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#映画感想文『チャンシルさんには福が多いね』(2019)

キム・チョヒ監督の『チャンシルさんには福が多いね』を映画館で観てきた。

2019年の韓国映画である。

主演はカン・マルジェウムで、彼女がチャンシルさんを演じている。

チャンシルさんは、インディーズ(芸術)映画のホン監督の映画プロデューサーを長年務めていたが、そのホン監督が急性アルコール中毒? で急死してしまう。そこから物語は始まる。

この映画の監督であるキム・チョヒ監督も似たような経歴であるらしく、プロデューサーという役割に複雑な気持ちを抱いていることがわかる。

素人さんに「プロデューサーって何するの? どんな仕事?」と問われてもすぐには答えられず、しどろもどろになってしまう。

つまり、映画のプロデューサーとは、何でも屋、雑用係で、気働きのできる人が重宝されるのだろう。

そういう意味ではチャンシルさんは適任という感じだ。

しかし、観客や一般の人々は、映画監督や俳優のことはよく知っているが、プロデューサーの名前までは覚えない。映画評論家でなければ、チェックはしないだろう。

もちろん、縁の下の力持ちで重要な仕事なのだけれど、その仕事をいくらまっとうしても、つつがなくやったとしても、大成功とはならない。個人の評価、次の仕事にまで繋がらない。

その残酷な現実が映画の前半で描かれていく。

体調の悪い40歳の女であるチャンシルさんは、ユン・ヨジョンが演じる老女の家に居候させてもうらことになる。

ここも、つらい現実である。映画プロデューサーはフリーランスに過ぎず、仕事が途切れ、収入が途絶えれば、一人暮らしなど、とたんに維持ができなくなる。

もちろん、チャンシルさんは落ち込んでばかりではない。年下の男に恋をしたりもする。

チャンシルさんは小津安二郎を敬愛してやまなず、映画人として、信頼できる人である。恋のお相手であるキム・ヨンは、クリストファー・ノーランが好きだという。それに対して、嫌悪感を露わにし、あなたの映画愛など薄っぺらいと言い出しそうなチャンシルには思わず笑ってしまった。

(キム・ヨン役のペ・ユラムは、バナナマンの日村とさまぁ~ずの三村を足して二で割ったような顔をしていて、確かに四十女の恋の相手としてはリアリティがあると思えた。疲れた中年女には、ちょうどいいルックスなのだ)

そして、チャンシルさんは精神的に参っているので、幻覚が見える。

タンクトップ姿の男が家の中をうろうろしているのである。レスリー・チャンだと名乗るその男を演じているのは、キム・ヨンミンで、韓国語でチャンシルさんとコミュニケーションをするのだが、そこにツッコミは入らない。

ただ、この二人のやりとりはユーモラスで、癒しを感じさせる場面でもあった。

最終的に、チャンシルさんは、年下の男にふられてしまう。

チャンシルさんは、「わたしには映画しかないのだ」と、改めて映画への愛を認識し、脚本を書き始める。

映画の若手スタッフがチャンシルさんを励ましに来てくれて、というところで、映画は終わる。

このあっけなさに、久々に映画鑑賞後、もやもやしてしまった。

この映画の結末には、何も救いがない。

(オイラだって、チャンシルと変わらんよ、というような心細さ)

人はそう簡単に救われないし、解決策が見つかるわけがない。

安易なラブコメとハッピーエンドを拒否してくれた監督にいずれ感謝するのかもしれない。

ただ、今のわたしにはきつい映画でもあった。我がことのように感じられ、つらい。

独身で、何かに救われたいと願うチャンシルの切実さは、わたしには痛みを感じさせるものであった。

幽霊(レスリー・チャンを名乗る男)の「すべての関係を求めなければ、いい関係でいられたのに」という言葉は重い。

そうなのよ、人間関係って。求めすぎると、駄目になってしまう。

そして、女性に限らず、人生の欠落を埋めたいとき、人間関係で補完しようとすると、大体失敗で終わる。すぐに結果や結論がほしい。すでに、この時点でやぶれかぶれすぎて、うまくいく感じがしない。

独身女が焦って、よい結果が出ることなどないのだ。

わたしも、一目惚れしたあの人のことを思い出してしまった。

ただ、不思議なことに、一目惚れしたことは覚えているのに、顔は全然思い出すことができない。

街ですれ違っても、気が付かないかもしれない。

一目惚れというのは、身勝手な恋、いや単なる欲望なのだろう。

もしかしたら、外見が好みだっただけで、相手は誰でもよかったのかもしれない。

一目惚れした人に、まったく相手にしてもらえず、29歳のわたしは傷ついたけれど、顔しか見ていなかったので、文句を言える立場ではない。

今考えると、29歳という数字と助数詞がわたしを惑わせていたとしか思えない。

キム・チョヒ監督が、なぜ恋を実らせなかったのか、インタビューを読むと、納得できる。(悲しいけれど)

ここのところ、韓国の女性の作家や映画監督の活躍が目覚ましい。頼もしい限りである。

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佐藤芽衣
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