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欲しい未来は自分たちの手でつくる 積丹食卓会議レポート

北海道西部に鋭く突き出た形が特徴の積丹半島は、約200万年前に火山活動によって創られました。そして、その隆起した海底の岩肌までが見えるような、透き通った海の美しさから、積丹の海は「シャコタンブルー」と呼ばれています。積丹の語源はアイヌ語で、シャクとコタンの二語を合わせたもの。シャクは夏、コタンは村または郷土のことで、シャクコタン(ShakKotan)夏場所という意味をもっています。
 
今回は、そんな歴史深く自然豊かな積丹の町で、積丹産のボタニカルをふんだんに使ったジンの蒸留所・積丹スピリットを中心にフィールドツアーを行いました。

食卓会議とは…地域へのフィールドツアーや交流会を通じて、地域間の学び合いを生み出すプログラムです。地域内だけではなく、地域外からの多様なプレイヤーの関わりが、地域内に新たな食と農のチャレンジを生み出す循環につながることを目指しています。

雄大な自然と壮大な歴史……神威(カムイ)岬の伝説

千歳空港から約2時間半。積丹町に到着して最初に訪れたのは神威岬。神威(kamui)という名称は、神(kami)を意味するアイヌ語を意味します。屹立する岸壁の雄々しさ、沿道の草花の美しさ、日本海の荒々しさ。どの景色を切り取っても気高く美しく、積丹を代表する観光地と言っても過言ではありません。

積丹の海にまつわる伝説や歴史はいくつも語り継がれています。
 
一番有名な伝説は『神威岩伝説』です。その昔、源義経が蝦夷の地へ逃げ延びた際に、アイヌの娘チャレンカと出会い恋に落ちました。しかし、追っ手を振り払うため再度航海の旅に出てしまいます。チャレンカは必死で追いかけ神威岬までたどり着くも時すでに遅し。悲しみにくれたチャレンカは、恨みの言葉を残し海に身を投げ、その身体はその後神威岩と化したと言われています。以来、女性を乗せた船が沖合を通ると遭難する事故が相次ぎ、女人禁制の地となったのもその頃と言い伝えられています。

「常に強風が吹きざらし波が高く、日本海最大の難所と呼ばれる神威岬は、人の手が入ることも少なく、様々な野生の植物が自生しており自然の多様性が守られています」地域おこし協力隊としてこの地に住む小山さんは言います。
 
荘厳な環境下だからこそ植生が保たれている積丹の生態系の豊かさを体感し、次のフィールドへと向かいます。

共に感じ、共に学び、共に楽しむ。官民一体で取り組む『海森計画』

神威岬で荘厳な自然を体感したあとは、『海森計画』の拠点として今年4月にオープンしたばかりの『海森スタジオ』で交流を深めます。
 
『海森計画』とは、ボタニカルの栽培を自社農園で栽培している積丹スピリットが主催となって進める積丹町の地方創生プロジェクト。大切にしたい自然を未来に繋ぐため、積丹の「海の碧と森の緑」をフィールドに、2022年のスタートから新たな町の商品開発などの活動をしています。豊かな食や風土、地域の暮らしの魅力を共に感じ、共に学び、共に楽しむプロジェクトです。

「積丹は山・海・川がとても近い。現在、海側はウニの漁獲量が日本一で有名ですが、もっと山側の活用をして積丹という地域の価値をあげていきたい」
 
そう話すのは、積丹スピリットでボタニカル生産とジン製造を一手に任されている岩崎秀威さんです。
 
「積丹スピリットは2015年に地方創生事業の一貫として生まれました。地域資源の活用やビジネスの創出を目的に始まったのですが、そういう意味ではジンはもってこいのプロダクトです。広大な積丹の地だからこその味わいであるボタニカルを栽培し、それを加工した技術を味で評価してもらえるので、やりがいもあって痺れます」

種類によって事細かにボタニカルのブレンドを調整しており、その繊細な味わいは造り手の力量にかかっています。
 
「華やかな香りで美味しい」「植物それぞれの特徴がしっかり出ていて個性的」
 
試飲した参加者から、次々と驚きの声があがります。翌日は、その味わいの全てを担う岩崎さんに蒸留所を案内していただきました。

0.1を1にする技量と熱量

積丹スピリットの自社農園は、元々牧場だった遊休跡地に、馬を放って土壌を耕す手法で農園の基盤をつくり、現在は100種類以上のボタニカルを栽培しています。

「0.1を1にする。僕の仕事はそこにあると思っています。よく0→1と言われるけど僕は0なんて存在しないと思っているんですよね。必ず何か最初の種は先人だったり地球がすでに育んでいるものだから。例えば、僕はボタニカルを育てているけど、その種を自分でつくっているわけではない。自然の恵みや恩恵を受けて、ジンというプロダクトをつくっています」

農園を後にして、次に向かったのは蒸溜所です。栽培したボタニカルの特性ごとに加工や保存、植物の持つ香りを最大限に引き出す蒸溜を研究しています。それがプロダクトの個性を引き出すことに繋がっているのです。

