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兎、波を走る🐰🥕

高橋一生、松たか子、多部未華子らが出ているNODA・MAPの舞台を観た話。

一番の目当ては高橋一生だったのだけどいろいろと衝撃な内容だった。書き残さないと忘れてしまうのでnote✎ 前半はネタバレなし、後半にはネタバレを含みます。


-------ネタバレなし-------

チケット

松たか子がTVで宣伝していて知った舞台。知った時点でもうチケットは発売中、東京分は完売だったけど、毎日抽選のある公式リセールがあった。毎日応募して当選した。

チケットの倍率もリセールの倍率もどれくらいか分からないけど、立ち見を含めた当日券を求めてけっこう並んでいたからチケット倍率高そうだった。

劇場

東京芸術劇場という池袋の劇場。池袋は久々だったし初めて行く劇場だった。小さくて築30年くらいだけど、ロビーはガラス天井の吹き抜けがきれいだった。プレイハウスという部屋での公演だったけど、内側が煉瓦造りで素敵だった。煉瓦間に隙間があるように思ったけど、音響はどうなっているんだろう。

舞台はあまり大きくなくて客席数も834席。おかげでチケットは取りにくかったけど、演出をよく見ることが出来たし、全体が一体となるような空気感が凄かった。大掛かりな仕掛けも出来なさそうな場所だったけど、野田さんの演出で奥行きや高低が表現されていて素晴らしかった。

お客さんは年配のご夫婦とかが多かったように思ったけど、高橋一生とか多部未華子とかのファンというよりも野田さんのファンとか舞台が好きな人が多かったのかなあ。

野田秀樹さん

今回初めて知ったのだけど、舞台演出で賞を取っていたり、きっと有名な方。今回の舞台には演者としても出ていたけど演技も素敵だった。

2021年のフェイクスピアは第29回読売演劇大賞で大賞・最優秀作品賞、主演・高橋一生が最優秀男優賞、演出・野田秀樹が優秀演出家賞を受賞しているし、高橋一生や松たか子とのタッグも初めてじゃない方。

演出も、言葉遊びも含めてセリフも、構成もとても良かった。

高橋一生さん

演技が好きでドラマはちらほら見ている👇けど、民王とかは観ていないし、有名どころをけっこう観ていない気がする。

・カルテット
・僕らは奇跡でできている
・東京独身男子
・岸辺露伴は動かない シリーズ
・インビジブル

今回舞台に出ているのを初めて知ったけど、フェイクスピア含めてこれまでにもけっこう出ているようだ。確かに発声含め舞台やってると言われたら納得する演技。声優もやっているみたいだけど、ジブリの耳をすませばの天沢聖司くんの声優をやっていると知っても、聖司くんとイメージと違いすぎて信じられなかった。

今後も出演する舞台を観に行きたいけど、ファンクラブとかに入っているわけではない。公演情報とかってみんなどうやって情報を仕入れているのだろう。きっとSNSとかなんだろうけど、あんまり開かないんだよな、、とりあえずe+でお気に入りはしたけど、様々な俳優さんを追いきれるわけではないし情報弱者。

篠山紀信さん

わたしでも知っているくらい有名な方で、様々な題材を撮っていることは知っているけど、今回の舞台の撮影が篠山さんと知って驚いた。

確かにパンフレットとかの写真は篠山さんと言われたら納得する写真だったけど、トップ画にもしているパンフレットの写真も篠山さんでびっくり。こんな吉田ユニさんみたいなファンシーな写真も撮るのだなあ。トップ画はNODA・MAPのHPより。

パンフレットの写真は題名の兎モチーフだけど、その耳は本物の人参を吊るして撮影したとインタビューで読んだ。大変なのだろうけど楽しそうな撮影現場だなあ🥕

-------ネタバレあり-------

ここからはネタバレあり。備忘録を兼ねて推察も含めて書いています。

題材

北朝鮮の拉致問題が題材だった。産みの母と育ての母、親なんていらない、などという言葉が飛び交うから、最初は母の愛とか家族がテーマとも思ったけど、メインは拉致問題なのだと思う。

