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トランスジェンダー学生が健康診断で合理的配慮を受けた話

私は生まれたときに割り当てられた性別は女性で、日常生活では男性として過ごしているトランスジェンダーだ。現在は大学生である。

大学とは相談の上、「性同一性障害」の診断書無しで合理的配慮を受けている。(診断書なしというのはかなり先進的)

この記事では、入学後の第一関門である「健康診断」でトランスジェンダー学生が合理的配慮を受けた体験談について書く。誰かの一助になれば幸いだ。

《目次》
1 事前の準備
2 健康診断当日
3 医療における 性別の取り扱い
4 気づいたこと
5 アドバイス
6 感想

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1 事前の準備



健康診断を受けるにあたってまずはじめにしたことは、健康診断の日程調整だ。

大学には、女性枠ではなく男性枠で受けたいことを話した。
どの枠にするかは選ばせてもらえた。流石に知り合いと一緒には受けたくなかったので、全く関係ない学部、学年の枠で受けることにした。
本来の枠と異なる時間のためか、その時間の男子学生に混ざって受けるのではなく、開始の少し前の時間に受けることになった。

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2 健康診断当日


レントゲンがある場合は、無地のTシャツなどを中に一枚着ておいたほうがいい。

私は開始時間前に受けるため、職員に名前を伝え、すでに並んでいた学生を抜かしまくって中に入った。職員内で私の名前は共有されていたようだ。
ファストパスみたいでちょっと良かった。 

用紙を受け取り、健康診断を受けようとする。が、ここで問題発生

本来受ける枠での受付はすでに終わっているため、用紙のQRコードを読み込んでも「受付終了」と表示されるようだった。健康診断の項目ごとに受付を行うのだが、職員のなかで解除方法を知らない人が多かったため、何度か受付の職員が困る場面があった
また、用紙には「女性」と書かれているので困惑した様子の人もいたが気になるほどではなかった。
情報を知らされていないので仕方ないと思う。

尿検査に関しては、男子トイレを使用した。

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最も問題だったのは、レントゲン検査だ。
検査が始まる前に、学校の職員の方が医療関係者の方になにか耳打ちしていた。流れ的に、私の事情について話していたのだと思う。

「班長」という名札をつけた方に受付をしてもらったのだが、かなり時間がかかった。休憩中のレントゲン車両で検査してもらうことになった

なぜかというと、レントゲン車内では、待機スペースがありそこで薄手の服一枚になって順番待ちをする。
そのため、シスジェンダーの男子学生とは身体のかたちが異なる私がいると問題になるからだ

班長がわざわざ車両まで案内してくれた。VIP対応である。
班長が看護師に「性同一性障害の学生です」と話していた。それに対して、看護師の方は特に驚くこともなく「分かりました」と返事をしていた。

性同一性障害であることが分かっても他の配慮が必要な学生の扱いと同じように、当たり前のように「分かりました」と言ってくれたことがすごく安心した。
性同一性障害者は「障害」のカテゴリでいうと異質であるので、存在しないかのように扱われることが多い。だからこそ、驚いたり困惑したりせず、対応を行ってくれると私個人としてはすごく嬉しいのだ。

レントゲン検査を終えたあと、

看護師「性別どうしよう」
技師「男性でいいんじゃない」
看護師「いやでも…」


という会話が聞こえてきた。

「男性でいいんじゃない」という技師の方の私の性別を尊重してくれる発言に安心感を覚えた。医療において身体的な性別は重要だと思う。だからこそ、本当に身体的な性別である必要があるのかどうかを看護師の方が悩んでくれたのが嬉しかった
私的には、健康に関わることなので身体の性別で良いのではないかと思う。

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3 医療における性別の取り扱い



※話脱線します

私は医療に詳しくないが、医療現場において、性同一性障害の性別の取り扱いが複雑になることはなんとなくわかる。
なぜなら、女性と男性でどの病気や疾患になりやすいかは変わるし、男性特有、女性特有の病気も存在するからだ。

現在の医療現場では、保険証に記載されている「戸籍の性別」が「身体的な性別」として扱われている
その場合、戸籍の性別を変更した人々はどのように扱われるのか気になる。血液検査の結果は男性と女性で分かれている、そうしたときにどちらの項目を参考にすればよいのだろうか。

病院がセクシャリティに理解があるからといって、カルテに性自認(ジェンダーアイデンティティ)を「性別」として表記するわけにはいかない。たとえ、性自認を表記したとしても、別途、身体的な性別を記載する必要が出てくるだろう。
(海外では性別ではなく子宮の有無を聞くみたいな話をネットで見た)

診察券の性別欄廃止や問診票の性別欄に自由記入したりその他・選択しないを設けたり、廃止したりなどを行う病院はすでにあるため、カルテは難しくても患者の目につく性別欄を変更していくというのは充分可能だろう。

また、カルテに関しても、心の病を治すメンタルクリニック、心療内科等であれば、性自認(ジェンダーアイデンティティ)としての性別をカルテに記載しても問題はない
(経験してるので言い切れます。)

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4 気づいたこと

以上が、トランスジェンダー当事者が大学で健康診断を受けたときの体験談である。

学校職員と外部の医療関係者の間で、合理的配慮を受ける学生の対応に関する連絡が当日その場で行われるので、連携が取れていないと感じた。
また、性同一性障害の学生が希望する性別の枠で受診するということが想定されていない?ため、性別をどのように取り扱うのかその場にいる職員が各々判断を迫られていたように感じた。

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5 アドバイス

記事に書いたように、「自認する性別に基づいて健康診断を受ける」ことの成功モデルはすでにある。そのため、大学が「前例がないのでできない」と言うのは面倒事を増やしたくない、外部への情報収集を怠っているだけだと思う。

もし当事者の方が大学にそう言われたのであれば、具体的にどうしてほしいのか、配慮を受けられなかった場合どのような弊害が生まれるのか(当事者の不利益のみでなく、周囲に与える影響も行ったほうが良い。例えば、更衣・トイレの際に周囲の人に与える影響など)を伝えると良い。

根拠としては、文部科学省の「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応」(PDFが貼れなかったので報道発表)、全国大学生協連による「LGBT、性的マイノリティと大学の対応、学生の実状」を参考にすると良い。

大学の取り組みとしては、筑波大学の「LGBT等に関する筑波大学の基本理念と対応ガイドライン」、早稲田大学ダイバーシティ推進室の「セクシャルマイノリティ支援」などを参考にすると良い。

合理的配慮を受けることは、けっしてわがままではないことを理解してほしい。受けざるを得ない事情なあるから受けているのだ。
戸籍の性別で扱われることが「障害」になるほど耐え難い苦痛であることをわかってほしい。

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6 感想

以下、私が今回の健康診断で感じたことを書く。
一人称と口調が変わってるのは気にしないでほしい。

僕はやはりただの男性学生になれないのだなという疎外感があった。もちろん、周囲の人たちが配慮してくれるのは助かるけど、僕がトランスジェンダーじゃなかったらそもそも配慮受けなくていいのになと思った。健康診断もみんなと同じ身体だったら友達と一緒に受けられたのに。 
でも、高校の頃じゃ絶対に考えられない対応なのですごく恵まれているとは思う。でも、配慮を受けられることが「恵まれている」と考えてしまうこと自体、おかしいなとも思う。
 

僕が生きている間に、人と「違う」ことで引け目を感じなくていい社会になってほしい。 

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