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地域内と地域外、2つの視点で考える場 めぐるめ倶楽部、新潟で初開催

新潟駅南口直結の複合商業ビル・プラーカ新潟2の2階にあるITイノベーション拠点施設「NIINO(ニーノ)」。2020年にオープンした同施設には、7社ほどの企業オフィスのほか、コワーキングスペースや会議室、カフェなどが併設されています。

今回、新潟最大級のイノベーションのイベントである“NINNO INNOVATION WEEK 2023”のプログラムとして「めぐるめ倶楽部in新潟」を実施しました。

『めぐるめ倶楽部』とは…食の生産・加工に取り組むチャレンジャーの「めぐる芽(試作品)」をもとに、様々なバックグランドのクリエイターが、消費/生産の枠を超えて、食の未来に想いを巡らせる共創型共有会です。チャレンジャーが持ち寄る食材や商品を「めぐる芽」と呼び、参加者へ「問い」を投げかけることで活動をブラッシュアップする場となります。

今回登壇していただいた新潟の地域ならではのチャレンジャーの発表と、熱い議論となった「めぐるめ倶楽部」の様子をお伝えします。


 その土地ならでは、が見えてくる『産産官学』

“NINNO INNOVATION WEEK 2023”の主催者の石川翔太さん

最初に登場したのは、今回の“NINNO INNOVATION WEEK 2023”の主催者の石川翔太さん。めぐるめ倶楽部をNIINOで開催するにあたっての思いを語りました。

 石川さんはNIINOのプロデュースを担い、オープンした2020年に東京から新潟に移住しています。30年ずっと東京で暮らしていた石川さんが、新潟に来て受けた、ある衝撃を共有してくれました。

「土地への愛がすごいことに衝撃を受けました。東京で『東京のために!』って言っている人はほとんどいないけれど、新潟で出会う人たちは『新潟のために』って仕事をしている人が多かったんです。町中に『愛してる新潟』とか書いてあるんですよ。東京で『I LOVE TOKYO』を掲げているのは、観光客くらいですよね(笑)」

新潟の豊かさと、それを愛する人々との出会い。これをきっかけに、石川さんは土地が持つパワーを感じたと話します。そして、それは日本全国の眠れる資産である、とも。企業が「なぜその土地でビジネスをするのか」を突き詰めていくと、土地ごとの魅力がもっと出てくる、と語りました。

地域の魅力発掘のなかで、石川さんが提唱しているのが『産産官学』という考え方。ひとつの『産』は地元の企業、もうひとつの『産』は地域外の企業を表しており、それらが融合することでその土地になかった発想や動きが生まれてくる、というものです。

 “イノベーション”というと、さまざまなハードルがあると思われがちですが、石川さんが目指しているのは「どんな地域でも真似ができる、土地ごとの魅力づくり」。そのためにも、地域の中と外が混ざり合う『産産官学』のなかで、イノベーションを生んでいこうとしています。

「まさに、めぐるめ倶楽部は発散や拡散する場。きっと地域内外それぞれの人が、何かを気づくことができるのではないかと思っています」

 【チャレンジャー①】後期高齢者もおいしく食べられるアイス

 「僕たちは“360万人”という数字に着目をしています」

1人目のチャレンジャー、株式会社LacuSの古津瑛陸さんが示した「360万人」という数字は、低栄養状態に陥っているとされる75歳以上の後期高齢者の推計です。低栄養状態の高齢者は、認知症や健康障害が起こりやすくなり、そこから要介護や寿命短縮にもつながると言われています。

そこで、開発されたのが高齢者向け完全栄養アイス「ME ICE(ミーアイス)」です。古津さんの99歳の曽祖母が固形物を食べられなくなり、ミキサー食になったことをきっかけに、「“とる”に寄り添うアイス。」として誕生しました。

「曽祖母の食事は、あまり美味しそうではない上に、厚生労働省が定める栄養素の接種基準を継続して上回ることが難しいという現状がありました。『ME ICE』は、まだ試作段階ではありますが、各栄養素を100%充足するように開発しており、食欲不振や摂食嚥下障害などの課題を持つ後期高齢者に向けたアイスクリームとなっています。ぜひプレゼンを聴きながら食べてください。」