野田さんは物語の設定を「“潰れかかった遊園地”を舞台に繰り広げられる “劇中劇(ショー)”のようなもの」と仰っている。舞台の中の現実としては遊園地が舞台で、その遊園地で開催されるショーの台本を3人(正確には2人とAI)が書き、書かれたショーも演じられるというインセプションのような構造。いま観ているのが現実設定なのかショーの設定なのかが分からなくなる。現実設定に引き戻されたときに、ああ、あれは設定だったと思い出すような引き込み具合の演技だったし舞台だった。中盤以降、拉致問題がテーマだと分かってきた頃から、役者たちが当人たちのセリフだけではなく場面説明についても読み始めたけど、ショーが入れ子構造になってるからこその演出なのだろうなあ。

その“潰れかかった遊園地”は競売に掛けられる予定で、競売予定日は11月15日。何の日付かと舞台後に調べたら横田めぐみさんが拉致された日。

遊園地の迷子センターにアリスを探す母親(松たか子)が来るけれど、アリスなんて子はいるのかと周りに疑われる。この辺の描写も拉致された事実が信じられていなかったときの世間の対応の暗示だと思った。

アリス(多部未華子)が恐らく横田めぐみさん。高校生のアリスが友だちと帰宅しているときに兎(北朝鮮の工作員)を見てしまい、見てしまったことで拉致されてしまう。横田めぐみも工作員を見てしまったために拉致されてしまい、拉致の対象年齢からは随分と若かったと証言されている。

高橋一生は兎=工作員役だけれど、アリスが見て、アリスを拉致したのは別の兎。高橋一生は最後の方でアン・ミョンジンと名乗るけれど、それは実在する北朝鮮工作員👇

実在する人物の名前を劇中で出したことには驚いた。安は脱北し韓国に亡命しているけど、その脱北について劇中で事細かに表現されている。

舞台タイトルにある「波」は北朝鮮と韓国の境界である北緯38度線を表現している。安はアリス(というかきっと拉致した人々)が助けを求めているのが分かっているのに、その人々の心の声を振り切って波を走る。

脱北した先で高橋一生は母親に会い、アリスを知っていること、自分の過去、アリスがどんな状況だったのかを母親に伝える。母親がアリスの発言や様子について元工作員に尋ね、元工作員が答えるという描写が、拉致被害者家族や関係者たちへの対応や証言を元にしているのではないかと思った。

アリスは兎を追いかけ、穴に落ちて不思議の国に迷い込む。本作でも最初はアリスが穴に落ちて、「もう、そうするしかない国」に行く。しかし、後から複数の兎(工作員)に袋に詰められて波(恐らく、国境や物理的に海)を走り、学校(北朝鮮の工作員が教育を受ける学校朝鮮労働党中央委員会直属政治学校)で勉強をする描写があった。

教官に、お前は何が出来ると問われ、日本語を教えられると話すアリス。課題が出来れば現(うつつ)の世界に帰してあげると言われて懸命に勉強する描写が悲しかった。横田めぐみさんが日本語や日本人の立ち振舞い等を北朝鮮工作員に教える経緯や教えていたことの描写なのだと思う。

言葉遊び

その学校の描写の中でアナグラムの勉強が出てきて、タイトル「兎、波を走る」に込められた意味が明らかになる。「うさぎなみをはしる」「USAGI NAMI WO HASHIRU」を並び替えることで"I AM USAGI", "I AM MOTHER", "MOTHER OF ALICE"などの意味があることが分かっていく。

USAGIがUSA-GI(アメリカ兵)の意味を持つことも明らかになる。USA-GIについてはアメリカではなく北朝鮮を言いたかったのだろうけど、はっきりは言わない・言えないのだろうな。そういえば舞台の中で北朝鮮や韓国とは一言も出てきていなかった気がする。

拉致問題が題材であることもはっきりと分かるのは安明進だという発言くらいかな。あとは「ちらちら」が繰り返されて拉致と聞き取れるセリフがあった。

その他にも舞台の最初の方から言葉遊びがあって面白かった。
うじと地獄→自業自得
妄想するしかない国→もう、そうするしかない国
等々。聞いたことない言い回しばかりで野田さんの語彙力の高さを体感した。

演出

普段は舞台というより劇団四季のミュージカルとかに行くことが多く、大掛かりな仕掛けが可能であったり、それ用に作られた場所で演じられているものを観ることが多いから、今回のように奥行きや高低が演出で表現されているのが興味深かった。

