『いいからしばらく黙ってろ!』曲者だらけの劇団員と出会って知った"生きる充実感"
人に必要とされること。それによって得られる充実感は何にも代えがたく、生きていく上で非常に重要なものだと思う。
そんなことを改めて感じた作品がある。
先日読んだ『いいからしばらく黙ってろ!』の主人公・富士は、裕福な家庭で生まれ育ったものの、双子の兄弟たちの強すぎる個性に揉まれたせいか、自己主張や自己愛が極端に弱い性格だ。
そんな富士が、大学卒業直後に親が決めた婚約者に振られ、そして就職先も、住む場所さえも失うというどん底の状態から物語は始まる。
友人に囲まれていても本音を話せる人がいない孤独...。卒業式後のコンパでそんな苦い思いをしながら、居酒屋のトイレで彼女が見つけたのは劇団「バーバリアン・スキル」のチラシだった。どこか聞き覚えがあるその小さな劇団の存在に惹かれ、居ても立っても居られず劇場に足を運ぶ。
お世辞にも綺麗とは言えない小劇場で開場したバーバリアン・スキル。しまいには原因不明の煙が発生し、演目は一時中断という散々な始末だったけれど富士はバーバリアン・スキルの演劇に圧倒される。そして、その日から少しずつ彼女の中で心境の変化が訪れる。
カオスを捌くことを存在価値だと思ってきたから!ごたごたしている状況に出会うと!妙に張り切って事態をまとめにかかってしまう・・!『いいからしばらく黙ってろ!』1巻より
そう叫ぶ彼女は、バーバリアン・スキルの演劇が中断した時も、頼まれてもいないのに劇団のスタッフのようにご丁寧に返金対応のアナウンスをしたりしていた。その後、彼女はかつての同級生と再開したことをきっかけに更にバーバリアン・スキルと繋がっていくことになる。
バーバリアン・スキルの劇団員はとにかく個性的で曲者だらけ。でも、彼らと関われば関わるほど、富士の表情が生き生きとしているのは何故だろう。
おそらく、富士がバーバリアン・スキルと出会ったことで大きく変わったことは「人に必要とされること」だと思う。例え、それが雑用だったとしても、人から必要とされることで得られる充実感の素晴らしさを彼女は知ってしまったのだ。
生きる充実感というのは不思議なもので、時にとてつもないパワーを発揮して人生を変えることだってあると思う。
曲者だらけの小さな劇団と出会ったどん底の主人公。今後彼女の人生という演目はどう進んでいくのだろうか。
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