「ジンの面白いところは答えのないところです。模型などは完成のゴールがあるけど、ジンの”美味しい”はどこにあるのかは、決めることはできるけどゴールがあるわけではない。地域の歴史や特徴を、何種類ものボタニカルの香りと風味で表現するわけです。そこが難しくありつつもジンづくりの醍醐味だなと思っています」
 
岩崎さんのジンにかける想いと、心からそれを楽しんでいる様子に触れることのできたフィールドツアーでした。

地域外からの参加者と、積丹の地で活躍する方々のトークセッション

午後からは、フィールドツアー訪問メンバーと積丹で活動している方々のチャレンジを互いにシェアし、交流する『食卓会議』です。会場は1日目にも訪れた『海森スタジオ』。鰊漁の時代に使われていた石蔵を改修した趣のある建物です。

地域外のメンバー・トーク

金楠水産株式会社・四代目樟陽介さん/兵庫県明石市 

「百年タコを茹で続けた男たちの『究極の茹でタコ』を味わって欲しい」というクラウドファンディングページで話題となった金楠水産。
 
「海外で目に余るタコの乱獲の実態や、日本での漁獲量の減少など危機感を感じながらもタコのポテンシャルを誰よりも感じています。1人でも多くの人に『本当に美味しいタコを味わってほしい』という想いで、タコの素晴らしさを広める活動を様々なアプローチで取り組んでいます」

稲とアガベ株式会社・齋藤 翔太さん/秋田県男鹿市

「稲とアガベ」は秋田県男鹿市で2021年の秋に創業したクラフトサケ醸造所です。「クラフトサケ」とは、日本酒の製造技術をベースとしたお酒、または、そこに副原料を入れることで新しい味わいを目指した新ジャンルのお酒です。
 
「私たちは、ただお酒をつくりたいわけではありません。お酒造りには地域の方々との交流を通じて、男鹿という土地を理解することが欠かせません。それには、お酒造りにとどまらず、多くの人々がワクワクするような事業を創出し続けることが必要です。そのために企業や団体とコラボレーションし、どんどん男鹿という地域を醸していきたいと思っています」

株式会社Earth Friends Camp・絹張 蝦夷丸さん/北海道上川町

上川町に地域おこし協力隊として移住し、現在はアウトドアのプロデューサーやコワーキングスペース『PORTO』の運営、ナチュラル精製のコーヒー豆を専門に扱う『キヌバリコーヒー』を立ち上げるなど精力的に活動されている絹張さん。
 
「ただただ、『今自分たちが暮らしている町をよくしていきたい』という衝動のような想いだけで、自分たちがやりたいこと、欲しいものをつくり続けてきました。そして最近、衝動的にビルを購入。『ANSHINDOプロジェクト』と名付けていろいろな人に助けてもらっています。自分も役割をしっかり担って、地域と自然や暮らしとつながる複合施設としてこのプロジェクトを進めていきます」

積丹のメンバー・トーク

地域おこし協力隊・小山彩由里さん

「森と海はつながっている」という発想のもと、2022年に積丹スピリット主催でスタートした『SHAKOTAN海森計画』。小山さんはこのプロジェクトを担当しており、植樹などを通じて一緒に森と海の関係などを学ぶイベントなども実施しています。
 
「いかに豊かな自然を持続させ、その恵みを享受しながら地域を活性化できるかが課題になるなか、地域の人たちだけでなく、地元外から共感・応援してくれる企業や人の力を借りて、積丹の魅力を発信していきたいと思っています」

積丹町役場水産業指導員 水鳥純雄さん

水鳥さんは北海道庁を退職後、地域おこし協力隊として積丹町で勤務。若手漁業者らによる藻場造成を中心とした取り組みを先導しており「積丹方式」と呼ばれるモデルもつくりあげています。手作りのかぶり物でチャーミングに登場する水鳥さんに会場でも笑みがこぼれていました。
 
「『積丹方式』は、藻場造成をはじめ、これまで廃棄されていたウニ殻を藻場の栄養に再利用するモデル。環境負荷軽減にも貢献するこの取り組みが全国に広がって欲しいという思いで、プロジェクトの内容は全て開示しています」

株式会社デリシャスフロム HAKKO GINGER 前田伸一さん

オーストラリアで日本食レストランを立ち上げ、シェフとして暮らす中でジンジャービアに出会った前田さん。帰国後ニセコにて、日本初となる国産有機ジンジャービア醸造所を立ち上げられました。
 
「帰国のタイミングは2011年の震災でした。日本で何かできることはないかと考えた時に『ジンジャービアだ!』と。しかし国内ではジンジャービアを製造しているところが一軒もなかったので、自分でつくろうと思いました。とにかく材料にはこだわっています。有機農家を訪ね歩き、納得のいく農家と契約した食材を使用しています」

「自分たちだけでは成し得ないことも、仲間と助け合いながらつくっていくことが大切」
「ものづくりにかける想いと熱量に刺激を受けた」
など、食卓会議を終えたあとにもお互いの活動を通してエネルギーの交換があちこちで行われていました。

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(めぐるめくWEBサイト)

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