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「なんでカカシ先生に辛い役回りを押し付けたの、岸本先生」

私は、20歳を過ぎた今でも漫画がないと生きていけない人間で、週末はアニメの一気見か、漫画の一気読みしかやらないぐらい、フィクションがないと死んでしまう。だからこそ、惚れ込んだ作品や好きになったキャラクターは何百とある。

それでもやっぱり「一番好きなキャラクターは誰ですか」って聞かれたら、即答で「カカシ先生」だ。それぐらい彼が好きで、彼だけはなぜだか別格だ。

でも、『NARUTO』が終盤に近付き、カカシ先生が6代目火影に就任するのが確定になると、私は辛くて辛くて仕方がなくて、それ以上読めなくなてしまった。一応最終回まで目は通したけれど、私の中の熱は、悔しさに負けてなくなってしまった。

「なんでカカシ先生に辛い役回りを押し付けたの、岸本先生」

六代目火影なんて、ナルトが火影になるまでの繋ぎでしかないじゃないか。英雄のナルトと比較されるだけの火影なんて、辛いだけだ。

父も、親友も、恩師も、彼の傍で寄り添ってくれる人はもう誰もいないのに。せめてそれに準ずるキャラクターでもいてくれたら。オビトの置き土産である写輪眼が彼の眼に残っていたら。

作中でどんどん強くなるナルトと裏腹に、写輪眼がなくなってしまったカカシ先生。これからが伸び盛りのナルトと、大人として責務を全うするカカシ先生。

彼が次世代のために無茶をするなんてわかりきってるんだから、六代目火影なんて重荷を彼に背負わせないでほしかった。もう休んでほしかった。物語が折角、終わりを迎えようとしているんだから。

忍の世界は、強さがものをいう実力社会だ。どれだけ人徳があったって、政治的な手腕があったって、写輪眼をなくしたカカシ先生が忍の里をどうやって治めていく?
人望はやがてナルトに移り、彼が火影になることを待ち望む人たちの中、カカシ先生は孤立してしまうんじゃないか。己の無力を呪ってしまうんじゃないか。

どれだけ素敵な大団円を迎えても、私は納得できなかった。悔しかった。カカシ先生に安らかな未来をプレゼントしたかった。

『カカシ列伝 六代目火影と落ちこぼれの少年』を読んで

社会人になった忙しさもあって、NARUTO終了後の関連コンテンツには一切触れないで過ごしてきた。だけど昨日、キンドルがオススメの商品として『カカシ列伝 六代目火影と落ちこぼれの少年』を勧めてきた。NARUTO連載終了後に発刊された小説版とは違う、書き下ろしの新刊だ。

懐かしさのあまり、思わず買ってしまった。
久しぶりに触れる、カカシ先生の物語に、胸が苦しい。1ページ読むたびに手が止まる。読みたくなかったのに。六代目火影になって苦しむカカシ先生なんて見たくなかったのに。気づいたらすべての章を読み終えていて、私は愕然とした。

カカシ先生が、強くなっていた。

写輪眼も雷切も使えなくなったのに、技もチャクラの量もNARUTOの終盤時よりもずっと強くなっている。ありえないと思った。だってその時すでにカカシ先生は30を超えていたのだ。
そこから10年以上たって、体力だって衰えが出てくる頃だろうに、強くなってるなんてありえない。人間的な成長はあっても、忍として強くなることなんてない。

そんな風に‟思い込んでいた”ことに気づいた。

思い込みで大好きなキャラクターに「もう成長できない」というレッテルを張っていた。そのことに驚いて、また今日まで一切無自覚だったことにも驚いた。

六代目火影が辛い役回りだと決めつけていたのは、他ならぬ私自身だった。

おわりに

実際、辛いか辛くないかで言ったら六代目火影は辛い仕事だったと思う。最高責任者というのはどちらにせよ辛い役目を負うものだ。
それでもカカシ先生はやり通したし、彼の仕事には信念があった。そこにどれだけ迷いや苦悩があったのだとしても、彼はやり通したのだ。

人がやると決めたものに対して、ヤジを飛ばすべきではない。
そんなことを、腹の底から感じた夜だった。
「好きだから」という理由で人の行く手を阻むんでも、良いことにはつながらない。支えるか、違う道を探すか。どちらにせよ進んでいくしかないのだから、阻む行為は悪でしかないのだと思う。

こんなことをキャラクターに対して思うのは滑稽にみえるだろう。私自身、何をやってるんだと思うところもある。
だけどこの思い込みは、どこかの私がやりかねない思い込みだった。カカシ先生は物語の人だから、私の思いなんて彼の人生には全く影響しないけれど、これが現実の人であったらどうなっていたのだろう。私の声が届く範囲に彼がいたら、私は彼に「辛い役回りを押し付けられた人」という呪いをかけてしまったのではないだろうか。

私にはそれが、かなりリアルな現実のように思えて恐ろしい。とりあえず、カカシ先生がやり通した後の世界を見るために、BORUTOを読んでみようと思う。

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