ブラジリアの色彩


12月。

南半球の真夏。

ブラジリアの日差しは強い。

巨大なボリュームの建物が、広大な隣棟間隔をもって建つブラジリアの中心部を歩くと、空の大きさを否応無しに感じる。

太陽が生々しく、目に、身に、迫ってくる。



ブラジリアの都市計画は、飛行機(あるいは鳥)のようなプランが特徴で、胴体部分には主要省庁が並ぶ地域が、
翼部分には市民の居住地域が、明快にゾーニングされている。


「ドン・ボスコ教会」は、いわゆる”翼”に位置している。このあたりでは中心部のような非人間的なスケールは和らぎ、野性的な街路樹も見られる。


外観は、量感あふれる直方体。
その四周には、刀剣を垂直に立てたようなスリットが連続する。
奥行ある壁柱によって彫り込まれるように象られ、マッシブな印象が強められる。


スリットには、青いステンドグラスがはめ込まれている。
スチールで枠取られたステンドグラスのアズール(ポルトガル語の「青色」)が、足下から頂部に向かってグラデーショナルに変化する。

教会を出ると、目に焼き付いた青の補色作用(補色残像)により、景色が黄色く見えるそうだ。



期待を胸に足を踏み入れる。

眩しい屋外から一転。
そこにあったのは、深海から海面を見上げた景色。
さざ波にゆらめき、海底へ届く光。
様々な濃淡の、青のきらめき。

あるいは広大な青空から、深淵な夜空への移行。
無限の奥行を背景にした、無数の星々のかがやき、またたき。

世界が青に染まる。


「藍色」には、その繊細な色彩の中に、数百の名前があるらしい。

蒼 碧 青 ・・・

この教会にも、無限の色が溢れている。



ステンドグラスは、外壁からずいぶん奥まって位置するにもかかわらず、影もかからず、縁取りとなる壁柱は逆光で消える。太陽光が壁柱の側面にぶつかり、拡散し、均一に到達する。美しい模様が浮かび上がる。



ブラジリアは、ドン・ボスコの「夢」から生まれたと信じられている。
南米大陸の大きな湖畔。南緯15度から20度にある土地。その場所には、乳と蜜が流れる。その場所は、世界に豊かさをもたらすだろう・・・。



空間を十分に堪能し、教会を出ようと扉へ向かう。見上げっぱなしの目が足下に落ちる。深紅の絨毯の鮮やかさに驚く。


ブラジリアを汗と血で開拓した無名戦士・カンダンゴ。
夢と、現実と、歴史とが、ないまぜになってやってくる。





教会から外へ出る。

世界が黄色に包まれていた。




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