思い出話その2・あついうみ

旅についてもうひとつ。

結婚前、だから20歳のとき、独身最後の旅をしよう!と、これまた大袈裟な名目でひとり、熱海に行った。

ゆっくり起きて、午後から電車を乗り継いで行ける距離で、海にいきたいなぁ。温泉もあるといいなぁ。と、ふらっと行ったあれは二月の終わり。
よく晴れてあたたかで、河津桜はもう散って、どこもかしこも、とにかく、寂れていた。

あの後、熱海駅は綺麗になったとかで観光客が増えたと聞いたのだけど、わたしが行ったあの日は人も少なく、犬の散歩の人がすこしいるくらいで、海まで続く道も、商店街も、どこもがらがら。
あーそういえばあれは火曜とか水曜とか、いちばん空いていそうな曜日だったかしら。

お昼を遠に過ぎたころ、ホテルまでの道に見つけた、小さなお寿司屋さんに入った。
人生初めての、回らないお寿司屋さん。
がらがらどころか貸切状態のなか、カウンター越し、握ってくれるちょっと怖そうなご主人。木の皿に乗せた端から順に、ひとつひとつ、握りの種類を教えてくれる。
にこやかな奥さんの運んでくれたお汁と、お茶と、ひとりで食べる寿司の、なにがって、あの、平目!

海の近くで育ち、寿司はさんざん食べて育ったのだけど、平目、が家で出たことはあまりなく、あの、半透明!おいしくて、きれいで、はー、感動した、なぁ。

ひとりきりの夕方、やっぱり貸切の露天風呂から海をながめ、湯上りに部屋のテレビでローカルのワイドショーを見て。
翌朝の海も、モーニングに入った喫茶店も、時間が止まったように寂れているのに、どこか明るく、そして、終始あたたかだった。

あぁ、これまた、行きたくなる、熱海。

しかし。
ほんの、泊まる少し前までこれは、ねっかい、と読むのだと思っていました。

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