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「劇場」

さぁさぁお立ち寄り下さいませ
なに?お代?結構です結構です
稀代の通り縋り劇場、開幕です

さぁさぁご覧下さい
まず最初の曲芸師
なんと穢れた湖の底から
清らかな天空へ飛び降ります
さぁ、いよいよ跳びました
ここで彼の出番は終了です。

続いてはこちら
右腕と左脚に心が繋がる鎖の女性
相対するは首の長い地獄耳の獅子
果たして命を残すのは誰だ
何と
女性は鎖を獅子の瞼に繋ぎ
乗りこなすではありませんか
さよなら、お元気で。

おっと劇場内は禁煙です
そんな塩っぱい点火具より
こちらの劫火は如何ですか
吸い心地は如何でしょうか
熱くて暖かくて萌える様で
お煙草も美味しいでしょう
さてどうぞ続きをご覧あれ

あらあらお客様
嘔吐は禁煙以上に厳禁で御座います
どうぞあちらの段差無き螺旋階段を
気が触れてしまえば喜劇は退屈です

お客様も少なくなって参りました
四十九時を回れば当然と云うもの
最後は静寂の爆音で閉幕と致そう

此処以外では御目にかかれません
イキモノでしょうか此れは
頭が四つに八つの首が生え
左足が一本に腕が七十七本
驚くは脳髄、何と百九十八
胴体の数なぞ覚えておりません
皆様の足りない頭を振り回して
この愚かな賢者と踊りましょう

如何でしたか通り縋り劇場
貴方の何かになれましたか
それはそれは演劇の意味が在る
ほろ酔いの知恵を絞って絞って
明日も昨日も息を止めてしまいましょう

あらお客様
お褒めの言葉光栄で御座います
お陰で心臓が再び脈を打ったと
面白い事を仰いますねあっはは
お客様の命の糧になれたならば
おんぼろ劇団員も狂喜しまさぁ

さぁて次は何処で開きましょうか
新橋西口はやり甲斐のありそうな
お待ちお待ち旧街の最果ても中々
矢張り矢張りお客様の集まる場所
何処で開演の花火を上げましょう

正気なお客様は御遠慮下さいませ
瘴気に宛てられたお客様は百円で
笑気たっぷりお客様は紙幣を頂戴
小旗振り回す貴方は団員へ御優待

何かに縋りたいお客様
通り縋り劇場は如何?
たちまちドタマを粉砕
無の境地へ御招待です

たまには我を失ってみては?

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