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集中力とマインドフルネス

ストレスがかかる状況では、私たちの注意力は信頼できないものとなってしまいます。この記事では、神経科学者であるAmishi Jha医師の最新の著書 ”Peak Mind” の中から、マインドフルネスがどのように精鋭軍人らの注意力を守るのかについての研究を記したMindful 2021年12月号の記事 “Find Your Focus”(原文タイトル)を翻訳して記します。

筆者のAmishi Jha医師は、マイアミ大学の心理学教授。彼女は2010年に創設されたMiami’s Mindfulness Research and Practice Initiativeのリーダーです。Jha医師の研究はNATO、世界経済フォーラム、ペンタゴンで取り上げられており、Mindful誌の定期科学コンサルタント兼執筆者です。

■マインドフルが注意力に及ぼす影響

Jha医師は、私たちの脳の機能に、いくつかのパターンを見出したと言います。それはいかに集中できるか、しかしそれでいていかに注意が逸れやすいということです。どんな時であれ、かなりの確率であなたは何か別のことを考えていると断言できます。こうした思考の「旅行」は、私たちの注意力を低下させる原因です。多くの場合、ストレスがかかることで、私たちの注意が今この瞬間から奪われてしまいます。
こうした背景を受けて、私はマインドフルネスを「脳のトレーニングツール」として用いれば、注意力を保護し強化できるのではないかと考えるようになりました。そこで、最も高ストレス負荷がかかる群の一つとして、軍人に対する影響を調べることにしました。

・アメリカ海軍兵の研究

研究の話を持ち掛けたMarine Corps Reserve CenterのJason Spitaletta船長は、当初うまくいくはずがないと私に言いました。その当時マインドフルネスは海軍兵にとって投資する対象ではなかったのです。
それでも彼はJeff Davis共同船長と共に、マインドフルネスと注意力に関する研究を承諾してくれました。この当時、マインドフルネスは「認知トレーニング」として知られてはいませんでしたので、私の目標は、説得力のある実験を計画することにありました。すなわち注意力のわずかな変化をも検出できる適切な質問事項と評価項目を設定するというものです。
私の研究チームはまず、PCを用い被験者に様々な認知課題を与えました。同時に被験者の気分やストレスレベルも調べました。この検証を配属前の8週間、確立されたマインドフルネスベースのストレス軽減法を24時間プログラムとして提供しました。彼らに課せられたのは毎日30分トレーニングを行うことでした。8週間後再び認知課題を与えました。

・少なくても定期的なトレーニングが役立つ

よくあることですが、被験者が行ったマインドフルネストレーニングの量には大きなばらつきが見られました。トレーニング量に応じて郡に分けて解析することにしました。すると配属前のトレーニング終了時には、より多くトレーニングを行った被験者群は、トレーニングが少なかった群やトレーニングを行っていない群と比較して、高得点を取りかつストレスが低かったのです。マインドフルネスにより確かに注意力が保たれていたのです。
ところがこの研究の後に、配属から戻った被験者を再び調べてみると、途中でやめてしまったなどの理由で被験者は少なく統計的有意性は見られないものの、ある一つのパターンが見られました。トレーニングが少ない被験者の中でも、配属前よりもよい成績を示したのです。このケースではイラクへの配属でしたが、予期せぬスケジュールや高負荷環境が、マインドフルネスの効果を一段と明らかなものとしていたのです。その結果トレーニングを多く行った群のような結果となったのでした。
この研究では、結果こそそれなりでしたが、その示唆は絶大でした。まずマインドフルネストレーニングは注意力を保護するものとして、軍人という高負荷被験者群に対して導入しうるというものでした。そして定期的なトレーニングことが役立つということです。

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■最小限で効果的なマインドフルネストレーニング

マインドフルネスを行うと、注意-行動、認知-事象観察、注意力散漫に関わるような脳のネットワークが全て活性化します。また長く行うほど、記憶力の改善や幸福感が高まるなど様々な効果が得られます。さらに驚くべきは、脳の構造が変化し、注意ネットワークとデフォルトモードネットワーク間のより良い連携、デフォルトモードネットワークの低下といった機能改善が起こります。
米国陸軍は私たちの研究成果に関心を持ち、複数の軍基地に、すぐさまトレーニングを導入してほしいと求めました。トレーニングプログラムも、より簡単で短く、それでいて一層効果のあるものにしなければなりませんでした。

・フットボール選手の例

私は、マインドフルネスに関する実用的な本も執筆している、Scott Rogers氏と協力することとしました。私たちは過去の研究で高い認知パフォーマンスを示した被験者群のデータを見返したところ、彼らは平均して一日当たり12分間トレーニングを行っていることが分かりました。
これに基づく新たな試験として、Scott氏は12分間のマインドフルネストレーニング音声を録音し、それを用いてフットボール選手らに1か月間のトレーニングを毎日行ってもらいました。ここでも被験者らに見られた効果に差があり、多くトレーニングした被験者群は平均して週に5日間トレーニングを行っていることが分かりました。

・12分のトレーニングを週5日

続けて精鋭特殊作戦部隊の心理学者にも協力いただいて、兵士らに2週間あるいは4週間トレーニングを行ってもらいました。その結果、トレーニング効果は2週間続けるだけでは見られず、4週間かけて行う必要があることが分かりました。
このようにマインドフルネスはやればやった分だけ効果があるという性質を持ちます。上記の研究成果から、私は12分間のトレーニングを、週5日続けることをお勧めしています。このわずかな時間の投資で、あなたはとてつもない見返りを得ることができるでしょう。ただし、健康のためには一日運動して終わるのではなく、運動し続けることが大切であるように、注意力を保護し強化していくためには、マインドフルネストレーニングもまた継続する必要があります。

マインドフルネスの効果は科学的に明らかとなっていますし、これから先もどんどん分かってくることが出てくるでしょう。少なくとも今回の研究で分かったこと、すなわち私たちが望むところに注意力を保持する能力、はどのように注意力と記憶力を補助するかについて私たちが最大限知りうる理解です。このことを私たちは誰も、生まれた時から知っているのではありません。磨き上げていく必要があるのです。少なくともそれをどうするかは今わかりつつあるのです。

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【論文出典】Amishi P. Jha医師執筆 “Peak Mind” からの抜粋。HarperCollinsのHarperOne 出版社の許可を得て、Mindful 2021年12月号に転載。


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