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本が返ってこないことを諦めざるを得なかった理由

前の職場にいるころ、人間関係で悩みが絶えず仕事の成績も落ちてゆき、悲壮感たっぷりの毎日を送っていた。
書店で1冊の本を見つけて買った。

アドラーの【嫌われる勇気】だ。

アドラーと言う人の名前も知らなかったが、タイトルと帯だけ見て買ったようなもんだ。本屋のPOPにはバカ売れと書いてあったように思う。
衝動買いだ。

あの頃、まともな判断ができなくて藁にも縋るような気持ちで生きていた。

この本を読んでみたものの、当時の切羽詰まりすぎている精神状態では全く理解できなかった。
タイトルだけ見て「これ読んだら嫌われても平気なメンタルを持つことができるようになる」と勝手に解釈していたが、違った。(笑)そりゃそうだ。

本は最後まで読んでいなかったと思う。
読んでる途中で、違うと気が付いたから(笑)






ある日、会社で先輩がパワハラを受けてすごく凹んでいる様子を見かけた。
飲み会でその先輩が隣の席になったので、聞くともなしにその話や人間関係の難しさを話していたら、ちょっと前に買ったアドラーの本のことを思い出した。
その本の話をすると先輩も興味津々だったので、翌日私は
「読んでみてくださいね。」
と貸し出した。


何週間か経って、先輩が
「ありがとう、あの本、すごく為になった。
まだ読んでる途中なの。もう少し。
その代わりと言ってはなんだけど、これ貸してあげる。」
と手渡してきた本が、【フランス人は10着しか服を持たない】という本だった。(あ、知ってる。これきっと読まないな。)
と思いつつも、お礼だけ言って受け取った。

なんでこの本なの?と思いながらも興味は全くないので読まずに部屋にずっと放置してた(笑)
そもそも、その頃はミニマリストではなかったし。
マキシマリストに近かったねぇ。(笑)
先輩がアドラーの本を返してきたときに、借りたフランス人は…の本を返せばいいかと思ってた。

3ヶ月ぐらい経ったとき、先輩が駆け寄ってきてこう言った。
「ほんと、きんにくちゃんのおかげ。
あの本を読んでから、いろんなセミナーなんかに参加するようになって、上司からのパワハラもあんまり気にしなくなってきたわ。
週末になったらあちこち飛行機や新幹線でセミナー行ってるの。
今度、話を聞かせてあげるわね。今、ほんとに楽しいのよ。
アドラーって本当にいいわね、バイブルになったわありがとう。
教えてくれていいきっかけになったわ。」

以前より饒舌になって興奮気味に語ってくる。

「そ、そうなんですね。ええ、良かった。」

で?私の貸した本は?バイブルにした?私の本ってことすっかり忘れてる?わたしのおかげってなに、なにもしてないですよ。それよりか、本返してくれへんでしょうか。それに貴女から借りている本があるんですよね。興味なくて1ページも読んでないけど返したいんですよ。いろんなセミナーってなに?もう、ちょっと大丈夫?目が怖いよ。うわあああ。

とは言い出せなかった。(小心者なのだ)
先輩の鬼気迫る様子に圧されてしまったのが大きい。


そして私はその半年後に会社を辞めた。
辞めてから3回先輩に誘われ食事に行ったこともあったけど、本が返ってくることはなかった。

会う度に、スピリチュアルなことを言い出しており、内心やべえと思ってた。

3回目に会った時は、
「お料理を作るわ、家に来てね。」
と元同僚と二人で招待された。
あまり乗り気ではなかったけど、行ったら嫌な予感は的中した。
食事のあと、先輩が私の手を握り
「あなたの心の中にある悩みを解決するお手伝いをするわね。
ほら、目を閉じて…。」
と言ったので、内心びびりあがってしまった。
悩みなんてねーよ、会社辞めて転職して今はスッキリだよ!と言いたいが言えない。
しかも、一緒に来た元同僚はスピリチュアル系が大好きなのか嬉しそうに次の番が来るのを待ってる。

適当にその場を繕い、先輩の言うこと当たってるぅ!なんて嘘をつき、適当に話を合わせ、逃げるように帰宅した。

その後、一切の連絡を絶った。

先輩に返せなくなったなぁ、とフランス人は…の本を見て思った。
見たらいちいち思い出すなぁ、私の本も返ってこないしなぁ。
あの状態では、もう返してなんて言えない。

なので借りた本はメルカリに出した。
最低金額で売れた。(笑)





今、平常心でいられるからこそ、アドラーの嫌われる勇気が理解できると思う。
それにミニマリストとして生活をガラリと変えた今、フランス人は…の本を読んだら何か共感できるかもしれない。


今度こそ最後まで読んでみたいと思うのだけど、もう一度買うのもなんだか癪に障るなぁ。

こんな時は図書館だな。



#読書の秋2020