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日本の食卓会議2023 穂の国めぐるツアーレポート

2023年11月20日、「日本の食卓会議2023」のスペシャルイベントとして 、開催地域である愛知県東三河のプレイヤーのもとをめぐる「穂の国めぐるツアー」が行われました。温暖な気候や豊かな自然に恵まれ、農業や工業などさまざまな産業が盛んな東三河。今回のツアーでは、先進的な農場・道の駅 ・前掛けのメーカーのもとを訪れました。

飲食店シェフ・クリエイター・設計デザイナー・メディア・ 他地域からの行政職員 など、総勢約20名が参加した本ツアー。地域の新たなチャレンジを実際に見学・体験した1日の 様子をレポートします。


訪問先① イノチオファーム豊橋

一行が最初にバスで向かったのは、イノチオみらい株式会社が運営する「イノチオファーム豊橋」。栽培施設面積3.6ヘクタールの広大な土地で、ミニトマトを生産・出荷している太陽光利用型植物工場です。徹底した管理により、1年中休むことなくミニトマトを生産できる仕組みになっており、国際標準「グローバルGAP認証」を7年間連続で取得しています。

工場内を案内してくれたのは、生産部長の荒木真志さんです。ミニトマトをどのように管理しているのか、なぜ年中出荷することができるのかなど、丁寧に説明していただきながら、工場内をまわりました。

「サッカーコート5つ分の敷地を3つの区画に分けてリレー栽培しているため、1年を通してミニトマトを出荷し続けることができます。現在、年間平均550トンほどの出荷量です。安定してミニトマトを届けることができるため、大型のスーパーからも欠品しなくて済むと喜ばれています」

< お客様からの嬉しい声も、しっかりとスタッフに伝えるそうです。>

農林水産省の補助事業として、イノチオファーム豊橋には「化石燃料使用量の削減」というミッションがあると、荒木さんは話します。 削減のための試行錯誤の結果、従来から重油の使用量を46%も削減することに成功しているそうです。

「暖房の入れ方などを工夫するほか、使用した水を浄化するときに発生する熱を再利用して温室の補助暖房とする取り組みもしています。また、ミニトマトのパックは95%植物由来のもの、ダンボールは森林認証制度(FSC認証)にこだわって採用しました。もちろんコストはかかりますが、覚悟を決めて取り組みましょう、と」

数々の取り組みが評価され、イノチオファーム豊橋は、豊橋商工会議所の第11回環境経営賞において「最優秀賞」を受賞しています。

< 生鮮ミニトマトとしては初の機能性食品も。荒木さん自身も、健康のためにこのミニトマトを食べ続けているそうです。>

実際に今の時期稼働しているハウスを見せていただくと、 1.4ヘクタールのハウスの隅々にまで ミニトマトが栽培されています 。目に見えるだけでも大量のミニトマトを管理するための工夫や、実際に商品化して販売していく際の苦労なども教えてもらいました。

< 一画あたり1.4ヘクタールの温室。1年間で12メートルほど茎が伸びるそうです。>
< 「きらひめ」という名前で販売している珍しいミニトマト。栽培開始から販売まで5年かかったそうです >

「今の課題は、『植物 残渣』と呼ばれる廃棄物です。収穫のために刈り取った葉や、収穫後の茎などの活用方法を模索しています」

落ちてしまったトマトは 洗浄して、粉末として活用してくれる会社に引き取ってもらったり、地元の動物園に餌として寄付したり、どうにか無駄にならない方法を考えていると話す荒木さん。参加者からは、「自分たちの地域でも、農家さんたちから農業廃棄物の課題を聞くことがある」という声も上がりました。

訪問先② 道の駅とよはし

続いて向かったのは、「道の駅とよはし」です。 店内を見て回りたい気持ちをおさえ、 株式会社道の駅とよはしの吉開仁紀さん、冨永百衣子さん、岡本理菜さんから、お話を伺います。

「道の駅とよはしは、2019年に開駅しました。現在は、年間224万人の方にご利用いただいています。本来は休憩所の意味合いが強い道の駅ですが、私たちは地元の魅力を発信するための場所として、ここで何ができるのかを日々考えています」

魅力発信の観点で、道の駅とよはしでは400名を超える地域の生産者の野菜販売はもちろん、生産者とコラボレーションした商品開発、自社でプライベートブランドや飲食部門も展開しています。

< 地元の名産とコラボレーションしたビールや、自社農園で栽培したサツマイモを加工したお菓子などを販売。>

「川下の販売だけでなく、川上の開発から担うのが、道の駅とよはしのスタイルです」

また、「道の駅とよはし通信」という紙媒体も制作。地元の農家さんのインタビューや、ここでしか買えない商品を掲載し、地域内外の人々とのコミュニケーションを図っているそうです。

