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短いおはなし7

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#習慣にしていること

手毬ふ

手毬ふ

手毬ふ

母は年末、銀座の高島屋に行って
お正月の手毬ふなど買っていた。
母がお料理をしなくなってからは
わたしがお節をつくっている。
去年は父が隣町のデパートで
手毬ふ、あったよ、と
買ってきてくれた。
今年はわたしが地元の成城石井で
見つけた。
小言を言い合う
年を重ねた家族の年末。

できることを急がない。

できることを急がない。

きつねは思った。

おれは、わかることを急がないんだ。
できることも急がない。

悲しむことも急がないし
よろこぶことも急がない。

絶望も急がない。
諦めも急がない。

これはゆっくりと
なにかがわかり、
できるようになる途中なんだ。

冬の土に手をつき
遠い春をさぐるように。

ローズマリーの小径にそって

ローズマリーの小径にそって

ローズマリーの庭で
育った男の子がいた。
その小径にそって
そっと出かけ、帰ってきた。
男の子には例外にもれず
ハードな運命が振りかかった。
ただどんな時も男の子は
ローズマリーの小径にそって
そっと出かけ、そっと帰ってきた。
なによりも
ひんやりと薫る静寂を
こわさぬように、そっと。

今日が結論の日ではない。

今日が結論の日ではない。

きつねは
朝の花の道で思った。

昨日が結論の日ではないさ。
今日が結論の日でもない。

ひとは日常になれて
いつの間にか依存している。

でも細胞はつねに生まれ変わり
昨夜の雨は今朝の朝日に
輝いている。

2年後くらいに
なりたい自分を考えよう。

いまはすこし
涙がこぼれたとしても。

この苦々しい途中が美味しい。

この苦々しい途中が美味しい。

泣いている子ぐまに #お洒落なオカマのきつね  が言った。

あんたは解決や成功を
急ぎすぎる
みんなそれを見せるけどね。

この苦々しい途中が大事。
美味しいとこ。
筋トレだってそうでしょ。

苦々しくあがく途中を
みんなが見せ合えばいいのに。

そんなに簡単にはいかない。
そこがおもろい。

君に渡す分だけあればいい。

君に渡す分だけあればいい。

無口な男の子が
本棚を女の子に見せた。
本棚の本はすべて
男の子が一冊だけ
つくった本だった。

女の子が言った。
たくさんつくって
たくさんのひとに
読んでもらいなよ。

男の子が言った。
なぜ?
きみに渡す分だけ
あればいいよ。

ぼくのマイナスを総動員して、今日のプラスにしよう。

ぼくのマイナスを総動員して、今日のプラスにしよう。

きつねは
自分の中の魔物に声をかけた。

やあ、おはよう。
きみがそこにいるのは知ってる。
たまにぼくをのっとるのもね。

なんとかきみとうまくやりたいよ。

きみのせいで
気づくことがある。
だとしたら
ぼくの味方だね。

ぼくのマイナスを総動員して
今日のプラスにしよう。

できることは、全部やろう。

できることは、全部やろう。

クマは朝のリースを
見ながら思った。

とにかく進もう。

美しい方へ。
ドキドキする方へ。

なりふり構わず。

身体が動かなくなるまで。
こころがなくなるまで。

できることは
全部やろう。

きみの詩集は、どんなタイトルと表紙にする?

きみの詩集は、どんなタイトルと表紙にする?

クマが子ぐまに言った。

世界の果てのある町では
みんな生涯に一冊
手のひらサイズの
ちいさな詩集をつくる。

亡くなるとその詩集を
棺桶に入れる。

みんなその詩集に
タイトルをつけ表紙を考える。
きみなら、君の詩集に
どんなタイトルをつけ
どんな表紙にする?

脳の考えることはいつも大袈裟であてにならない。

脳の考えることはいつも大袈裟であてにならない。

ある町に脳を気にしないきつねが
暮らしていた。
悲しい、絶望的、死にたい、
脳の考えることはいつも
大袈裟であてにならなかった。
脳がなにか考えそうになると
ストレッチをして血流を良くし
料理して食べて睡眠をとった。
身体は自分で切り傷をなおしたり
前向きで無口で
よっぽど信用できた。

いつも正しくない国。

いつも正しくない国。

世界の果てに
いつも正しくない国があった。
その国のひとたちは
正しかったり正しくなかったりした。
いじわるだったり、
やさしかったりした。
散らかしたりきれいにしたりした。
最低だったり素敵だったりした。
いつも素敵ではなかった。
いつも正しく素敵でないことは
人々をほっとさせた。

ちいさな空色のトランク。

ちいさな空色のトランク。

少年はいつも
ちいさな空色のトランクと一緒にいた。
中には
貝殻。押し花。美しい鳥の羽根。
大人になると
中身がすこし変わった。
ともだちからもらった手紙たち。
添えられたなにかちいさなもの。
閉まらないほどの。
少年はそれを大事にして
人生を耐えながら進んだ。

自分を可哀想がるの、飽きたな。

自分を可哀想がるの、飽きたな。

ある街で生きる男は思った。

自分を可哀想がるの、飽きたな。
自分を悲しむの、飽きたな。

そうだここは戦場だった。

弾の避け方と
くらったときの対処の
訓練中だった。

美しいものは
ひとりで傷に巻く包帯。

うずく痛みを包む
包帯の優しさ。

さてと、行ってみようか。

傷を皮膚がふさぐように。

傷を皮膚がふさぐように。

僕は時々残酷なことを考えるよ。
子ぐまが言った。

クマが言った。
きれいで正解が
いのちの初期設定じゃない。
ぼくらずっといのちを食べて
遺伝子繋いで来た。

いい時より
悪い時の方が地に足がつく。
ぼくらは
どんなところからも何度も
よりよくなろうとする。
傷を皮膚が閉ざすように。