“意表をつく面白さ”が魅力。「ダブディビ・デザイン」は福祉でない立場から障がい者アートの価値を伝える
STORY13:障がい者アートのハンカチ「ダブディビ・デザイン」
あなたの暮らしに、お気に入りの“アート”はありますか?
「ダブディビ・デザイン」のハンカチは、思わずクスッと微笑んでしまうような面白いデザインがいっぱい。すべて、障がいのあるアーティストによって描かれたものです。
お値段を見て「ハンカチにしては高いよ」と感じるかもしれません。でも、日常を彩る “アート”と考えてみたらどうでしょう。独特な色彩や斬新なモチーフ、大胆な構図は、ハンカチとしてつかうだけでなく、お部屋に飾ればパッと明るい雰囲気にしてくれます。
「障がいのある人が描くアートの魅力を多くの人に伝えたい」という思いで、全国の福祉施設とビジネスをつなげる「株式会社ダブディビ・デザイン」代表の柊伸江さんは、その手段としてハンカチに可能性を感じているといいます。
正方形の布を通じて、柊さんはどんなことを伝えようとしているのでしょうか。
きっかけは学生とのものづくり
ファッションのデザインを専門としてきた柊さんが、障がいのあるアーティストと出会ったのは、神戸にあるデザイン系の大学で助手や研究員として勤めていたころ。地域の絵画教室から「一緒に何かできませんか」と紹介された “きよちゃん”の作品に一目惚れし、「やってみたい!」と集った学生たちと一緒にものづくりを始めました。
原画からテキスタイルデザインをつくり、学校の設備で生地にプリントしたり、その生地で鞄や帽子をつくったり。出来上がったものを作品展で展示したときに、「買いたい」という声が多くあったことや、きよちゃんの両親が涙ながらに喜んでくれたことが大きな励みとなり、その後は「みっくすさいだー」という名前で活動。地元の百貨店やアパレルブランドでの商品化も実現しました。
学内でみっくすさいだーの活動が知られてからは、柊さんは神戸市の障がい者福祉の産学連携プロジェクトに大学教員として参加するように。市内の福祉施設のものづくりのサポートも経験し、工賃やデザイン面など、障がい者就労におけるさまざまな課題を知ることになりました。
作品に価値を見出す
大学退職を機に、ダブディビ・デザインを立ち上げた柊さん。主な事業は、障がい者アートを活用した商品を開発したり、福祉施設のブランディングやものづくりのサポートをしたり。周囲から「いいことだけど儲からないよ」と言われても、“株式会社”としてやっていくことを決めた背景には、ずっと感じていたモヤモヤがありました。
現在は千葉と滋賀に拠点を置き、全国さまざまな福祉施設と関わります。障がい者アートを商品に使用したい、という企業からのオファーも増えてきました。同業他社との大きな違いは、“アーティストを抱えていない”こと。特定のアーティストの支援をするのではなく、全国に数多ある作品から柊さんが「いい!」と思うものを見つけ出し、クライアントやつかい手とつないでいます。
ハンカチの可能性に気づく
柊さんがアパレルデザインを専門とするため、当初はアート作品をアパレル商品のデザインに落とし込むことを目指していましたが、性別やサイズ、好みのテイストなど、つかい手の幅が狭まってしまうため、「多くの人に伝えたい」というダブディビ・デザインのビジョンとのギャップに難しさを感じていました。
ところが2018年、ハンカチのメーカーから声がかかり、障がいのあるアーティストの作品のハンカチをつくったときに、柊さんはハンカチの持つ可能性に気づいたそう。
第一弾はクラウドファンディングを実施し、千葉県の「まあるい広場」という福祉施設の作品のみでラインナップ。今後は全国各地で柊さんがセレクトした作品のものが、春夏・秋冬の年2回、追加されていく予定です。
すべてハンカチ用に描き下ろした作品ではないので、正方形に整えたり背景色をつけたり、原画をアレンジするのは柊さん。原画を見て、商品化したときのイメージがパッと浮かぶ作品を採用しているそうです。原画とハンカチとを見比べると、原画の魅力をしっかり引き出すアレンジ力に驚きます。
絵の面白さがいとおしい
柊さんが扱うのは主に知的障がいのあるアーティストの作品。自分の感情を言語化できない人も多く、その場にあった紙や画材を用いて、そのとき表現したいことを描く場合が多いそうです
そんな風に描かれるからこそ、“面白い”作品が生まれる――柊さんはそこにいとおしさを感じています。
最近は「障がい者アート」という言葉をよく聞くようになりましたが、実は作品の普及に携わるのは、福祉の専門職や障がいのある家族がいる人がほとんど。柊さんはそのどちらにも当てはまらず、「私はこの業界ではアウトロー」だといいます。
現に、ハンカチに選んだ作品「あじさい」は、福祉施設の職員から「本当にこれでいいの?」と何度も聞かれたそう。その理由は、描くのに時間をかけていないから。支援の立場からすると所要時間も価値になるかもしれませんが、柊さんには関係ありません。特定のアーティストを支援する立場ではないからこそ、作品そのものに光が当たるのです。
そんな出会いを求め、福祉施設を訪れるときはいつも「宝探しのようにワクワクする」という柊さん。絵を描くだけでなく、ミシンや紙すき、お菓子づくりなど、障がいのある人たちのあらゆる作業に面白さを感じているそう。最近は、福祉施設でつくられたお菓子を毎月届ける新サービスも始めました。
それもこれも、柊さんが福祉ではない立場から“価値”を見出しているから。私たちが【Square world】のハンカチに触れ、アート作品の価値を感じながらつかっていくことも、日本の市場におけるアート、とりわけ障がい者アートの存在価値を高めていくことにつながるのではないでしょうか。
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