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何が経験学習を促すのか?:仕事を楽しむことの効用

 職場での学びの70%は経験によるもの、20%はフィードバックなど他者とのやりとりによるもの、10%は研修によるものと言われています。経験からの学びをさらに深めるには、単に経験するだけではなく、経験をしたあとに振り返り、その経験から教訓や他のケースに応用できるような仮説を抽出し、次の経験で試す、「経験学習」を行うことが重要だと言われています。では、このような経験学習は何によって促されるのでしょうか?

仕事を楽しむことが経験学習を促す

 経験学習を促す要素の1つに、「仕事を楽しみ、ポジティブな感情で仕事をすること」が挙げられています(松尾 2017)。仕事に対するポジティブな感情は、高い生産性とも関係するフロー体験の特徴でもあると言われています。仕事を楽しみ、ポジティブな感情で仕事をする人は、仕事経験から得た教訓を次の仕事に応用しやすいと想定されています。
 実際に、仕事を楽しむことと経験学習、職場における能力向上の関係を検討したところ、以下のことが示唆されました。

①仕事を楽しむことは、職場で具体的な経験をすることと、経験を振り返り教訓をうみ出し次に活かすことを促す
②職場で具体的な経験をすることは、タフネスの向上につながる
③経験を振り返り教訓をうみ出し次に活かすことは、業務能力の向上と協働スキルの向上、タフネス向上につながる

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*図は池田ほか(2020)をもとに作成

 このように、仕事を楽しむことは経験学習をすることにつながると考えられます。ただし、仕事を楽しむことが、直接的に職場における能力向上に影響を与えているわけではないことから、単に仕事を楽しむだけでは、職場における能力向上は期待できず、経験学習がなされてはじめて日々の仕事へのポジティブな感情が職場における能力向上につながるのだと考えられます。

仕事を楽しむには?

 では、仕事を楽しむにはどうしたら良いのでしょうか?仕事を楽しむ方法には、①発達的ネットワークを育てること、②仕事に遊びを取り入れれること、の2つがあると筆者は考えます。

発達的ネットワークを育てる
 松尾(2017)は、仕事を楽しむことを活性化させる職場の特徴に発達的ネットワークがあることを挙げています発達的ネットワークとは、自身のキャリアに関心を示し、支援してくれる多様な人々とのつながりのことです。
 仕事が常に楽しいという状況は、どんなに仕事が好きな人にとっても難しいことかと思います。例えば、仕事で失敗した時などは、仕事の楽しさに目を向けられないかもしれません。けれども、発達的ネットワークを持ち、良い結果が出ていない時にも、上司や同僚から自分の小さな成長や上手にできている箇所へのフィードバックを受けることができれば、仕事に対してポジティブな感情を維持できるかもしれません。

②仕事に遊びを取り入れれる
 仕事に遊びを取り入れることもまた、仕事を楽しむことにつながる可能性があります。職場の遊びについては、以下の記事などに詳しくまとめられていますが、例えば、個人が、退屈な仕事をゲームに見立てて同僚と競うこと、プライベートで好きなこと・やりたいことを社内起業で行ってみることは、仕事を楽しむことにつながるかもしれません。また、職場で雑談などをもっと楽しめるように社内にカフェスペースを設けることや、交流を促すためにレクを行うことも、仕事の楽しさを活性化させる可能性があります。

まとめ
・仕事を楽しむことは経験学習を促す
・ただし、単に仕事を楽しむだけでは、職場における能力向上は期待できず、経験学習がなされてはじめて日々の仕事へのポジティブな感情が職場における能力向上につながる
・仕事を楽しむ方法には、①発達的ネットワークを育てること、②仕事に遊びを取り入れれることの2つがある

この記事は、日本教育工学会第36回全国大会での報告をもとにしています。

(山内研と株式会社マイナビの共同研究です)

参考文献
・松尾睦 (2017) 第10章 OJTとマネジャーによる育成行動. 中原淳(編)人材開発研究大全.東京大学出版会.東京



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