生産者やお客さんとの新たなコミュニケーションの場となっているのが、8月にオープンした「Me POPCORN」です。「Me=自分らしく」をコンセプトにしたポップコーンのお店で、なんとポップコーンの"フレーバー" "サイズ" "豆の形" を自分好みに選び注文する ことができます。味も、塩やキャラメルはもちろん、青のりやカレーといった変わり種、季節限定のフレーバーなど「自分なりに選んでいく が楽しいポップコーン屋さん」です。

< ツアーでは、実際にポップコーンとなる種のトウモロコシを芯から外す工程も体験しました。>

キャラメル味を試食させてもらうと、一粒一粒にキャラメルがしっかりと絡んで食べ応えのあるポップコーン。自由時間では、作りたてポップコーンを購入する参加者もいました。夏には、同じく「自分らしいオーダー」ができるジュースの販売も検討しているそう。これまでの既成概念にこだわらない取組みを進めていく 道の駅とよはし を知って、参加者もたくさんお土産を購入していました。

訪問先③ 有限会社エニシング

陽が傾き始めた夕方、最後に訪れたのは日本伝統着「帆前掛け」のメーカー「有限会社エニシング」の工場です。まずは、2023年に新設されたばかりのパブリックラボのなかで、豊橋ラボラトリー担当の菊池佐知さんに会社についてのお話を伺います。

前掛けは、もともと骨盤を固定し身体を守ったり、服を傷つけないようにつけられていたもので、歴史は15世紀にまで遡るといいます。屋号を染め抜いて広告や名刺のような役割も担うようになっていったのは、江戸時代のことです。食関連、特に日本の発酵文化との相性が良く、酒蔵や酒屋、醤油、味噌などの生産現場や店先で使われてきました。

「漢字Tシャツの販売会社だった弊社が“前掛け”に出会ったのは2004年です。前掛けの職人の方々にお会いしたことをきっかけに、大きく方向転換をして、自らも前掛けのメーカーとして工場を持つことになりました」

当時移設した織機のなかには、トヨタグループ創設者の豊田佐吉さんが開発した日本最古の織機もあり、現在でもエニシングの工場で稼働しています。100年以上も前の織機をメンテナンスしながら使い続けているのです。工場内に移動し、工場長の影山幸範さんに実際に織機を動かすところを見せてもらいました。

「ここでは、10台の織機をひとつのモーターで動かす『集団駆動』というシステムを採用しています。織機ごとにモーターを設置するよりもスピードは落ちるものの、消費電力は低いため、サスティナブルの観点でも注目されている方法です。また、シャトルを使った織機のいいところは、空気の層が入りやすく、厚くてやわらかい、温かみのある生地になりやすいところ。他のやり方が悪いわけじゃなく、同じ織物でもまったく違うものだと捉えていただけたらと思います」

< 10台並ぶ織機を囲む形で見学。天井のモーターからベルトでつながれた織機がカシャンカシャンと動く様子は圧巻です。>
< 105年の歴史がある豊田社の織機。8時間で、1台当たり50メートルほど織れるそうです>

エニシングでは、技術を継承しながら、後継者育成や時代に沿った運営、研究開発にも力を入れていくことを目標にしています。その動きのひとつが、BtoCや海外展開など販路の拡大です。また、メーカーである強みを活かして、新しい布を作り出す開発にも取り組んでいます。

< ジブリ映画のアイコンがプリントされた前掛けを、ジブリミュージアムで販売。2009年からニューヨークやロンドンなどの展示会にも参加し続けています。>
< コロナ禍に職人たちが開発した新しい布「縁布(エニフ)」。お客さんに横糸を選んでもらうことができるコラボレーション商品です。>

最後に、菊池さんより「エニシングの活動は、前掛けをとおして、国や業界の垣根を超えて前掛け の価値を見出していくことです。縁(えにし)を大切にしながら、織物業界全体のつながりも盛り上げていきたい」と想いを話していただきました。

日本各地の“人と物”が集まる「めぐるグルメ」

ツアーを終えた参加者を待っていたのは、「めぐるグルメ」ディナー。全国にある、めぐるめくの連携地域拠点である ローカルハブにまつわる産品を集め、食のクリエイティブプロダクション「TETOTETO」がアレンジした一夜限りのディナーです。

食事の前に、TETOTETOの井上豪希さんからメニューの説明がありました。ここでは、いくつかメニューの一部をご紹介します。

・豊橋の名産である「濱納豆」という発酵調味料やベリーを使ったソースが絡んだ、ローストビーフ、ローストポーク
・めぐるめくで出会った生産者さんの東京野菜を使った甘酢炒め
・新潟県の有限会社寿々瀧が作る「越後バーニャカウダ」を使ったグラタン風
・生産量日本一の豊橋のうずらの卵を使った煮卵
・TETOTETOオリジナルりんごバターに生ハムをのせて
・「九州パンケーキ」で作ったケークサレ
                      …などなど盛りだくさん!

