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#小説
みんなが小説を書いている町
世界の果てのある町では、みんな小説を書いていた。それは、お料理のように日常のことだった。寒い日には暖をとるような小説を、つらい日には過去の幸運を思い出す小説を、恋をしていたら秘密を育むような小説を書いた。そうしてみんな、時に人生を俯瞰し、そっと毛布をかけるように人生を愛しんだ。
新刊のお知らせです。
新刊のお知らせです。
幸福から解放される
「Heiligenstädter」
初の小説
ハイリゲンシュタット
いくつかの断片が
重なり合い、ほどけ合いながら
ひとつの世界が
織り上がってゆく幻想小説です。
文庫サイズ
72ページ
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まじめに取り組むために、しっかり逃げる。
#お洒落なオカマのキツネ が
子ぐまに言った。
おいしいものを毎日食べたら
美味しくなくなる。
まじめに生きることは
たまにふまじめになること。
自分に向き合うことは
たまに自分から逃げること。
まじめすぎることって
もはや悪しき信仰ね。
まじめに取り組むために
あたしらしっかり逃げるの。
いかにたくましくお洒落しようとしてたか。
なにをお祈りしたの?
子ぐまが訊いた。 #お洒落なオカマのキツネ が
答えた。
なにひとつうまくいかなくても
どんなにだめでも
たくましく、しぶくとく
生きていけますようにって。
状況がいかに最悪かとか
どうでもいいの。
そこであたしが
いかにたくましく
お洒落しようとしてたかが
重要なの。
現実と幻想の両方にきちんと取り組む。
子ぐまに #お洒落なオカマのキツネ が言った。
世界とか社会とか自分の欠落とか
嫌になることはいつもあるわよ。
だけど
あんたが好きなもの
夢みるものに出会えた幸運と幸福は
そんなものたちに
なにひとつ汚されることはないの。
あたしたちは
現実と幻想の両方に
きちんと取り組むべきなの。
間違いだらけの人生が見る夢。
きつねが言った。
おれは
言うことは的外れで
たいてい勘違いで
間違いだらけの人生で
なのに夢ばかりみて
いのちのむだだね。 #お洒落なオカマのキツネ が言った。
的確でそつなくて
うまくいってるひとの
夢なんて特に聞きたくないわ。
間違いだらけの
あんたの唯一の救いの
夢の続きを聞かせて。