観点から市場比較​​ができます。​

​​報酬サーベイの利用手順や活用方法については、マーサージャパンにお気軽にご相談ください。マーサージャパンでは、スタートアップ・ベンチャー企業の組織人事コンサルティング支援を多く手掛けています。​


「エンジニアの報酬設定がむずかしい」というスタートアップ経営者の課題への一助となることを目指し、マーサージャパンではスタートアップ向けエンジニア報酬調査を実施しています。

調査にご参加いただいた方には、無料で調査結果レポートをお送りしています(報酬水準、株式報酬の支給状況などを集計)。

この調査には、複数のベンチャーキャピタルにもご協力いただき、多くの国内スタートアップが参加しています。まだご参加いただいていない場合は、ぜひこの機会にご参加ください。

本調査の趣旨にご賛同いただけるスタートアップのお知り合いの方への共有も大歓迎です!

◇本記事はマーサージャパン公式のコンサルタントコラムをもとに再構成・執筆をしています。