 そう古津さんに促されて、実際に会場で配られた「ME ICE」を食べた参加者が驚いたのは、その味。「高齢者向け」「完全栄養食」のイメージを覆す、しっかりと甘さがついたバニラアイスクリームでした。

 「栄養食はおいしくないとイメージされる方が多いのですが、実際に食べていただくとわかるとおり、アイスクリームとしてのクオリティも高く開発を進めています。胃に穴を開けたり、点滴したりではなく、最後の最後まで口から食事を楽しむことができたら、というのが僕たちの願いです。固形物や量が食べられない方々にとっての幸せなプロダクトについて、今日はみなさんとお話しできればと考えております」

【ディスカッション①】高齢者と家族の目線になって考える

めぐるめ倶楽部では、各チャレンジャーが持っている課題を「問い」として参加者に投げかけます。今回の参加者は、農家さんなどの生産者から、デザイナー、編集者などのクリエイティブ職、そして飲食店経営者など幅広い方々が集まりました。

今回、古津さんからの「問い」は、ふたつ。

 1、後期高齢者や家族などの介護者に、「ME ICE」を届けるためにはどうすればいいか?
2、今後、アイス以外にどのような食品があったら、課題を解決できるか?

各チームに分かれて議論を進め、それぞれのチームで出た案を発表するスタイルです。普段は目を向けることの少ない高齢者の暮らしや嚥下障害についてを考えながら、「高齢者だったら、もっと量が少なくても十分なのでは?」「冷たいアイスクリームは飲み込みやすいので、トレーニングにもなりそう」など、各チームで参加者が食べた感想などを出し合いました。

高齢者や介護者にアイスを届ける方法として、各チームから出たアイディアの一部をご共有します。

「介護士を目指す学生に向けてアプローチしてはどうか」
「山奥には、行商との会話を楽しんでいる高齢者がまだいる。届く時にコミュニケーションが生まれるような仕組みがあればいいかもしれない」
「後期高齢者の場合、家族がモバイルオーダーすることが多いのでは。家族が使いやすいインターフェイスにすることも大切だと思った」

そのほか、銭湯やクリニックなど高齢者の利用が多い施設で販売する、高齢者の家族が定期的に目を通しそうなオウンドメディアを作るなど、さまざまなアイディアが出ました。家族みんなで食べられるセット販売、ギフトやお歳暮、すでにある高齢者向けのサブスクリプション型のお弁当配達などと提携する、という実現できそうなアイディアも。

また、今後アイス以外で商品開発できそうなもののアイディアでは、レトルトカレーやゼリー、味噌汁などの飲み込みやすいものが中心に発表されました。一方で、「高級なものやジャンキーなものも食べたくなるのでは」という考えから、アルコール入りのアイスクリームや、揚げ物や大トロを食べやすくするなど変わったアイディアも共有されました。ディスカッションにも参加していた古津さんからは「今後の事業のなかで実際に活用していきたい」との声をいただきました。

【チャレンジャー②】小さな里山文化を、日本酒にこめて

続いて登壇したのは、今回2人目のチャレンジャー、株式会社U・STYLEの松浦柊太朗さんです。新潟県新潟市のデザイン会社「U・STYLE」は、“地域”をキーワードにした活動を通し、これまで見過ごされてきたものに価値を見出すデザインに取り組んでいます。

今回、松浦さんが問いとともに持参したのは、日本酒「MANDOBA」。新潟県上越市にある「安塚」という地域の里山で、松浦さんたちが稲作から酒造りまで挑戦した商品です。酵母無添加、栽培中の農薬や化学肥料不使用など、自然に寄り添った方法で作られた日本酒には、松浦さんたちの「里山を未来につなぐ」という想いが込められています。

「里山は、人が自然に寄り添って暮らしながら作り上げてきた地域です。豊かな自然風景や季節のめぐりを感じられる場所ですが、一方で少子高齢化、担い手不足、耕作放棄地、里山の荒廃などの課題も多くあります。このままでは、自然と共にある里山文化そのものが消滅してしまうのでは、という危機感を覚えています」

