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劇場アニメ『映画大好きポンポさん』オリジナルキャラ・アランは作品と観客との隔たりを無くす

杉谷庄吾【人間プラモ】先生の映画大好きポンポさんというマンガがある。2017年にイラスト投稿サイト「pixiv」に公開されるやいなや瞬く間にネットで話題になり、その後株式会社KADOKAWAのMFCジーンピクシブシリーズから異例の速さで書籍化された伝説的作品だ。

1巻の表紙で不敵な笑みを浮かべながらこちらを見つめる可愛らしい少女こそがポンポさんだ。「ポンポさんが来ったぞー!」と言いながら、大物映画プロデューサーの祖父から受け継いだ類稀なる才能で、次々とヒット映画を手掛けていくその姿はまさに天才。

そんなポンポさんの元で制作アシスタントを務める青年・ジーン。死んだ目(ポンポさん曰く褒め言葉)をしたその青年は、とにかく映画が大好きで自分の孤独を払拭するかのように映画に没頭していったという過去を持つ。そんなジーンが、ひょんなことからポンポさんに映画制作を任され、輝かしくも過酷な映画制作を通して才能を開花させていく物語だ。ポンポさんが天才だとしたらジーンは鬼才。そして映画で例えるならこの2人の関係性は『セッション』が個人的にしっくりくる。

さらにマンガで例えるなら超ポップな『G戦場ヘヴンズドア』。

...そんなあらすじや本作の魅力だけでまだまだ語れそうではあるが、今回話したいのは劇場アニメ『映画大好きポンポさん』についてだ。

今年の6月に待望の劇場アニメが公開され、7月からは上映劇場の拡大が決定し破竹の勢いで観客動員数を伸ばしている本作。

そんな劇場アニメ『映画大好きポンポさん』について、原作者の杉谷庄吾【人間プラモ】先生は公開直前にTwitterでこう語っている。

新キャラアランの原案イラストを一枚描いただけであとは全く制作に参加しておりません。これは私が物語を作る際に、意見を出す者が多くなれば多くなるほどどんどん作品のトゲが丸まり平均的で凡庸な物語に堕ちていくという考えの持ち主だからです。(杉谷庄吾【人間プラモ】先生のTwitterより

まさに、この杉谷庄吾【人間プラモ】先生が一枚描いただけと言っている、映画オリジナルキャラクター「アラン」こそが、この映画の魅力であり無くてはならない存在なのだ。

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出典元:https://pompo-the-cinephile.com/#character

アランことアラン・ガードナーは、ジーンとハイスクール時代の同級生。原作ではジーンの同級生は登場しないため、前述の通り完全なる映画オリジナルキャラクターだ。イケメン、そしてメガバンク勤めのエリートという彼のプロフィール初めてみた時、ジーンと同級生と言いながらも彼とは無縁すぎる種族の人間に感じ、アランが『映画大好きポンポさん』という物語でどのように関わっていくのか若干の不安があった。

だけど、映画を見て一番に感じたのは「アランは昔の私だ」ということだ。

別に私はイケメンでもないしメガバンク勤めではない。だけど、劇場で描かれている、学生時代までなんとなく及第点を出し、なんとなく上手に世の中を渡り歩いてきた...そんなアランと自分の過去がとてつもなく被ったのだ。その後、アランは上手に世を渡り歩いた結果、大手企業に勤めるのだがそんな「なんとなく」で生きてきた人間に社会は甘くない。アランは社会の波に揉まれ、今までなんとなく生きてきた自分の人生に絶望する。方や映画に対して狂気的な情熱を燃やす現在のジーンを眩しく感じるアランだが、とある出来事をきっかけに彼の心に情熱の炎が灯る。その全容はぜひ劇場アニメ『映画大好きポンポさん』を見て欲しい。

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私は『映画大好きポンポさん』という作品が大好きだ。もちろん本作のファンの方は多いだろう。けれど、ポンポさんやジーンを見て「これは自分だ」と共感できる人間はどれくらいいるのだろうか?

私はポンポさんように類稀なる才能もない、ジーンのような狂気的な情熱もない。だからこそ『映画大好きポンポさん』に憧れたし、こうでありたいと思った。でも、才能や情熱は意識して生成されるものではないからなれるわけがないのだ。そんなポンポさんやジーンに対してある種の「隔たり」を感じている一方で、それを埋めてくれたのが劇場アニメ『映画大好きポンポさん』のアランだった。今まで「なんとなく」で生きてきた...リアルな等身大であるアランの心に情熱の炎が灯り、ひたむきに動き出すその瞬間の輝きと美しさに思わず心が震えたし、大きな勇気をもらった。

そんなアランの姿を見て、私だけではなく大多数の人が「これは私だ、俺だ」と思うのではないだろうか。

まさに作品と観客との隔たりを無くすアラン。これから劇場アニメ『映画大好きポンポさん』を観る方はぜひ彼に注目してほしいのだが...

映画大好きポンポさん』シリーズには欠かせない「好きな映画」が未定なのだそう。彼の明るく社交性のある性格から考察するに『グレイテスト・ショーマン』や『はじまりのうた』あたりが妥当かなと思う、昔はアランみたいだった私より。

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