舞台の奥に4枚の紙を組み合わせたような背景を作り、その紙をずらすことで現れる四角◇を移動に使ったり、アリスが落ちることや兎が波を走ることを風景を構成する一部を動かすことで表現したり、鏡かガラスで永遠に続くものや違う場所を表現したり、同じ舞台上にいるのに母親のいる現在と、アリスのいる過去を分けたり、観たことのない表現が多くて面白かった。

大きな紙がブレヒト幕として人の前を通過することで、人が消えたり入れ替わったりする演出が何回か使われていたけど、ラストシーンで母親とアリスが抱き合ったシーンで幕が通過し、アリスが消えて母親が残される演出が心に残った。まだアリスは母親の下には戻っておらず、問題は解決していない。

兎が舞台の最初と最後で恐らく同じセリフを言う。不条理や波という単語を含むそのセリフを最初は全く理解できず、設定を理解できなかったと思ったけど、その後に登場する人物たちのセリフで理解できなくても問題が無いように思わせる。ただ最後の母親とアリスが抱き合うシーンでも同じセリフを言われ、アリスが消える表現と合わせて不条理を実感する。

観終えて

野田さんからは以下👇の直筆メッセージが公開されている。

もちろん舞台を観る前に読んではいたけど、不条理についても無力についても観た後に自覚した。拉致問題については2002年10月15日の蓮池さんら拉致被害者5名の帰国が大きなニュースになっていたことを覚えているし、横田めぐみさんのご両親らが拉致問題に関する活動を続けていることを認識してはいる。しかし正直、日々の生活で拉致問題を思い出すことは無いし、今回初めて横田めぐみが拉致された状況とか周りの苦悩を考えたように思う。安明進については知らなかったし、今回人生で初めて積極的に拉致問題を調べた。

事件という言葉で1つの出来事とくくるには大きすぎる問題のこの不条理だけど、拉致被害者だけの不条理だったのか、工作員にも不条理はあったのかなど、誰またはどこにとっての不条理なのかは考えさせられる。また、自分がいま考えても事件の解決には繋がらない無力さがある。災害や戦争の歴史を風化させてはいけないとかも言うけど、この問題も全く解決してはいないのに問題発覚からも随分と時間が経ってしまって風化が危惧されているのだろうな。

公式HPのイントロダクションには「現代社会を見つめる鋭い視座と圧倒的な語彙から生まれる破格のストーリーテリングによって、観客に生の演劇の悦楽と予測不可能な衝撃を届け続ける野田作品。」と記載されており、ふわふわとしているけど、推す点を抑えているように思う。

舞台中には不思議の国のアリスだけではなく、ピーター・パン、チェーホフ、ブレヒト、シャイロック(ヴェニスの商人)、ホームズなどの要素が取り入れられていて、知識があればあるほど喜劇を楽しめると認識した。後から調べたことも多いけど、野田さんの前の作品らに出てきていた人物などもいたようで追いきれない、、野田作品を全部観ているひとがより楽しめる内容にしているのかな。

難しいと感じる部分もあったし、高橋一生が見たいと思って軽い気持ちで言ってしまったから随分と重かったけど、とても濃くて満足した。もし野田さんが、拉致問題を考えさせることで風化させないようにしたのだとしたらわたしにとっては完全に成功している。東京公演もまだあるし、福岡大阪でもやるみたいだからチケットが取れたら是非行ってほしいし、考察を話し合いたい。

そういえば重い内容だったし衝撃的なラストだったのにカーテンコールを数回やってくれたのが嬉しかった。最後の最後で野田さんだけが出てきて一礼して終わったのに誠実さを感じた。

野田さんの舞台も高橋一生の舞台もまた機会があったらぜひ行きたい。話は逸れるけど、渡辺直美が渡辺直美と呼び付けされるのが気になる的なことを言っていたけど、渡辺直美も高橋一生も大好きだけど固有名詞として認識しちゃっていて、「ちゃん」とか「さん」とか付けられないんだよなあ。今回文字に起こしていて、野田さんには「さん」を付けるのに高橋一生には付けない自分を自覚した。好きだからこそです、、

おわり💐

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