里山を未来につなぐため、松浦さんは地域ブランド「里山BOTANICAL」を立ち上げ、麹チーズケーキ、野山のボタニカル茶などの商品を開発してきました。そのなかで新たなプロジェクトとして生まれたのが、日本酒「MANDOBA」です。

 

「MANDOBAの目的はふたつです。まずは、お酒を通して地域を知ってもらい、関わる人を増やすこと。もうひとつが、自然と共生し続けること。こういった姿勢が地域内外の人たちに伝わっていくようなことができたらいいな、と思っています」

小さな里山をつなぐ起点となる日本酒「MANDOBA」。その活用方法はこれから模索していくといいます。その中で下記の「問い」が出てきました。

日本酒を起点に、里山に人・自然・経済の幸せな循環をどう作れるだろうか?

 松浦さんの問いに対して、参加者の議論が始まります。

【ディスカッション②】里山の幸せな循環をつくるには

「お酒が好きな人たちが安塚に集える仕組みがあるといいですよね。宿があれば、地域の食材も使いながら、滞在時間も長くなり地域が潤っていくのではないでしょうか。あとは地域ならではの体験とセットにできれば……」

自然の循環ってなんだろう、お酒を通して人をつなぐってどうすればいいんだろう。お酒を飲みながら、参加者自身が訪れたことのない里山の未来について真剣に考える時間は、めぐるめ倶楽部だからこそ。松浦さんのプレゼンに応えるべく、それぞれの知見や視点を持ち寄る議論がなされました。

こちらでも、各チームから出た意見の一部をお伝えします。

「お金の動きに注目して議論しました。クラウドファンディングやオーナー制度を取り入れて、売上をどのように使っているのかが購入者にもわかる仕組みがあるとおもしろいのでは。ふるさと納税のように、お金の使い道を決められるとか」

「とろっとした味わいが、海外や若い人に合うお酒だと感じました。例えば、地域でボトルを購入すると行くことができる飲み屋があったり、田植えなどのイベントに参加できたりなど、地域に遊びに行くことができるようになれば人が集まってくるのではないでしょうか」

「お酒にまつわる全てを体験できるオーベルジュ(宿泊施設を備えたレストラン)があるといいんじゃないか、という意見がありました。ファン作りについてもいろいろアイディアが出ましたが、おもしろいなと思ったのは『地域に来てもらって手渡しが条件の、年に一度のサブスク購入』ですね」

それぞれの発表を経て、「U・STYLE」で一緒に事業に取り組む松浦さんから感想をいただきました。

「この里山での取り組みは、数年前に小さく始めたものです。それが今日の場でみなさんに一緒に考えていただいていること自体が、里山を起点としたコミュニティのつながりや、イノベーションにつながっているのかなと思っています。ありがとうございました」

「出会い・集い・めぐる」を生み出す倶楽部

最後に、参加者からも今回のめぐるめ倶楽部へ参加してみた感想をいただきました。

「今回のプログラムは、最初に石川さんから話があったとおりの『産産官学』の場だったな、と感じています。各テーブルのなかに、新潟の人もいれば、東京の人もいる。また、チャレンジャーのことを話しながらも、きっと参加者側の仕事のヒントになることもたくさんあったと思います。それぞれが自分たちの仕事や暮らしに活かしていくことができる時間でした」

めぐるめ倶楽部は、地域のチャレンジャーを応援し、彼らと人々をつなぐことをメインの目的としています。チャレンジャーはもちろん、このイベントを通じて出会えた多様なメンバーで議論できたことが価値になったと感じました。
今回の繋がりから、また新しい価値が生まれてくる可能性を感じました。

今後も、食の専門知識を持っている方だけではなく、さまざまな地域、仕事に関わる方々が出会い・集い・めぐることができる場所を、めぐるめくプロジェクトで作っていきたいと思っています。

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めぐるめくプロジェクトは、日本全国の地域との共創・連携を模索していきます。ご興味をもっていただいた方は、公式サイトもぜひ覗いてみてください。
イベント情報や最新の取組みについても今後更新予定です。

めぐるめくプロジェクトについて

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