70歳の従業員さんがGoogle Documentにチャレンジしてみた。
10数年前に両親が他界し、稼業を継いだ。
「電話の消毒」という超マイナーな電話のお掃除サービスだ。
かなり昔、日本で結核が流行った時に、電話の送話口から菌がうつると言われ、北里大学の研究者の方と考案された電話口装着型の医薬品を取り換える。
東京で始められた「電話の消毒」は、職場の衛生に安全性をもたらし、多くの企業が採用していた。
私の両親は、岐阜エリアを受け持ち、貧しいながらもその稼業で私と姉を育ててくれた。
10年位前、両親が他界した時、私は、そのビジネスを継承するか、廃業してしまうかの選択を迫られた。
働いてくださっていた方々は、皆ベテラン選手で勤続20年にもなる人が多く、その当時で60~65歳。
既に再就職が厳しい年齢で、その全員から事業の継承を懇願され、私は持続をする事を選択した。
東京で仕事を持っていた私は、週末になるたびに岐阜に帰り、何とか従業員さんとコミュニケーションが取れるように努力した。
しかし、相手は、既に60代。スマホも持っていない、電話とFaxしかできない。その相手とのコミュニケーションは、とてもフラストレーションがたまるものだった。
パソコンを始めてもらうにも、強い反発を受け、なとか練習を始めてもらう事に3年がかかっていた。
東京での仕事の忙しさに精一杯で、どんどん岐阜に行く事もおっくうになる上、相手のパソコンスキルがなさ過ぎてメールで連絡をしたくてもできない。
経営者のいないそのオフィスで、統制が取れていかないのは、当たり前のことだった。
そして、10年の月日が流れ、従業員さんは、既に70代になっていた。
仕事は、全てノートに手書きで記帳し、事務を進める超アナログな方法。
パソコンで作業をすればあっという間に出来る作業もこれが当たり前とばかりに時間をかける。以前挑戦したパソコンも放棄をしてしまった。
これでは、いつまでたっても私の望む作業は、現実にならない。
そこで、私は決心した。
70代の従業員さんにGoogle Documentを使ってもらう事を。
その意図を話すと、やはり
「年だから、出来ません。」
「一生懸命覚えたら何があるのですか?」
そんな言葉が返ってきた。
しかし、もう私の気持ちは変わらない。
70代だろうがなんであろうが、そのまま仕事を続けたいと思うなら、努力をするべきなのだ。
出来るか、出来ないかは、やってみないと分からない。
言い訳をして、やらない選択をし続ける相手から卒業するのは、私の方だ。
彼女が、やみくもに努力をしない方法を選択するなら、もう仕方がない。
そこまで、腹をくくって話をすると
「出来るか分かりませんが、もう行くところがないのでがんばります。」
そう言って苦しそうに話してくれた。
そして、70代の彼女へのパソコン指導が始まった。
まず電源を入れて、パソコンを立ち上げる事から始める。
まさに手取り足取り丁寧に教える事で同時にコミュニケーションの構築もしていけた。
猛特訓の毎日に頭を悩ませる70代の彼女は、苦しみながら一歩一歩スキルを磨いていった。
それから、2週間。ようやく
「自分で電源を入れて、連絡帳(Google Document)を開けました!」
「今日は、メールを無事におくれました!」
と、パソコンに向かう彼女が笑っていた。
初めてパソコンを教えた3年目の時、自分がもっと彼女のスキルに寄り添ってあげていたら、今頃ZOOM会議など余裕でできていたに違いない。
いくつになっても、何をしていても諦めてはいけない。
自分の事も。
相手の事も。
それを教えてもらったと思う。
人生100年時代、体力が落ちる高齢者。
彼らこそが、自由になれるヒントがパソコンスキルだと思う。
相手を信じる事とは、自分を信じる事でもある。
また明日も一つ一つ学んでもらい、いいコミュニケーションを形成していきたいと思う。
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