見出し画像

活動日記『2024年度6月鑑賞録』

さて、遅れてしまったが六月に鑑賞した映画の記録を書く。五月の鑑賞録は担当が別でわたくしは催促しているが中々上がらない。ご堪忍を。

六月は下記の4本を鑑賞
・夢二/鈴木清順
・永遠と一日/テオ・アンゲロプロス
・リアリティのダンス/アレハンドロ・ホドロフスキー
・田園に死す/寺山修司

『夢二』―夢幻美の出力度―

鈴木清順による『夢二』は1991年に公開された。本作は『ツィゴイネルワイゼン』(1980年)、『陽炎座』(1981年)と続く所謂「大正浪漫三部作」の終章に位置し主演は全前作の原田芳雄、前作の松田優作といった錚々たるメンツに負けずとも劣らぬ沢田研二が務めている。三部作の最後ではあるものの物語上に繋がりがない。そこに強いてそれを見出そうとするならば”雰囲気”をそれとすべきであろう。では三作目まで継承された”雰囲気”とは如何なるものであろうか。それは”夢幻”(それは幽玄と言い換えても差し支えはない)である。
 本作の主人公は沢田研二演じる大正浪漫の旗手・竹久夢二である。物語の出発点は夢二の夢だ。彼はそこで金髪の男にピストルで射殺される。その男の名は脇屋(原田芳雄)。だが、彼は既に死んでいると告げられる。両者の生死、夢現を巡る奇妙な攻防戦がこの映画の筋と言える。
 この映画は男たちが美しき女達を追い求めその果てに決して逃れることのない芸術家特有の錯乱を巧みに描いている点に於いて他の映画よりもそれは一層に優れている。芸術としての(即ち夢としての)女が生身(即ち現)としての人間となった時、男はどの様に崩壊するのだろうか。美しく崩壊していくのが「大正浪漫三部作」であったが、沢田研二の涼しい演技がそれを一層鮮やかにしている。

『永遠と一日』ー沈黙への傾聴ー

1998年に公開されカンヌ国際映画祭にて最高賞たるパルムドールを受賞した『Μιά αιωνιότητα και μιά μέρα(英題: Eternity and a Day 邦題:永遠と一日)』である。監督はこの作品に於いて国境を描く事は勿論であるがある個人の内省に焦点を当てた作品であり、凡ゆる二元論の超越を企てた。
振り返れば、トリロジーの主人公の職業は示唆的であった。『こうのとり〜』のドキュメンタリーディレクター、『ユリシーズ〜』の映画監督、そして本作の詩人。
詩人は沈黙への傾聴が生業だ。正確を記すれば沈黙への傾聴によって聞こえる魂の胎動を声にして沈黙に流し込む事だ。つまり詩人は凡ゆる二元論の双方に立脚した究極の存在でなくてはならないし、だからこそセリフで以て語られている様に<クセニティス=よそ者>たる過酷な運命を背負い続けなくてはならないのである。

『リアリティのダンス』ー解放された追憶ー

アレハンドロ・ホドロフスキー監督による『リアリティのダンス』は2014年に公開された。彼はカルト映画がの帝王としてその名も高い男であったが、ビジネス関係のトラブルに巻き込まれ長い間、制作が困難な状態であった。然し、彼が未完の大作『DUNE』に迫るドキュメンタリーを撮られて以後、映画製作への熱意は遂に高まり、その滾る熱情は一本の映画として結実したのである。それこそが自身の少年期に取材した本作に他ならない。
彼の生涯は本作及びその続編『エンドレスポエトリー』に詳らかであるからそれに譲る。
本作はホドロフスキーの幼少期という体裁を取るが単なる過去回想ではなく飽く迄現在の地点で過去と共に生きているホドロフスキーを描いている。だからこそホドロフスキーは父親の人生にも幼少期の自身へも介在できるのだ。
この映画は懺悔録であり、自己治療の効用をなすものだ。彼はサイコマジックと名付けた独特の心理治療法が存在する。その全貌は後年公開されたドキュメンタリー『ホドロフスキーのサイコマジック』に見られるが、ともかく此処においては「無意識に作用させ閉ざされた自己を解放する」心理治療法としておこう。
彼の自伝は生命賛歌であり、人生賛歌である。過去も未来も無い。今を生きるその活力がこの映画にはある。

『田園に死す』ー映画に創られる人々ー

寺山修司の『田園に死す』(1974)は甚だしい自覚性を以て記憶の改変を描写した映画である。そして又、この映画はリビドーを極限まで見詰めた映画とも言えるだろう。結局創作とは作者が自己愛の発露に過ぎぬのだから。
物語は青森の恐山近くに住む思春期の少年が死んだ親父とイタコを通して談話を試みるシーンから始まる。独自の文化様式で営まれるその村で少年は斑紋しやがて家出(それも村八分寸前の若い人妻と)を決意する。時は移り変わり現代。少年は大人となり一本の映画を創っていた。それこそが前半部、煩悶する少年のパートである。自信の人生はそれを正確に描写する事は出来ない。かつて少年だった監督はどの様にしてかの映画を終わらせるか、その唯一の方法は「親殺し」を踏襲するものであった…

以下宣伝
明星大学映画研究部。入部者募集中。映画鑑賞及び映画制作を主軸に活動。
部室はPonte(31号館)113に存在する。
活動日毎週水曜日6限。
入部希望者等連絡は次のメールアドレスへ。
eiken.meisei@gmail.com

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?