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【エターナルズ】創世と破壊、メビウスの輪、全ての生命に選択の尊重を。

・MCU最新作の「エターナルズ」を鑑賞して参りました。あの「ノマドランド」を監督したクロエ・ジャオ作品になるとの事で公開前から期待してましたが、本当に素晴らしい映画であったと私は確信します。

・扱うテーマがテーマなので人の好き嫌いは確実に別れるし、賛否両論になるのが避けられない作品でしょう。その上ドラマ性や壮大な物語の設定を語るのに全力を傾けている為に、アクション性だけを求めている観客にも受けづらいかも知れない。勿論、作中で描写されるアクションシーンの数々はどれもこれも目を見張るばかりなのだが。

ネタバレしますのでご注意を

・この物語が描くのはギリシャ神話の実在性とその裏にある残酷な真実だ。頂点捕食者とは一体何だろうか?この世界には食物連鎖があり、そのおかげで生命のサイクルが成り立っている。なら地球を支配する人間はそのメビウスの輪から逃れた勝ち組なのだろうか?否、そうではない。ごく自然な通りで考えればこの宇宙もその生命のサイクルの一部なのではないだろうか、この銀河も、他の銀河も、循環を繰り返す一部なのではないだろうか。そう考えた時、人間という生命は雄大なる宇宙の小さな養分でしか無い事に気づくだろう。神の証明とは創造主の証明であり、創造主の証明とは自分達の存在する意味を証明する事になる。

・MCU世界では幾度なく、銀河を巡る危機が訪れたが今回描かれたコレはその想像を遥かに上回る内容であった。銀河を創世するセレスティアルズという生命が存在して、そいつはエターナルズやディヴィアンツを作り出し、銀河を周る星々に送り込んだ。自らが生み出した人工生命を活用して、星々の在来種の生命エネルギーを活性化させた。そしてその生命エネルギーは星々の核に埋めれたセレスティアルズの種に養分として送られる。やがて時は満ち、上位者であるセレスティアルズは星という名の卵から飛び出し、そのバラバラになった星屑を背に次の銀河を生成するのだ。

・全く持って理に適った生命のサイクルであり、これこそ永劫回帰では無いか。しかしながら、生命は生きているのだ。セレスティアルズの誕生は新たな銀河を作り、循環を生み出す自然な流れだが、生命は生きて思考をしている。そこには喜怒哀楽の全てがあり、その生命にも抗う尊重が残されているべきであろう。

・それこそがこの作品が謳う最大のテーマだ。登場するエターナルズのメンバーには各々の意思と選択が存在する事をクロエ・ジャオは深い洞察を持って描いている。現代社会が直面している多様性についての問題、それは"映画"という多くの人間が関わる媒体に於いて非常にセンシティブな難問だ。しかしながら、このエターナルズという作品はその様な現代的な課題を内包しながらもそれを生命の根源に対する讃歌へと昇華しているのだ。物語の終盤にての選択の数々、命令を遂行する者、命令に抗う者、両方の選択を棄権する者、復讐を誓う者、他にも細かく分類すれば多種多様な選択がそこには浮き彫りになっている。特にキンゴが最後の闘いで諦観の立場に属するのは通常の映画としてはあり得ない展開であり、この作品が何を伝えたいか1番分かるポイントになっているのではないだろうか。

・今までのMCUの娯楽映画性とは少しばかりかけ離れた哲学的な側面からのアプローチとなっているし、これまでの世界観を根底から覆し兼ねない内容である為に拒絶反応を起こす人もまあいるだろうなぁと。私が先程記述した多様性問題も昨今の映画では必要以上に盛り込まれている印象もあり、その点についても反感の意を唱える人々もいるでしょう。率先してこの様な課題を擦り続けるディズニー作品でもある為に、悪目立ちする所も否めない。しかし、私はこのエターナルズという映画は現代社会の課題を上手く表現出来ていたのではないかなぁと思います。あくまでも個人の感想なのですが。

・一方で、この世界観の広がりについては少々懸念される。そもそもアメコミというジャンル自体が何でもありのトンデモ世界であるから、何が起きてもおかしくないがようやくX-MENとの統合も可能性として浮上してる今、これ以上風呂敷を広げて大丈夫なのかと不安になるのも致し方ない。量子力学による多世界解釈、いわゆるマルチバースを前提とした構造にある為、幾ら後出しジャンケンを決めようが物語の継続による世界観の作り変えは可能だ。だからと言って、結局の所振り回せるのは我々観客だ。これがユニバースシステム最大のデメリット、相対的に見れば新規ファンを獲得するのは年々難しくなる一方だろう。


・まあしかし3時間にも満たない尺でこの内容を詰め込んだと感心する。数多く登場するキャラクターも時間の割には上手く捌けていたのではないでしょうか。MCU恒例の引き続き展開でも新たにサノスの弟エロスがやっと登場して、新しいフェーズの到来をより強く感じさせる。そもそもサノス自体がギリシャ神話のタナトスがモチーフとなっているので、今作のギリシャ神話推しは続編としてかなり正当性がある物となっている。

・サノスが起こした指パッチン事件もこの作品の根本に強く影響しているのも面白い点だ。サノスは人類の二分の一を消した時点で生命と死のサイクルを制した頂点捕食者に成り得た、だがその選択を良しとしない生命体が数多く居たからこそ彼の計画は砂塵の一粒となり泡沫に消えた。絶対的な者に対するレジスタンスがいる限り、そこに終末は訪れない。

・完全に蛇足の余談であるが、私が最近ハマりにハマっている『崩壊3rd』も現在この様な展開になりつつある。類属する作品を知っていたからこそ、こういった世界観を扱う面白さが実直に伝わって来たのはかなりラッキーな体験であったであろう。

・MCUが今後この膨大に広がるインフレーションの手綱を巧く扱えるのか、1ファンとしては些か心配ではあるが結局の所、我々は出された料理を消費するしか無い。今後も時代の潮流に影響を受けるであろうが、そもそもそれは原作のアメコミ群だって同じだ。歴史を積み重ねれば世論との二人三脚は避けられない。それも一つの永劫回帰なのだから…。

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