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真面目な難問珍問を笑う「冠婚葬祭でモメる100の理由」島田裕巳

「葬式は、要らない」などで有名な宗教学者の島田氏が、冠婚葬祭に関わる質問に答えていくというスタイルの一冊。終活の勉強で読了。興味深い質問も多いが、同時に、笑える質問、笑える解答も多い。
もちろん、質問した本人は大真面目であり、島田氏もいたってまじめに答えているのだが、そのやりとりはまるでナンセンスギャグの世界になっている。真面目な顔しているだけに面白いってやつだ。

変わりゆく文化

冠婚葬祭の儀礼・儀式・伝統は、長い期間をかけて作られた習俗だが、この数十年は習俗が一気に変わる時代だ。その変化の時代に、「やっぱりこれやっておかなきゃだめなのかな」と迷う現代人と、「何のためにそれをやっているんですか」と問いかける島田氏。このギャップが面白い。

「冠婚葬祭の中で、今もっとも揺れているのが「葬」にかんするしきたりです。いかに死を迎えるかからはじまって、葬式や墓のことなど、多くの人達が悩んでいます。」(P96)

この本の中でも「葬」に関する部分は、特別な思い入れと語り口で質問者に答えているように感じる。また、私もこの項目を一番興味をもって読みすすめた。

たとえば「葬儀社による松竹梅コース、どれを選ぶべきでしょうか?」という珍問には、島田氏は「迷うなら一番高い松を選ぶべきです。」「とバッサリ回答する。

「・・・迷うということは、一番高いものでも支払える経済的な余裕があるからに違いありません。世間体や見栄を考えているなら、一番豪華な祭壇を選んだほうが後で後悔することもないでしょう。・・・豪華な葬儀は,無駄には違いありません。しかし、人間はたんに倹約し、つましい生活を送るだけでは満足できず、どこかで散財したいという気持ちを持っています。葬儀で散財すれば、それで潤う人もいます。内需拡大の1つの方法かもしれません。」(P101)

その他にも、興味深い質問がてんこ盛りだ。

・散骨で「千の風」になりたい
・香典返しが虚礼に思えてしょうがない
・自分の葬式に「ヘイ・ジュード」をかけたい
・供養する人がいなくなった骨を、お寺は捨ててよいか
・ペットに遺産相続させたい
・先祖供養しないと祟られるか

どの質問も考えさせるもので、ぜひ、本書を手にとって読んでいただきたい。1ページ読み切り型なので、トイレ読書に向いている。気軽に読み進めるだけで、日本人の宗教観も習俗に対する感覚も鋭敏にできる。

注意点として、伝統や習俗に関するしきたりに、必ずこうすべき、あ~すべきというものはない。自分の固く守りたいものが何なのかをはっきりさせながら、今の時代に向き合っていくことを、島田氏は勧めたいのではないか?ドライな島田氏の回答の中に、込められた愛を感じたりした。

「専門家は、自分の利益になるように、あるいは自分の主張を通すために、ある面だけをことさら強調するものです。私を含め、専門家は絶対ではありません。」(P207)

固そうに見えますが、ぱっと見の印象よりも、なかなかに面白いので、おすすめの一冊。終活読書のラインアップに加えてほしい。

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大人のADHDグレーゾーンの片隅でひっそりと生活しています。メンタルを強くするために、睡眠至上主義・糖質制限プロテイン生活で生きています。プチkindle作家です(出品一覧:https://amzn.to/3oOl8tq