また、めぐるめくプロジェクトでは、さまざまな「お酒」のプレイヤーとの出会いもありました。今回、日本各地から集まった飲み物の数々は、まさに“一堂に会す”という表現がぴったり。

t0ki brewery (トキブルワリー)のクラフトビール
新潟県佐渡市で作られる、アメリカンスタイルのクラフトビールです。常に進化し続ける時ブルワリーのビールは、とにかくフレッシュ。今回は、IPAとブロンドエールの2種類を持参いただきました。

野沢温泉蒸留所のクラフトジン
長野県野沢温泉の素材を生かしたクラフトジンを作る野沢温泉蒸留所。2023年4月に開催された国際的な酒類品評会「The San Francisco World Spirits Competition 2023(SFWSC 2023)」において、金賞を受賞した3種をご用意。
→野沢温泉蒸留所をたずねた食卓会議のようすはこちら

積丹スピリットのクラフトジン
北海道積丹町でボタニカルを育て、クラフトジンにしている積丹スピリットのシリーズ「火の帆(ほのほ)」。今回、積丹ブルーの海をイメージした「KIBOU BLUE」と、1本あたり100円が植樹につながる「UMI」の2本を持ってきていただきました。
→積丹スピリットを訪ねた食卓会議のようすはこちら

伊東株式会社の日本酒
愛知県半田市の酒蔵・伊東家 9 代目が復活させた銘酒「敷嶋」。今回の会場では、純米大吟醸と、東三河の地で採れた「夢山水」という酒米を使った特別純米無濾過生原酒を楽しむことができました。

haccobaのクラフトサケ
福島県南相馬市で、ジャンルの垣根を超えた自由な酒造りをおこなうhaccoba。幻のどぶろく製法と、ビールの技法ドライホップをかけ合わせた「はなうたホップス」と、野沢温泉蒸留所のボタニカルのカスをお米と一緒に発酵させたクラフトサケも用意していただきました。
→haccobaの佐藤さんが参加してくださった食卓会議のようすはこちら

稲とアガベのクラフトサケ
秋田県男鹿市のクラフトサケ蒸留所として、まちづくりにも取り組む稲とアガベ。今回、めぐるめくがきっかけでコラボレーションが叶った宮崎県の日向夏を使った限定種をお持ちいただきました。
 
TETOTETOプロデュースのノンアルケミスト
アルコールを一切使わず、食材の組み合わせのみでワインやカクテルのような味わいを実現した「ノンアルケミスト」。料理とのペアリングを追求した香りで、お酒が飲めない方でも一緒の食卓で楽しめます。

最後に、中部ガス不動産株式会社代表取締役社長の赤間真吾さんの発声で、いよいよ乾杯です。
 
「私はもともと豊橋の人間ではありませんが、外の視点があるからこその豊橋や東三河の魅力の伝え方ができてきたと感じています。今回は、さらに日本中からいらっしゃったみなさまと、さまざまなコラボレーションやお互いの気づきがあればいいなと期待しています」

< 後半には、 “パンケーキおじさん”こと村岡さんが 、九州パンケーキを焼いてふるまってくれました。>

短い時間ではありましたが、日本全国から集まった人々が交流しながら食事をする光景は、まさに「日本の食卓会議」と言えるものだったと思います。そして、その景色に感慨深さを覚えていたのは、事務局だけではなかったことが最後にわかりました。株式会社一平ホールディングス代表取締役社長の村岡浩司さんからの締めの挨拶です。

「ちょうど1年前、めぐるめくプロジェクトの最初の集まりを宮崎だけで小さくやったんです。それが1年経って、こんなすごい会になるとは思ってなかった。いや、広瀬 さんだけは最初からここを目指していたのかもしれないけど(笑)。ここにいる人たちは、これからもっとすごいことになる『めぐるめくプロジェクト』の生き証人。まだまだ続けていけるように、盛り上げていきましょう!」

最後は、「お疲れ様、ありがとう、これからもよろしく」の意味を込めて、3本締めで終了。翌日の大イベント「めぐるめく日本の食卓会議」を前に、 たくさんの方々との交流が 生まれた夜となりました。

(翌日の「日本の食卓会議2023」のようすは、こちらでレポートしています。)

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