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鑑賞日記『ジャンヌ・モローの欲深き瞳 「エヴァの匂い」について』

特に大衆におもねるといった企ては毛頭ないが、以前YouTubeで「かぐや様は告らせたい」なるアニメーションの宣伝を目にした。私は元来その様な物に惹かれる質の人種ではないから例の如く何らの気持ちもなくそれは終わろうとしていた。だが、そのキャッチコピーである「恋愛は告白した方が負け」というのは心の琴線に少なからず触れたのだ。

ジャンヌ・モローは名優である。憂いを纏ったその横側に比すべき女優はちょっと思い付かない。悲しみを湛えながらも深い余裕と色気がある。
アンゲロプロス、アントニオーニ、トリュフォー、ベッソンと錚々たるメンツの下彼女は演じた。

ジョセフ・ロージーによる『エヴァの匂い』(1963)において彼女は謎多き娼婦を演ずる。主人公を惑わし誘惑し魅了させる。深い愛のるつぼに閉じ込め、そしていじらしく放置する。
恋愛映画に於いては惚れた腫れたの駆け引きが最も巧みに描かれていなくてはならない。
この映画はというべきから、ジャンヌ・モローの演技がというべきか、それが非常に巧みに描かれていた。
特にベッドで上で交わされるシーンは一寸他のそれとは比類なき物だ。
「幸せしてみせて。ただ恋はしないでね。」
この一言で彼女の勝利は確約されていたのだ。

ジャンヌの黒い瞳の奥に燃え広がる無限の炎は、まだまだ尽きることはあるまい。

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