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初恋は淡い思い出、そのままがいい


「初恋」


顔を見るだけでドキドキし、話すだけで声が震え、相手の一挙手一動で喜んだり落ち込んだり。

わたしの初恋は中学二年生
相手は学習塾で一緒だった他校の同級生、野球部だった。

彼には同じ学校に彼女がいて、受験する高校も男子校。
結局想いを伝えることは出来なかった。



行きつけの飲み屋が何軒かある
その中の一軒はテーブル席が2つと、カウンターには8人程度座れる小さい飲み屋だ


店長の風貌は俗に言うイケメンという類なので、彼目当てに訪れる女性客も多かった。

わたしは「色恋」を飲み屋に求めるタイプではないので「かっこいいな」程度だったし、実際10年ほど付き合っているとても綺麗な彼女の存在を知っていた。
勿論、色恋を求めてる女性客たちには内緒なのだが…


「あー久しぶりに合コンしたい。でもセッティング超めんどくさい」


友人とカウンターで飲みながらそんな話をした。
事実幹事となると、人数調整・日時調整・お店選定予約など本当に面倒なのだ。

ただ呼ばれるだけの合コンがいい、力強く話した。

「ねー店長、わたしたちだるいから合コンセッティングしてーこの店使うからさ」


「バカヤロウ」と笑いながらノートの角で頭を叩かれる。
そしてそのノートを見るよう促された。


開いてみると、1ページ毎に数人の名前が書かれていた
男性、女性、両方ともに2人~6人程度の名前やID、電話番号が書かれているページもある。


「なにこれ?」
「うちの店の合コンしたい人たちリスト」
「んん?」
「そうだなー、スズネたちなら…こいつらがおすすめ」


2人の男性の名前が書かれたページを見せられた。


わたしたちのような会話は日常の様で、ふざけ半分でノートを作ったらしい。(勿論店長管理の元常連のみ見れるノート)
そのノートに書かれた一人に「電話してみる」と言い、とんとん拍子に合コンが決まった。

小さい店だ、常連だったら顔は見覚えがあるかもしれない



合コン当日、相手の男性2人と顔を合わせた。
黒縁メガネをかけた優しそうな風貌の人(Aくん)と筋肉質でスポーツマンタイプの人(Bくん)
全員お酒が好きということもあり、合コンでよくある探り合いの導入部分はほぼ削除し楽しく会話が進んだ。

1時間ほど経った頃、Aくんがわたしの顔をじっと見つめ「スズネちゃんって○○県出身じゃない?」と言った。

「なんでわかるの。怖いんだけど」
「しかも○○町じゃない?」

ここは地元ではないし、ましてや町名となると県出身者でも近くないとわかるはずはない。
Aくんはずっとニヤニヤしていた。

「俺のこと覚えてない?」

フルネームの名前を聞いても知り合いではなかった。
(余談だがAくんの名前はとある芸能人と同姓同名なので忘れるはずもない)


「中学生の頃、○○って塾通ってたでしょ?俺もいたんだけど」


よく話を聞いてみれば、Aくんは他校に通っていたわたしの初恋の相手の友人だった。
地元ではない、こんな場所で再会するなんてなんて縁だろう。
しかも、中学生の頃の風貌とは全然違うわたしによく気づいたものだ。


「わたしさ、○○くんのこと好きだったんだよね」
「まじで?俺まだ繋がってるよ?」
「えー!元気してる?」
「元気元気!この間撮った画像見る?」


Aくんはスマホをわたしに見せてくれた。
そこにはわたしの脳裏に存在している初恋の相手の面影はどこにもなかった。


(…見なければよかったな)


率直にそう思った

外見がどういった話ではない。
今現在の姿形を見て、初恋の彼のバックグラウンドを想像してしまうからだ。

身勝手な感情なのは百も承知だが、わたしの中の初恋の彼。
それで完結していればよかったと思ったのだ。


「地元帰る機会あったら、今度飲みセッティングする?」


Aくんの善意をのらりくらり交わし、わたしは話題を変えた。




お酒を飲みながら、丁寧に回ることのない頭で思ったことは、


“初恋は淡い思い出、そのままがいい”


だった。


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